ナッツドーナッツ
藤泉都理
ナッツドーナッツ
お盆が近づくにつれて、憂鬱な気分になる。
先祖が里帰りするからだ。
今年も実力を図るべく無茶な課題を出されるのだろうと思うと、逃亡の選択肢しか思いつかず、結界師たるべく結界で身を隠したのだが、あっさりと先祖に結界を破られた。
激しく落ち込んだ。
あんなに修行と思考と実践を積み重ねたのに、あんな、あんなにあっさりと。
しかも、やはり無茶な課題が先祖から出された。
台風を結界で封じて消滅させろと言うのだ。
あんなでかいの無理ですやん。
言ったら、問答無用で台風の上空に連れて行かれたばかりか、落とすぞと脅された。
他の先祖はみんな優しいのに、どうして私の先祖だけこんなに冷酷無比なのか。
ブラックホールへと投げ出されて、私という存在が消えかけようとしたその最中。
ぷっつん。
頭の血管と忍耐のねじねじ紐が断ち切られた。その瞬間。
台風にも負けずとも劣らぬ勢いで一気に不平不満をぶちまけ、ると。
ナッツをふんだんに入れたドーナッツをご褒美にあげるから頑張れ。
先祖は無表情のままそう言うや否や、私を離した。
刹那、台風の中へと真っ逆さまに落ちて行く私の脳裏には、いつか先祖が作ってくれたまんまるいナッツふんだん入りの豆腐ドーナッツが過った。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言うが。
先祖はいつまで実力を試すつもりなのか。
え?死ぬまで?
え?今死んだらもうこの苦痛から逃れられるって?
「実力試しを死ぬまでするなんて、そんな事は言わない。拙者がもう大丈夫だと思うまでだ」
「………」
「まだ大丈夫ではなさそうなので、来年も来る。課題に合格できなかったが、まあ、去年よりは力がついたようなので、褒美はやる。ナッツドーナッツだ。これを食べて、また励みなさい」
「………」
台風を結界で囲んで消滅できなかったが、私という存在も台風の中で消滅しなかったので、また頑張るしかないそうです。
「………美味しくないのか?」
「美味しいですよ」
こんちくしょう!!!
(2023.8.10)
ナッツドーナッツ 藤泉都理 @fujitori
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