第2話 仲間
あぁ、ええと、俺は今まで何をしてたんだっけ。重い思考を放棄して、今はただ寝ていたい。少し疲れてしまった。
「え、うわ……なにこれ、棺桶?」
声。しばらくすると女の声が聞こえてきた。視界は真っ暗で確認する気にもならない。コツ、コツと足音が近づいてくる。
「お、これだけ蓋が空いてるっぽい」
突然視界が光に包まれた。暖かい、懐かしい気持ちになる光。目を細める。意識の覚醒とともに、光が薄れて視界がはっきりしていく。
「……人?」
目が合った。相手と綺麗に声が重なる。
短く揃った茶髪。薄汚れた灰色のパーカー。人に安心感を与える目。背はそれなりに高く、女性にしては筋肉質だ。
棺桶から起き上がる。誰だ。どこから来た。
「あれ?」
腰に銃を提げている。が、その銃には見覚えがあった。
「君は誰?なんでこんな中に入ってたの?」
「え、いや、なんでだろ」
聞きたいことを先回りされてしどろもどろになる。
「なんでって……自分でもわからないの?」
「起きたらこの中にいた」
「あはは。なにそれ、面白いね」
あまり本気にとらえられてないらしい。自分でも意味が分からない。
「君こそ、なんでこんなところに?」
「うん?うーん、人探しかな」
「人探し……?」
街は崩壊していて、誰かいるとは思えなかった。まだ他にも人がいるのだろうか。
「うん。男の人なんだけどね。背は私と同じくらいで、イケおじって感じの人。見かけなかった?」
男。そう聞いてさっきの出来事を思い出す。あの男の仲間だろうか?一気に危機感を持つが、動きには出さない。
「いや、見てないな」
「そっかぁ、ここにはいないのかな。じゃあ他行くかぁ」
「あ、待って」
「うん?」
もう、一人は嫌だ。
「俺も、一緒に行っていいかな?」
今初めて会ったのに何を言っているんだろう。棺桶の中にいた得体のしれない男。いいなんて言われるわけがない。それでも、乞うてしまった。もう、耐えられなかった。
「いいよぉ」
「……え?」
予想外だった。上ヶ谷にとっては一番嬉しいことだったが、ここまで二つ返事で了承されるとは思わなかった。
「いいの?」
「この世界は物騒だからねぇ。仲間はいればいるほど心強いよ」
「そっか、ありがとう」
そうして、ビルを出るため階段を下りていく――。
「――は?」
ビルの入口。そこには怪物がいた。なぜ。殺したはず。銃で殺しきれていなかったとしても、あの時男に切り刻まれていたはず。
「ありゃりゃ、なんかいるねぇ。来た時はいなかったんだけど、仕方ない」
そう言って、腰の銃を取りだす。
「お、おい。そいつは相当危険だぞ」
「大丈夫大丈夫。見てて」
怪物がこちらを標的にして近づいてくる。女は上ヶ谷の前に立つと、怪物の頭に向かって銃を撃った。怪物は思った通り爪で銃弾を弾く。その一瞬生まれた隙に、女は銃を1回転させ、次弾を装填。走って近づき足にもう一発撃ちこんだ。怪物の体勢が崩れる。既に女は怪物の目の前まで来ていた。
「よっと」
そんな緩い声とともに怪物の頭に殴りを入れた。無抵抗に一撃を食らった怪物は、そのままビルの壁まで吹き飛んでいった。
「え、えぇ?」
あまりにも不可解な光景を目の前に、思わず間抜けな声が漏れた。
「ふぅ、ね?大丈夫だったでしょ?」
「あ、あぁ。え?何今の」
「いやぁ、私他の人より力が強いんだよねぇ」
「他の人よりって言葉でここまで差がある人初めて見たよ」
「やめてよ、女の子に強い強いって。なんか恥ずかしいなぁ」
「いや、助かったよ。ほんとに。ありがとう」
「それならよかったよ。あ、そういえば」
「うん?」
「名前、忘れてたね。私は
「あぁ、俺の名前は上ヶ谷巳嗣。よろしく」
「みつぐかぁ。珍しい名前だね。どんな漢字なの?」
「えっと、十二支のへびの巳に、嗣は……なんて言えばいいんだろ」
そんな会話を交わしながら廃れた街を歩きだした。
気が付けば世紀末 ちくわぶ太郎 @tikiwabu-3ka7
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