第4話 ゴブリン狩ってたら人間に出くわした
冥府で肉体を与えられ、この森に移されてから2時間くらい経っただろうか。
走る速さや跳躍力、食えるものや食えないもの。五感の感覚。白虎という生き物の性能に関しては大体分かってきた。
当たり前だが、生前のポンゾとは比較にならない。前世、地球で虎だった頃と比べても圧倒的だ。
自分が生み出したクレーターの中から這い上がりつつ、そう思う。
この化け物じみた身体能力は、神様から与えられたスキル『冥神の寵愛』に由来しているようだ。
『冥神が手ずから製造した肉体を持っている』
馬鹿げた力を発揮する時は、いつもこのスキルに魔力を食われている感覚があった。
ゴブリンどもの槍や剣を毛皮で防いだ時も発動していたから、どうも俺が能動的に使用する、というよりは必要に応じて勝手に強化される、という仕組みらしい。
一応、クレーターを作った時みたいに、自分で強化の倍率を上げることはできるみたいだけどな。
一緒に貰った他二つのスキルのうち、『加護』についてはよくわからねぇ。頭に浮かぶ内容をうまく読み取れないし、魔力を食わせてみても反応がない。感触的には、俺が元々持っていた『自意識過剰』のような、常時発動型のスキルだと思うんだが……。
もう一方の『祝福』は、聞いたことがある。
『神が手ずから製造した魔法を持っている』
つまり魔法を授かるスキルなのだ。
そんなに珍しいものじゃない。生前出会った神官の半分くらいはこのスキルを覚えていた。『回復』『結界』の基本2魔法に加えて、信仰する神様ごとに特殊な魔法を覚えられる。
俺の場合は『冥火』『冥氷』『冥鉄』の3つだ。
ゴブリンと戦う前にちらっと使ってみたんだが、かなり派手で効果も面白かった。
まあ、戦うだけなら爪と牙で充分なんだけどな。
むしろ魔法なんて使いたくないくらいだ。
獲物をねじ伏せて肉を引き裂く感触。口いっぱいに広がる血の味。仕留めた時の充実感と楽しさは、人間として剣を振るっていた時とは比べものにならねぇ。
……あー、思い出したらまた狩りたくなってきやがった。
たった今、ゴブリンを1000匹も殺したばっかりなのに……いや、やり方が悪かったな。一瞬で消し炭にするのは力を実感する意味じゃ気持ちいいけど、狩猟への欲求は満たされない。
いっそのこと、辺りの魔獣どもを皆殺しにしてやるかな?
連中が減れば、それだけ開拓村の人間たちが救われる。冒険領域の開拓も捗るってもんだろう。
いやでも、冒険者の食い扶持を奪っちまうか。
調子良くそんなことを考えながら、鼻を使って次の獲物を探す。
白虎パンチでデカいクレーターを作っちまったせいで、俺の近くには虫一匹居ない。だが、この森は果てしなく広い。数キロも離れれば魔獣はいくらでもいるはずだ。
案の定、そう遠くない場所に魔獣の群れを見つけた。
気持ちの悪い臭いからしてまたゴブリンだ。というか、もしかしてさっき殺した連中の巣か? 距離的にはそうでもおかしくない。
金属で武装したゴブリンが、小さなゴブリンや人間の女と思われる匂いを誘導している。洞穴っぽい場所からゾロゾロ出てきているな。そこが巣だろう。
何でか今は大急ぎで引っ越ししてるみたいだが。
いや……ひょっとしてアレか。
俺から逃げてんのか?
ありえる。
今の俺は、かなり強大な魔獣だ。
ゴブリンくらい多芸なら、かなり距離があっても存在を探知できるかもしれねぇ。
つーか、さっきのハイゴブリンたちは、巣にいる者たちを逃がすための時間稼ぎだったんじゃ?
そう考えると、勝ち目は皆無だったのにヤツらが逃げなかった理由にもなる。
幼い子ゴブリンや苗床の女を守るための決死隊だったわけだ。
……違うか。
子ゴブリンはともかく、奴らに攫って来た女を大切にする意識なんざあるわけねぇよな。
ありゃあ守ってるんじゃなく、現在進行形で誘拐されてるんだ。
辺境じゃよくあることだが……いい気はしねぇな、やっぱ。
さっさと殺しに行くか。
体を深く沈める。
筋肉に力を溜めると、頭の奥で熱が回る。『冥神の寵愛』が魔力を食っているのだ。スキルが発動し、常識では考えられないような膂力が四肢に宿った。
匂いの元に向かって地面を蹴る。
景色が高速で流れて行く。
背の高い樹木を飛び越え、10キロほどあった距離もひとっ跳びだ。1秒もかからない。
肉球を使って衝撃を殺しながら着地した。
それでも地面が軽く揺れ、土煙が上がる。
「ギャガ!?」
派手に降り立った俺の目の前で、怪物のようなゴブリンが素っ頓狂な声を上げた。
でかい。
体高が俺の倍、3メートルくらいある。他のゴブリンとは比べものにならないほど分厚い体。冠にも見える歪な形の五本角。オリハルコンと思しき鎧。背中の巨剣は青いオーラで包まれていて、明らかに魔法が込められた魔剣だった。
あの角、間違いない。こいつがゴブリンキングだろう。
数十種類確認されているゴブリン種の頂点。
人間の領域に現れればAランクパーティーの出番で、戦いの内容が英雄譚として歴史に刻まれるという。
まさに特級のバケモノだ。生で見られるとは、ちょっと感動だな。
「ギギ……」
俺の登場は予想外だったんだろう。
ヤツは驚いた顔をしていたが、そこは討伐難易度Aの魔獣だ。瞬時に緩みが消える。
「グギィゴォ!」
汚ぇ声を上げながら、早速襲いかかって来やがった。
さすがに動きが速い。太刀筋も見事だ。
そういえば、さっきは上位種のゴブリンとはまともに戦わなかったなぁ。
全力で殴れば一撃で倒せるだろう。でも、少し試してみた方がいいか。
首への斬撃を逸らし、肩で受ける。『冥神の寵愛』をアテにした防御だ。流石に少しはダメージがあるだろう、と思ったんだが、叩きつけられた奴の魔剣はアザすら作れずに砕け散った。
返す刀で前足を振るう。
ゴブリンキングは反応さえ出来ていない。柄だけになった魔剣を唖然と見つめたまま、あっさり爆散しやがった。良い装備を身につけていた王の護衛たちも余波で粉々だ。
……なんだこれ。一撃で終わっちまったぞ?
ホブゴブリンとほとんど手応えが変わらねぇじゃねぇか。
いや、使った魔力の量はこっちの方が多かったか? にしたってちょっとの差だ。
「ゴルルルル……」
笑えてくるぜ。
討伐難易度Aだぞ。生前の俺が1000人いても勝ち目の無い相手だぞ。
どんだけ強えんだよ、この身体。
ああ……たまんねぇよなぁ。
もっと試してぇ。
昂ぶってきた気持ちのまま、次に移る。
獲物であるゴブリン共は、最も強い王と最精鋭の戦士たちを瞬殺されたのが信じられないようで、全員あんぐりと口を開けていやがる。
唖然としたマヌケ面は、俺が次のハイゴブリンの頭を噛み砕いた瞬間に絶望へ変わった。
指導者を失ったせいか、ジェネラルもウィザードもナイトも散り散りに逃げようと、無様に悲鳴を上げながら走り始める。
もちろん逃がすつもりはねぇ。
俺は上位個体の強いヤツから順番に、一匹ずつなぶり殺していった。
首を食い千切り、内蔵を引きずり出し、あえて肉球で押しつぶす。
幼いゴブリン共も容赦はしない。
見た目的には可愛らしいと言えるし、泣き叫んだり命乞いのような動きをするヤツも居るが、全部無視だ。3日もありゃホブゴブリンに進化して女を犯すようになるんだからな。全く心は傷まない。むしろ善いことした気分だ。
500匹はいただろうゴブリンだが、急がずやっても殺しきるのに30分かからなかった。ホブゴブリン以下のヤツなんて毛皮が擦れただけで死ぬからな。後半はホコリを払うようなもんだった。
辺りはすっかり血の海だ。
実に清々しい。
腹も満たされ、狩猟欲も発散できた。
一石二鳥ってのはこういうのを言うんだな。満足満足。
それで次に行けりゃあ良かったんだが……。
「つ、次はウチらだ!」
「助けて、助けて、助けて……」
「みんな落ち着きな! 絶対に動くんじゃないよ!」
その場には真っ青な顔で俺を見つめる、ゴブリンに捕らえられていた人間の女達が残されていた。
………………どうしよう。
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