第13話 どう考えてもイカれた生態をした魔獣・白虎


「あの魔獣について何か分かったって、本当なの、ドミス!」


「ああ、仮説だけどねぇ」



 そう言いつつ、ドミスは自信満々に見える。

 もしこれで俺のことを「中身はオッサンの転生者なんだ!」って言い当てたら……怖っ。

 自分で考えて震えるわ。



「レイシア、悪いけどまた『ガイドポスト・レイ』を撃ってみてくれないかい? あの魔獣の目の前辺りにさ」


「それは構いませんが……もう効かないというお話では?」


「ちょっと確かめたいことがあるんだよ」



 すぐさま呪文が詠唱され、桃色の光がこっちに飛んでくる。

 

 寝そべる俺の前にある地面が淡く発光した。


 …………。

 ……?


 ……なにこれ……。


 ドミスが期待に満ちた視線を送ってくる。

 いやどうしろってんだよ。



「尻尾の動きが止まったようだが」


「やっぱり、引っかかってるねぇ。ということは、アタシの予想通りってわけだ」



 俺の気持ちはスゥンリャが代弁してくれた。

 「どういうことなの?」



「いいかい、さっきの戦いで、あの魔獣はアタシたちに反撃をしてこなかった。おかしな話じゃないかい? ゴブリンのことは問答無用で殺しまくってたのにさ。アタシらの攻撃だけは黙って受けるなんて」


「……ふむ、確かにな。特に私と貴様はヤツの懐に入ったのだ。爪も牙も間合いの内だった。だがヤツはそれを振るわなかった……」


「確かに私も不思議でした。ドミスさんは、偶然ではないとお考えなのですね」


「ああ。反撃しなかったのは、する必要が無かったからだと思う。たぶん、戦っているつもりさえなかったんだ。奴にとって、アタシらは文字通り敵じゃあなかったのさ。魔獣は人間と違って、体にたかる羽虫をいちいち相手にしない。そうだろ、スゥンリャ」


「……呪怨魔法は? あやうく死ぬところだったでしょ」


「あれも、よく考えると攻撃にしちゃ変さ。アタシたちを殺すのに呪いなんて手間は必要ないんだからね」


「でも、実際に撃って来たじゃない!」


「アタシ達に向けたんじゃ無いとしたら、どうだい」


「ええ?」


「案外、ただ遊んでいただけかもしれないよ? アタシたちなんてもともと眼中に無くて、その辺の木に魔法を撃って遊んでいたのかもしれない。あれも、思い返すと破壊的な呪いじゃなかったしねぇ。……それに、あの魔獣が遊んでいたんなら、『ガイドポスト・レイ』を見た後の反応も納得がいく。興味を惹かれたんだ、ってね」


「興味、ですか? 洗脳されたのではなく?」


「ああ。スゥンリャのテイムを弾いた以上、精神系の攻撃に耐性が無いってアタシの仮説は間違いだったことになる。じゃあ、なんで引っかかったのか……」



 お前らを助けたいからだよ。



「なるほどな。それで興味か」


「未発見の新種ってことは、普段はもっと森の奥に住んでるんだ。ゴブリンはともかく、人間なんて見たことないはずさ。もちろん、レイシアの使う『人神』の祝福魔法だって初見だろう。……魔法を誘引する魔法。あれに興味が湧いたのをきっかけにして、人間を遊び相手と認識した。……無いと思うかい」


 

 無いだろ。


 スゥンリャたちも顔を見合わせて微妙そうだ。

 めちゃくちゃな事言ってるもんなぁ。

 

 だが……それでいい。

 今俺が一番欲しいのは理屈だ。無理筋でも、彼女たちが納得するきっかけにさえなれば何だっていい。


 こんなチャンスは逃せねぇ。

 乗ってやろうじゃねぇか。

 このご都合主義ビッグウェーブに!



「ガウッガウッ! ゴロロロォン!」



 俺は体をくねらせ、ハァハァと息を弾ませながら肉球で桃色の地面を撫で回し、ベロベロと舐めたりした。


 もちろん全く楽しくない。


 だが、事実なんてどうでもいい。白虎というのはそういう生き物なのだ。

 テイムを仕掛けると甘えだし、『人神』の祝福魔法『ガイドポスト・レイ』が大好きで、それらを使う人間にもの凄く懐く。冒険者にとって夢のように都合が良い魔獣がこの俺だ。


 ……彼女たちが生きて帰ったら、ギルドの図鑑にそうやって記載されんのかなぁ。


 すいません、神様。こんな眷属で。



 いや? でもよく考えたらゴースト用の魔法が効くのは意外とアリか? 

 冥府の神様の眷属なんだしな。


 俺は出来るだけ思考に没頭して、己の醜態から目を背けるように努めた。


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