第5話 喋れない白虎と怯える人間
ゴブリンに捕らわれていた人間の女たち。
ずいぶんと多い。200人くらいはいるか? 全員素っ裸で、大なり小なり怪我を負っている。無事な奴は一人もいない。
体つきからして、ほとんどが開拓村の村娘って感じだ。
冒険者っぽい筋肉をしているのもいるが、ほんの数人しかいない。
鎖に繋がれていたように見えたんだが、今は見当たらないな。魔法で用意されたものだったんだろう。術者が俺に殺されたから、魔法が解けたわけだ。
彼女らはとっくに自由の身なのに、全員がその場で身を寄せ合い、動こうとしない。
……逃げ惑うゴブリンを俺が率先して殺していたからだろうか。
動くモノから攻撃されると思ってんのかな?
ありそうだ。
今も、じっと見つめる俺に恐怖して逃げだそうとした者を、他の奴が留めているしな。
「ひぃぃっ」
「見てる、こっち見てるぅっ!」
「動いちゃダメ!」
「声は小さく! いいかい、できる限り目を逸らすんじゃないよ。怖くても見返すんだ!」
「うぅううう!」
「やだやだやだ!」
……あれ。
つーか、俺って人間の言葉が分かるのか。
考えてみりゃ、思考回路はポンゾのままだしな。前世の記憶もハッキリしている。別に変な話じゃあないか。
「グゥルァウウウ」
「きゃあああ!」
「助けてぇ!」
ひょっとしたらこっちからも喋れんじゃねぇかと思って、「こんにちは」と言ってみたが、不気味な唸り声が出ただけだった。
そりゃそうか。
口の形とかまるで違うしな。
あくまでも人間なのは中身だけってわけだ。
「く、来るかっ!? このバケモノめ! 私が相手になるぞ!」
「バカ! 動いちゃダメだって言ってるだろ!?」
「だが、このままでは……」
ぶるぶる震える人間たち。
……正直、旨そうに見えたらどうしようかと思ってたんだが、とりあえずそっちの心配は無さそうだな。こうして見ていても、この体になってから芽生えた狩猟本能が刺激されない。
むしろ、親近感が湧くぐらいだ。どう頑張っても食えそうにない。
「みんな、ゆっくり、ゆっくり下がるんだよ。心配しなくても大丈夫だからね」
「人神様がきっと守ってくださいます」
「適当な事を言うな! 紛い物の神など今当てになるか!」
にしても、どうすっかなぁこいつら……。
放っておけば間違いなく全滅だよな。この森は魔獣の支配する土地、冒険領域なのだ。丸腰の人間が生還出来るほど甘い世界じゃない。
かといって助けるか?
今の俺がポンゾだったら……見なかったことにして立ち去っていただろうな。
英雄気取りでしゃしゃり出ても、やれることなんてありゃしねぇ。むしろ、巻き添えで死ぬのが目に見えている。
だが。
そこでふと思った。
……白虎としての俺ならどうだろう、と。
200人の村娘を冒険領域から無事に生きて返す。それは万年Eランクの雑魚には到底果たせない、偉業だ。
ポンゾには絶対に無理だろう。
でも、白虎の力があればどうだ?
……うーん。
彼女たちが開拓村の村民なら、森そのものには慣れているよな……。普段から食材や薬草の採取をしているはずだし、サバイバルの知識に問題はないはずだ。
となると、問題なのはやっぱり魔獣か。
普通の森とは違って、冒険領域には人間を見りゃご馳走だと思って飛びかかってくる化け物がウヨウヨしてる。それが何より危険なわけだ。
魔獣が彼女たちを襲いに来たとして、俺に守りきれるのかどうか。
実力って意味なら大丈夫だ。少なくとも、ゴブリンキングレベルなら1000体来ようが秒殺できる。
だが俺の体は一つだ。大量の敵に囲まれたら……。
いや、何も受け身でいる必要はねぇか。鼻を使えば数十キロ離れた所にいる奴も見つけられるんだ。近づかれる前に始末すりゃあいい。いざとなれば魔法もある。殺して回るだけなら何とでもなるはずだ。
魔獣にさえ襲われなければ……いけるか?
そっから先はどっちかって言うと彼女たち次第か。
そうだな。魔獣から守るくらいならやってみてもいいかもな。
どっちにしろ狩りはするんだ。そのついでだと思えばいい。
ちょっと、やってみるか。
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