俺主催のデスゲームなのに俺以外の殺意が高すぎる

かなぶん

俺主催のデスゲームなのに俺以外の殺意が高すぎる

 余命半年――……。

 急な宣告に、世界屈指の富豪である兼保かねもちすぐるは打ちひしがれた。

 半生を振り返っても、有り余る金がある以外は特にコレといったことのない人生。

 ソレが悪かったのか、何なのか。

 不意に彼の脳裏にある計画が浮かぶ。

 太古の権力者は、その死の道連れに生きた人間を選んだという。

 ……ならば。

 どうせもうすぐ死ぬ身、一つくらい、爪痕を世間に残してやろう。


 主人の仄暗い笑みに、忠実な執事と従者たちは唯々諾々と付き従う。


 そうして用意された舞台は、島が一つ。

 集められたのは、老若男女が三十人。

 出自も人種も異なる彼らを画面越しに眺めた優は、命を蝕む咳に苦しみながらも、血の滲む唇を笑ませて水を一口。

 整えては、マイクを通して第一声を会場に響かせる――


 はずだった。


* * *


「……おい、どうなっているんだ、これは!!?」

 よくあるデスゲームよろしく、正体不明の主催者を装う為の面を、思いっきり床に叩きつけた優は、途端に咳き込む身体を支えた執事に喰ってかかる。

 血飛沫と共に怒号を受けた執事・犬野いぬのは、細い目で参加者たちが映っているはずの画面を見るのだが……。


 そこにあったのは、立ち上る煙と、その合間から覗く、誰のモノとも知れない血だまりと肉塊。


 犬野が選別した哀れな犠牲者候補たちは、優の第一声を待たず、画面越し、半数近くがすでに事切れていた。

 異常事態を起こす前の異常事態に、優共々、犬野含めた五人の忠実な従者たちも狼狽えるばかり。その内に、犬野の娘であるメイドの子々ねねが、会場からの音声を聞き集めて優へ伝えた。


「どうやらこの人たち、全員が全員、お互いに恨みを持っていたようです!」


 そんな馬鹿な……!

 主催者側全員がそう思っている内にも、画面越しの話は進んでおり――


* * *


 父の仇、母に代わって、妹のために、兄さんを帰せ、弟が待っているんだ、お前なんか姉じゃない、友だちだと思っていたのに、彼はどこ、彼女は死んだよ――


 理由は様々に、好き勝手に殺り合う地獄絵図。

 何が引き金かと言えば、紛れていた凄腕のハッカーとやらが、ここがデスゲームの舞台だと知ったことが発端となったらしい。


 曰く、ここで”コイツ”を殺っても、全部主催者のせいにできる――と。


 冗談じゃない、とは優の言葉。

 自分でやったことならいざ知らず、他人のやったことを押しつけられてたまるか。

 こうなったら、まだ生き残っている奴ら全員、このまま生き残らせて、きっちり落とし前つけさせてやる!

 黙っていても瀕死の身体に鞭を打ち、デスゲームから一転、生存者を生き残らせる計画へと練り直していく。


 だが……。


 すっかり後手に回ったその場限りの計画が、長年培われた怨念の如き無数の殺意を覆せるはずもない。

「がはっ!」

「優様!!?」

 消耗し切っていた心身を更に摩耗させた行為は、優の死期を早めさせ、誰とも知れない腕の中で、悲痛に名を呼ばれながら優はその一生を閉じる――


 はずだった。


* * *


 次に目が覚めた時、優はデスゲームが始まる当日の朝日に包まれていた。

 病魔とは別の、ドクドク脈打つ心音に、夢とは思えない感触を覚えたなら、その耳に甘く柔らかい声が届く。


 ――ずいぶんと面白いことをやっていたね。

   短い間だったけど楽しかったよ。

   でも、もう少し見てみたいかも。

   そうだ、もし全員生き残らせることができたら……その時は。


   君の寿命を先延ばしにしてあげてもいい。


   だからそれまで、精々励んでくれたまえ。

   繰り返す生に、君の気力が殺がれるまで。


   しばらくは楽しませてくれよ、主催者君――


 それは、死に際して目を閉じ、朝に目覚める間で聞いた、何者かの声だった。

 一方的に結ばれた、破棄も許されぬ約定の音。


 かくして、デスゲーム主催者は、全員生存の道を模索することになる。

 果たせば延びる寿命のため?――いいや違う。

 人の企みに便乗しようとしたヤツらが、しくじり悔しがる様を見るために。

 それだけを糧に、病に冒された身体で、優は健康体の殺意どもに挑み続ける。


「素晴らしい! 貴方は神だ! 神を讃えるための贄を捧げん!」

「優様……優様のためなら私、誰でも殺ってみせます!」


 ――時に想定外の思想にも翻弄されながら、繰り返す時を邁進する。


 精も根も尽き果てる時が来るまで。

 あるいは、全てを生存させる道を切り開く、その時まで。

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