私とご主人

@AM0829

第1話 前世

「起きて!」

その人声に、私、佐藤奏斗は起こされた。

「奏斗! 朝食できたよ」

そう声を掛けたのは今同棲中の私の彼女、早紀だった。

早紀に起こされた私は、朝食の食パンをいちごジャムをつけて食べた。

「いつも朝食ありがとうね。 本当に助かってるよ。 早起きとか苦手だからさ、早紀が家に来るまでよく抜いてたよ。」

そういうと早紀はこう答えた。

「いいんだよ別に。 彼女なんだしさ。 でも、自力で起きれるようになりなよ? これから先、何があるかわからないんだしさ。」

そう言う早紀を見て、私はこの子が彼女でよかったなと思える。健気で面倒見の良い早紀。自分にはもったいないくらいだった。

そして仕事の準備し、彼女に呼びかけた。

「いってきます」

そう言い、返事がくる。

「いってらっしゃい! 気を付けてね!」

その声を聞いて私は、ドアノブに力を入れて外に出た。

歩いて、朝の通勤ラッシュの波に呑まれながら電車に乗って、また歩く。


会社に着いてすぐ、パソコンと対面した私は早速仕事に取り掛かる。

ときどき、隣の席のにいる後輩の山下と雑談を交わしながら作業を進めた。

そろそろ、お昼の12時を回り、仕事をしていた自分の手を止める。


仕事の休憩中、私は自販機のコーヒーを飲みながら新聞を見ていた。

オフィスで一人足を組みながら、眺めていると、とあるものが目に留まった。

「へぇー、『連続殺人犯逃亡中』か。 物騒な世の中だな。」

そう言い、私はコーヒーを一口含む。すると後ろから声が聞こえた。

「おーい! 奏斗、一緒に飯食べようぜ。」

そう声を掛けてきたのは私の同僚の田中だった。彼は私の手にしている新聞を覗いてきた。

「あ、それ知ってるぜ。 物騒な世の中だよな。 しかも俺らの会社の近くじゃん。  お前気をつけろよ?」

「そっちもな」

そう言って食堂に行くために席を立った。

食堂で私は、焼きそばを食べて仕事に戻った。

そして自分の席についてまた、パソコンとの睨めっこが始まる。


仕事が終わって、田中を飲みに誘ったが「仕事が残ってる」と断わられたため、一人で帰ることにした。

帰り道、自分と同じ社会人の波に呑まれ、歩いていく。いつものように歩いて、満員電車に乗って、また歩く。私の家付近は人通りが少なく、夜に人はあまり通らない。その油断からか、田中からの「また飲みに今度行こうぜ」というメッセージを歩きスマホをしながら返信してしまった。いけないとはわかってはいるがこの辺ならいいだろうとなめてしまった。ここを右に曲がれば家の前だというとき、いきなり目の前に強く、自分を囲むような光が現れた。前を見ると、大型トラックだった。大型トラックが、突っ込んできた。(あ、死ぬ)と、直感で感じとった。そうしてそ、後ろに吹き飛ばされ、近くの電柱に頭を強打し、走馬灯のようなものが頭に流れた。友達や同僚と遊んだこと、彼女の早紀と過ごした記憶。それらが一気に流れた後に思う。

(もう少し生きたかった。 この人達ともっと一緒に過ごしたかった。)

そうしてあっけなく私の人生は終わりを迎えた。

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