追放された悪役令嬢を幸せにしたい

@aiueo10

追放された悪役令嬢を幸せにしたい

 俺––––ライアは、伯爵である。伯爵の前に『辺境』がつくが...


 俺の土地はこの国、プロイス王国の中でも最北で、土地だけは広いが夏でも寒く農業はできないわ広いせいで二カ国と接しているから軍費や復興費で金はかかるわで平民さえも寄りつかない土地である。


 だが、どうにか平民にも安全に住めるようにここ数年俺が内政に力を入れたおかげか、少しは活気溢れてきて温泉などの観光名所もでき始めた。でも、不毛な土地は改善されてないし軍費や復興費で毎年金がかかることも事実だ。


 そのせいか、やっぱりまだ貴族からは敬遠され、うちの婚約者に選ばれたものは『悪魔の婚約者』と形容されいまだに、結婚できない行き遅れの女の人や皆から嫌われた人たちが最後の手段として送られる終着場となっている。


 俺の母は、昔結婚していた人に裏切られて30歳近くで独身になったらしい。貴族の婚約は15歳ぐらいの時に決まると言ったらヤバさがわかるだろうか。


 父に関しては結婚してくれる人が、母が来てくれるまでいなかったので父も結婚は30歳の時にした。この土地の当主であるにも関わらずだ。


そんな両親だからこそ俺の婚約話はもっと後になると思ってたのに...



「なんで、公爵家との縁談が決まってるんだよ〜〜!!」


「もう決まった話です。主人様。」


俺の専属の執事であるアルフレッドが淡々とそう言う。


「いや、俺聞いてないし。なんで俺のいないところで勝手に結婚の話を進めれるの!?しかも、公爵?なんで、そんな位が高い人が婚約者なんだよ!!」


「いいじゃないですか。公爵家の令嬢と結婚できるなんて。羨ましい限りです。」


 こいつ絶対思ってないだろ。


「絶対裏あるもん。ちょっとや、そっとの悪行ぐらいじゃ公爵家には婚約者になってくれる人がいるはずだもん。なんで、うちなんか来るんだよ!!」


「えっと...王位継承権二位であるウィリアム様を虐めたらしく王家にめちゃくちゃ嫌われているらしいです。」


 王家に目つけられてんの!?


今までの婚約者と比にならないぐらい凄いことしでかしちゃってるじゃん。


「まぁ、ごちゃごちゃ言わないで今日の一時から縁談の詳細な話がありますのでそのことについて準備しといてください。」


「え...」


 アルフレッドは、それだけ言って部屋から出ていった。丸投げしやがって。


いや、縁談の話も一週間前にしてくれたならまだ良かったんだが縁談当日に言われても何を準備すればいいんだよ?


後、30分で12時だぞ







「公爵家様がいらっしゃったぞ」


 廊下から執事達の大きな声が聞こえる。


 あれ?約束の時間まで一時間はあるはずなんだけど?もしかして公爵家は時間遅れませんよアピール?そんなのいらないんだけど...


 本当にもう準備できる時間もなかったじゃねぇか!!


アルフレッドお前覚えとけよ




 そんなことを今言ってもしょうがないので、重い腰を上げ公爵家様を迎えにいくために玄関まで歩く。











 玄関に着くと一人の令嬢と、執事と思われる人一人の計二人しかいなかった。

公爵家との縁談話と言うのに公爵家の当主がいないのは普通ならあり得ない話だ。


 だが、そんな言葉を言っては公爵家に反感を買ってしまう。黙って先ほどまでの態度を継続させる。


「これはこれは、遠いところからわざわざご苦労様でした。」


「...思ってもないくせに」


 握手をしようと手を差し伸べるが、相手の令嬢は小さい声で嫌味を言った。いつもならすぐに切れるはずなんだが、その声が弱々しすぎたせいか逆に心配をしてしまう。


 歳は俺と同じ歳か、もう少しだけ若いように見える。この歳なら貴族でもまだ学園などで遊んでいる時期だ。


 こんな悲壮感漂う若い令嬢は世界中探しても誰もいないだろう。



「これはこれは、お嬢様が失礼しました。私の名前は、スチュアートと申します。公爵家の執事をしております。縁談の話については私からご説明します。」


 隣にいる執事が俺の気分を害さないようにそう言ってきた。執事といえど公爵家の執事なので無礼の無いように注意しなければならない。



「いえいえ、全然。では、話し合いの場まで行きますか。」


 そう言って、俺は公爵家の方々を応接室まで案内した。










 俺は、スチュアートと名乗る人物から婚約についての話を事細かに聞いた。


「了解した。婚約の話については、わかったので今日はもうお開きにしますか。」


 俺は、スチュアートに向けてそう言った。


「では、親善の意も込めて今日から婚約の日までお嬢様と一緒にいることはどうでしょうか?」


 スチュアートは、淡々とそう言った。こんなこと一執事が決められることでは無い。当主の許可がなければ絶対言えない言葉だ。つまり、元から置いていくつもりで彼女を出したのだろう。


 俺は、アイリスという名前の令嬢の方を向く。彼女は、下を向き唇を噛んでいる。


 悔しいのだろうか?見捨てられている自分が恥ずかしいのだろうか?


 大抵の同年代の気持ちはわかるはずの俺だが今の彼女の気持ちはわからなかった。


 ただ一つ言えることは、負の感情で溢れているということだけ。


 その瞬間俺の中でこの令嬢を幸せにしたいな...と不意に思ってしまった。もちろん俺は、この令嬢については何も知らない。なのに彼女の幸せを願ってしまった。


 恋では無いと思う。俺と結婚して欲しいというわけでも無い。でも、彼女が幸せになって欲しい...


 一般的におかしいかもしれない感情だ。なんなのか、自分でもわかんない。


 でも幸せにしてあげたかった。


「わかりました。仲良くなれるようがんばります。」


 俺は、スチュアートの言ったことに賛同した。意外だったのかスチュアートも、アイリスも顔を上げる。


 アイリスの顔を初めて見た。今にも崩れそうな儚げな顔にも関わらず中には強い意志を持っているようにも感じられる。色白で、白い髪。目には光がなくそれでもどこかで希望をすがっているような気もする目。


 一目見ただけで彼女の虜になってしまった。これが一目惚れなのかな?


 結局、今日からアイリスと同棲することになってしまった。


 あんなに最初は苛立っていたのに、今ではどうしたら彼女を幸せにできるかを考えていた。












 次の日俺は昨日の夜考えたアイリスを楽しませる作戦を実行することにした。


「おはよう。アイリス。」


「おはようございます。」


 アイリスは、無表情で淡々と答えた。


「今日、一緒に街で遊びに行かない?」


「ライア様、私に気を使うのは結構なので楽しい人と遊びに行ってください。」


 これは相当心に傷を負ってるな、こんなことどの16歳がいうんだよ。


「いや、君と行きたいんだけど」


「同情なら入りませんので、一人でいる方が私としても楽になれて嬉しいです。」


 手強い。どう言っても一緒についていってもらえない気がする。


「う〜、もう!!うるさい!!一緒に行くよ」


「...え!?」


 俺はそう言って彼女の手を無理やり掴み連れ出した。好感度は下がったかもしれないが、彼女を幸せにするためだ。俺の好感度くらい捨ててやる。


 昨日、2時くらいまで考えた作戦が水の泡になってしまうのだけは避けなければ...










「ジャーン、うちの名物のパンだ。アイリスのところだと米ばっかでしょ。」


 そう、この地域では寒く農作物を大体の人が諦めていたんだがこの土地でも生えている植物はあるのでどうにかして農作できないかと考えた結果、麦、じゃがいも、トウモロコシという植物の栽培には成功したのだ。


 南の人たちが気持ち悪がって買ってくれないから貿易としてはまずまずだけど、自国の民を潤わすにはちょうどいい。ジャガイモなんていっぱい生えてくれるおかげで餓死する人間がこの土地では0人になるまで減ってくれた。


「いや、私庶民の食べ物はあまり食べないので...」


 そう言ってアイリスはパンを受け取るのを拒否する。やっぱり公爵家だけあって少しは選民思想があるらしい。


 まぁ、そりゃそうだろうな。王国内で2番目の地位なんだから。


でも、パンに関しては平民貴族関係なく美味しいと思うけどな...


「一回だけ!!騙されたと思って!!」


「...わかりました。」


 彼女はそう言って渋々パンを食べてくれた。食べた瞬間一瞬だけ目が輝いていたのを俺は見逃さない。


絶対美味しかったはずだ。


「思っていたよりは美味しかったです。」


 彼女はそういい、残されたパンを全部食べ切った。そして、そのパン屋の方を向き他の商品をじっと見つめていた。


これは、欲しいってことだよな



「俺、他にもパンで欲しいのあるから買ってくるわ。もっと驚かせたいから少しは食べてくれ。」


 アイリスに恥をかかせないようにそう言って俺は、他のパンを買ってくる。


「これ食べてみて!!」


 渡された、パンをアイリスは何も言わず黙って食べる。最初の時とはえらい違いだ。口に出すと怒られそうなので言わないが。


「まぁまぁですね。」


 そう言って、アイリスは一個丸々食べる。一応建前は、俺が他のパンを欲しいからていうことなんだけどな...


まぁ、アイリスが楽しそうだからいいや。



「あ、ライア様。今日新しい武器具入荷したから見てくれないか?」


 俺が、アイリスの顔を観察しているといつもお世話になっている武器屋のヨークから声をかけられた。


「ありゃ、ライア様、隣のご令嬢は婚約者ですか?」


「まぁ、そうだな。」


「邪魔してすみませんでした。」


「いや、いいよ。でも、今は忙しいから新しい武器は後で見に行くよ」


 俺はそういい、ヨークと別れた。


「少し距離が近いですね。」


 アイリスは、心配そうな目でこちらを見てくる。公爵家からしたら平民にこんな対応されるのは初めてのことなんだろう。公爵家ぐらい高い地位の貴族は自分たちのメンツを第一に考えるだろうから、平民と関わる機会もないのかもしれない。


「今この賑わいを見せてるのも信じられないかもしれないけど平民たちのおかげなんだよ。平民たちが、ここを賑わせるために色々な案を出してくれた。そのおかげで今この土地がある。だからかな?平民たちと貴族たちの距離が近いんだよね。それが良いことなのかは知らないけどね。」


「...」


 アイリスは、黙っている。まぁ、王都ではあり得ない話だしすぐに受け入れるのは無理がある話だろう。王都にいる貴族で平民たちに助けられるようなことなどほとんど起きないからな。


「そんなことより他の名物を紹介したいから一緒に行こ」


 こんな楽しくない話を聞いていても面白くないだろうし作戦に戻る。次はポテトだ。


「これ以上食べると太りそうなのでやめたいのですが...」


「う...それを言われると」


 作戦がほとんど壊滅した。食事だけでどうにかなると思っていた作戦も作戦だが...


「どうしよ...」


「帰らないのですか?」


「それだけは嫌。もっと、楽しませたい。」


「......そういうことでしたら、この街を教えてくれませんか。この街の文化、風習ちょっと知りたいです。」


 アイリスは、顔を下に向けながらそう言った。ちらちら、こちらを確認する仕草が本当に可愛い。


 アイリスのフォローのおかげでまだこの時間を楽しめそうでよかった。












「あの...楽しめた?」


 俺は、恐る恐るアイリスに聞く。俺的には、もちろん楽しめたのだが独り歩きしてないか心配だった。


「はい。思っていたより庶民の生活も楽しいものですね。」


「でしょ!!貴族の仕事をしている時よりも自由になれている気がして僕は大好きなんだ。...あの...また機会があったらついてきてくれる?」


「...たまにでしたら、いいですよ。」


「やった!! よかった!!」


 アイリスにリードされていた部分も少しあったので、不安だったがとりあえず嫌われずに済んでよかった。


「あの...たまにですよ!!」


 オレがはしゃぎすぎたのか、アイリスが注意してくる。少し反省しなければ...


「了解しました。」


 アイリスに向かって深く敬礼しながらそういう。アイリスは、呆れたように『分かってるんだか...』と小声で呟いた。










 俺は、アイリスを幸せにするための作戦として次はサーカスを見せることにした。今回は、アイリスにフォローされないよう万全の策を立てた。


 と言ってもサーカスだから一回入って仕舞えば三時間は楽しめるからその後食事を何個か紹介したら時間も無くなるだろうという適当な作戦ではあるが...



だが、どれだけ探しても失敗する要素が見当たらなかったのでこの作戦は万全な策だ。異論は認めん。


 前回の作戦をしてから一週間が経ち、そろそろ誘ってもいい頃だろう。

というより、これ以上待ちきれない。


作戦実行日以外は、出来るだけ俺はリビングにいるようにしているのだが、アイリスが基本自分の部屋にいるので喋ることができない。


 ここ最近アイリスが発した言葉なんて『おはようございます』『おやすみなさい』『おいしいですね』の3択しか聞いてない。


 このままじゃ、アイリスを幸せにするどころか前より不幸になってるかもしれない。それだけは、嫌なので多少頻度が高いと思われようが無理矢理連れて行く。


 そう決心して俺はアイリスの部屋をノックする。


「アイリス。ライアだ。開けていいか?」


「...へ?ライア様。少し待ってください。」


 部屋から、すごい物音がする。何かしていたのだろうか?


いや、余計な詮索をしては嫌われる。ここは、触れないでおこう。


少しすると、ドアが開きアイリスの顔が見える。


「えっと、どうしたんですか。」


 俺は、余計な詮索はしないでおこうと決めたはずなのに部屋の中を少し確認してしまう。


 部屋の中には、街で売られている王子様の人形があった。

他にも、アイリスと似た人形もあり人形遊びをしていたのが目に取れる。


やっぱり、アイリスも王子様のことが好きだったのかな?



 そう感じながらもこれ以上詮索するとバレてしまうかもしれないのでこのことは一度頭から忘れたことにする。



「えっと、サーカス見に行かない?」


「サーカスですか。...無理に誘わなくてもいいですよ。」


 前回で打ち解けたとは思っていたが、そんなに簡単には心を開いてはくれなかった。


「いや、アイリスと見に行きたい!!」


「...分かりました。」


 今まで、アイリスと生活していてわかったことはアイリスは押しに弱いということだ。完全なる拒絶の時以外は、押せば折れてくれる。


 アイリスの性格を利用して最悪のことをしている自覚はあるが、利用しないとアイリスと仲良くなれる未来が想像つかない。申し訳ないが許してくれ。


「用意するので少し待ってください。」


「わかった。」


 アイリスが、自分の部屋に戻ったのを確認したのち俺も自分の部屋に戻る。

一応、アルフレッド(執事)にも作戦の内容を見てもらってるので大丈夫な気はするのだが、それでも心配だ。ずっとソワソワしている。





「アイリスはサーカス見たことあるの?」


  サーカス会場に行くまで、話す話題も余りないので聞いてみる。


「一度だけ...王子であるリーク王子に連れてもらったことがあります。」


 リーク王子!?


 リーク王子とは、プロイス王国の次期王様候補筆頭であり、平民にも優しく人格者と有名である。


 余り、女性関係の話は聞かなかったのだがアイリスとデートをしていたとは...


 アイリスが、王子様の人形を持っていたのも王子様と交流があったのだからかもしれない...


「楽しませれるか不安になってきたんだけど...」


「...昔の話なので」


 アイリスは、悲しそうにそういう。慰めるために言ってくれたのかもしれないが、昔のことを思い出してしまったのかもしれない。


「あっ、見えたよ。」


 少し陰鬱とした空気だったので出来るだけ明るい声でアイリスに話しかける。


「本当ですね。少し楽しみです。」


 アイリスも気を遣ってか俺に明るい声で返事をしてくれる。やっぱり、アイリスは優しい。


「じゃあ、ちょっと早いかもしれないけど座って待とうか。」

「はい。」 


 俺たちは、そう言ってサーカスの席に座った。







「すごかったね。」


「はい。楽しかったです。」


 想像以上の迫力だったので、サーカスが終わった後はずっとその話題で持ちきりだった。


「何か食べたいものでもある?」


 話していると、もう一時になっていた。昼ごはんを食べる時間なので、アイリスに聞いてみた。


「あまり、ないですね。」

「じゃあ、屋台行ってもいい?」

「屋台…ですか、いいですけど。」


 アイリスは、決して行きたいという表情はしてなかったが、了承してくれた。そりゃ、屋台なんて何が入ってるか普通分からないもんな。公爵家なら嫌がるのも当然だろう。


「じゃあ、これ二つちょうだい。」


 そのイメージを払拭すべく俺は、屋台のおっさんから焼きとうもろこしを二つ買った。そして一つをアイリスに渡したんだが…


「これは…何ですか。」


 アイリスは、ずっと怪訝な表情をして崩さない。とうもろこしの見た目が少し気持ち悪かったのだろう。


「騙されたと思って食べてみて。」


 俺は、そういいアイリスに試してみる。アイリスは恐る恐る齧ると、すぐに表情が穏やかになった。


「変わった感触ですけど、嫌いじゃないですね。」


 パンの時ほどの感動はなかったらしいけど黙ってもぐもぐと食べている。可愛い。


「じゃあ、これも食べてみて。」


 俺は、とうもろこしを食べ終わったアイリスにじゃがいものポタージュを渡した。アイリスは、熱そうにチビチビ飲むと美味しかったのかふーふーと息を吹きかけながら黙って食べていた。


「美味しかったです。」


 食べ終わると夢中になっていたのが恥ずかしかったのか少し頬を赤らめながら喋った。


「楽しめた?」

「そこそこです。」


 アイリスは恥ずかしかったのか目線も合わせずに言い切るように喋った。そこそこ楽しめたのならよかった。俺たちは、そのまま少し雑談しながら家に帰った。


 この調子なら、すぐに心を開いてくれるかもしれない。この時の俺は、素直にそう思っていた。






〜一年後〜


「おはよう。アイリス。」

「また、寝坊ですか。遅いです。早く、私の朝ごはんを作ってください。」


…あれ。最初の頃より少し生意気になってない?


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読んでくれてありがとうございます。3話程度の話にしようとしていますので最後まで読んでくれると幸いです。


 


 

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