第14話 ドミス大暴走
「う……ウソでしょ。本当に喜んでるみたい……。ドミスの言った通りってこと?」
「なんて観察力でしょう! さすがはBランク冒険者様ですね!」
「フフっ、偶然さ」
照れてんじゃねぇよドミス。
他じゃこうはいかねぇからな。
「『ガイドポスト・レイ』をゴーストみたいに喜ぶ。この子の名前はゴーストいぬに決定」
「待てフラシア。犬ではないだろう、どう見ても」
「じゃあ猫?」
「うぅむ……どことなく似ているが、こいつは目が二つしかないし口も小さい。全然違う生き物だ」
「じゃあやっぱり犬」
「いや、しかし触手が生えていないぞ」
ローラとフラシアはどうでもいいことを話している。
『犬』も『猫』も地球のとは姿が全然違うからなぁ。
名前が同じなのは、シルエットと習性に共通点があって、たまたま人に懐いた生き物を、大昔の転生者がそう呼び始めたから、らしい……いやマジでどうでもいいわ。
つーかスゥンリャは鑑定してるんだから種族名くらい分かるんじゃねぇのか?
見れるのはステータスだけなのかな。
「はっはっは、犬か。いいねぇフラシア。テイムはできなくても、この魔獣を犬みたいに手なずけることができれば……希望が見えてくるかもしれないよ!」
「手なずけるぅ!?」
悲鳴のように驚くスゥンリャの気持ちが良くわかった。
ドミス、お前暴走してねぇか?
「そんな事が可能なのか」
「ムリムリ、本物の犬だってそんな簡単にはいかないわよ!」
「そうかい? 何も芸を仕込もうってんじゃないんだ。これだけ強力な魔獣だよ、アタシたちに懐かせることさえできれば、それだけで何よりの魔獣避けになるじゃないか。安全を確保して、時間をかけて治療ができるなら、全員が万全の状態で脱出を目指せる。アタシたちが揉める理由も無くなるねぇ」
そうかい? じゃねーよ。
子供のように都合の良いことばっかり言いやがって。
お前本当に経験豊富な高ランク冒険者か? 実は闘技場上がりのEランクだったりしないだろうな。
「す、素晴らしいですドミスさん! 私、何度でも『ガイドポスト・レイ』を撃ちます!」
「わたしはお姉ちゃんの魔力タンク」
ほんわか姉妹はイヤに乗り気だ。力こぶポーズでやる気をアピールしていやがる。
「ちょ、ちょちょちょっと待って! あんた達、この魔獣がどんだけのステータスか知ってて言ってるの!? あのブンンブン振っている尻尾が当たっただけでこっちは挽肉になんのよ! 危険過ぎるって!」
「当たらなければ大丈夫さ。あの魔獣はアタシたちを攻撃しないんだからね」
「いやいやいや、魔獣を信じるっていうの!? バカ言わないで、そんな簡単にいくならテイマー技能なんて必要ないわ! 無謀よ!」
「スゥンリャ、確かにこれは賭けさ。アタシだって自分でも馬鹿げてると思うよ。でも現実に、こうしている今もアタシたちは襲われてないんだ。普通の魔獣だったらこんな事があり得るかい?」
俺にドミスをとやかく言う資格ねぇなコレ。
ごめんな。
「この魔獣は普通じゃない。初めに遭遇した時も含めれば二度も襲わなかった事になるんだ。勝算はありそうだと思わないかい?」
「いや……でも……!」
「落ち着け、スゥンリャ。確かに、我々が考えていたどの案よりもマシだ。危険でも試す価値はある」
「ローラ……」
「ドミス、具体的にはどうするつもりだ? まさかテイマーのスキルで行うつもりではあるまい」
「犬と一緒さ。『ガイドポスト・レイ』をエサ代わりにしてとにかく遊ぶ。もしも『お手』ができたら、大成功だね」
「……あまりにも楽観的だと思うが。貴様は上手くいくと思うのか?」
「ま、さっきも言ったけど芸は無理だろうねぇ。でもそうやって遊んでやるだけでも、懐かせることはできるかもしれない。アタシの仮説が当たってれば、だけど」
「そうか」
ローラが覚悟の表情で「……私がやってみよう」と言った。
「我が家では犬を飼っていてな。躾をするのは昔から私の役目だった。任せろ」
「……何言ってんだい。一歩間違えば食われるんだ。言い出しっぺのアタシがやるに決まってるじゃないか」
「ダメだ」
「いや駄目って、アンタ」
「ドミス、貴様の機転は脱出に不可欠だ。スゥンリャの索敵能力も、神官2人の魔法もな。……業腹だが、我々の中で最も価値が低いのはこの私だ。つまりここは、私の役割だ」
「ローラ……」
ちょっと意外だった。
ローラがその辺を理解しているのもそうだが、はっきり口に出したのも驚きだ。
騎士っつーのは貴族だ。飯よりもプライドを食って満足するような連中だ。冒険者や神官よりも劣っているなんて、そうそう認められるものじゃないはずなんだが。
これで下がれというのは、彼女を侮辱するのと一緒だな。
有無を言わさずってわけだ。
ドミスが深くため息を吐いた。
「……わかったよ。アンタに任せる」
「それでいい。神官、この槍に『ガイドポスト・レイ』を宿せるか」
「もちろんです!」
「死にそうになったら、風魔法でこっちまで運んであげてもいい」
「……あたしが指笛鳴らしたら、何が何でも逃げなさいよ!?」
「馬鹿を言うな。その場合はまず貴様らが逃げろ」
マジでやるの?
短槍の穂先に桃色の光を灯したローラが、殉教者のような面持ちで向かって来る。
対する俺は、仰向けに寝転がり、マタタビ嗅いでラリったかの如く地面に頭を擦りつけている。
「この光を見ろ、魔獣! 私が『お手』と言ったらこの槍に触るんだ。前足でな……!」
真剣なとこ悪ぃんだけどさ。
馬鹿みてぇな絵面じゃないか? これ。
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