答えの章




「……正直勝つか負けるかは確率も何もない運次第のゲームだと思ってたのよ。でも、アンタには勝つ見込みがあったのよね」


「もちろん、勝算はかなりあったさ。そして結果勝利を掴んだ」


 あれから二週間と一日が経ち、私は再びこの異空間へと舞い戻ってきた。

 私が現れた週間バルはコッチヘ飛んできて、私達は再開のハグを交わした。

 そしてソファに座りながら会話を始めたという次第だと。


「聞かせてくれないかしら?アンタの策を」


「もちろん、さて何から話そうか。まず私は学校でも家でも現実主義な思考を持つ人間として認識されている、つまりは途端にオカルトを言い出すようなキャラじゃないって事」


いつのまにか目の前に置かれていた紅茶を啜った後、私は語り始めた。


「だからこそそんな私が異空間の話をしたとすれば、急にどうしたと思われるだろうし面白がって真似をしてみる子がいるかもしれない。だけど話をした五人のうちの誰かが儀式をするかどうか、問題はそこじゃなかった」


「私の住む村は娯楽の少ない田舎。既にホノカが似たような話をしているんだ、私も異空間やバルの事を言えばたちまち噂は学校や村に広がっていくだろう」


「そこで誰一人として儀式を面白半分でやらないとは言い切れない。そんな時だった」


 田舎の噂の広まり方は尋常ではない、五人に話せば五十人が儀式を知っていてもおかしくはないのだ。


「頭をリフレッシュさせようとTwitterを見ていると、フォロワーがとある小説投稿サイトの個人賞を狙っている旨のツイートを見かけたんだ」


「そもそも私はカクヨムにいくつか小説を投稿していてね、そういった界隈にいたわけだ。そして私は思ったよ、これはチャンスだって……バルはネット小説は読むかい?」


「結構読むわよ、主にハーメルンとカクヨムね。基本は一次創作だけ読む感じ」


「ならカクヨムを開いて検索して欲しい、検索タイトルは『もう一度君に会うために』だ」


 バルはパソコンを取り出すと慣れた手つきでサイトを開いていく。

 そして目当ての小説にたどり着くと、五分くらいの時間をかけて読了したようだ。


「……考えたわね、確かにこので前回の出来事も儀式の内容も全部書かれている」


「そう、言うならばメタフィクション風小説さ。物語として伝える事のメリットは幾つかある」


 メタフィクション、それはよくノベルゲームなどで使われるジャンルである。

 読者を物語に巻き込んでいくのが主流だが、今回は作者と主人公が同一人物であるという設定だ。

 事実として作者は東堂香苗なのだが、読み手にはノンフィクション風小説としか伝わらない。


「そもそもカクヨムで見た儀式を実践しようとは思わないだろう?たかだか一話の短編、すぐさま頭からは消えているさ」


「……アタシもチラッと読んだだけのはすぐ忘れちゃうわ」


「それに加えて現実の地元で話すのに比べると、ホノカの流した噂と私が流すはずだった儀式の混合という可能性がなくなる」


「混合……?あぁ、つまり『ホノカのせいで儀式が行われたのかアンタのせいで儀式が行われたのかわからなくなる可能性』を完全に無くす事が出来るってわけね」


「その通りだよバル。私が帰った次の日にはホノカの流した噂は既に学校でも広まっていた。条件はあくまで『私の影響で儀式を行った人間』、ホノカの影響で儀式を真似した人間まで勘定に加えられては困る」


 そういった事情から、私は小説をインターネット上に投稿したのだ。


「一個聞いていい?ならどうしてハーメルンじゃなくてカクヨムにしたのよ、カクヨムのミステリー小説は0PVの時だってあるのよ。ハーメルンだったら30どころか50PVは狙えるわ。確実性を求めるならハーメルンの方が良かったんじゃない?」


「PVはあくまでも小説を開いた人間の数、読み切った人間の数じゃない。儀式も出来事も伝えるためには読み切ってもらう必要があったからね、カクヨムにしかないアレを利用したのさ」


 流し読み、即ブラウザバック、それらを含めると本当に五人にすら読み切ってもらえるか心配だったのだ。


「アレって……まさかあらすじにあった個人企画⁉︎」


 驚いた様子で、バルが大きな声を出した。


「そう、『第六回こむら川小説大賞』。これを使わせて貰った」


「……審査するって事は目を通すって事、見てみたけど審査員は三人なのね。考えたじゃない」


「三人に加えてTwitterの相互フォロワーにも読んでくれそうな人に一人心当たりがあったからね、それを含めて四人。あとは誰か知らない人がコメントをくれれば五人に読まれた儀式と出来事を伝えられたってことになる。ついでに読まれそうな自主企画にも参加しておいたけどね」


「コメントがつかなかったらどうする気だったの?」


「その時ななろうにもハーメルンにも投稿するつもりだったさ。どっちにもやって一人も読んでくれないって事はないよ、百合タグもあるし。結局その心配は無用だったけどね」


「ホントしっかり考えてたのね……」


 感心したように、バルはうんうんと首を縦に振っていた。


「まぁ、そういう事だよ。じゃあ願いを言ってもいいかな?」


 瞬間、辺りの空気が張り詰めたように感じた。

 こんな異空間で空気も何もないかもしれないけど、それでもそう感じたのだ。


「いいわよ、言ってみなさい」


 願いは初めから決まっている、あとはそれを口に出すだけ。


「私に、いつでもこの場所に来られる権利をください」


「……付き合ってくれじゃなくていいの?」


 意外そうにバルは訪ねた。


「私はまだまだ君を知らない、これから知って知って最終的に君の心を射止めたいんだ。二週間前こそ錯乱して告白してしまったが、今の冷静な私は性急な恋愛関係は望んじゃいない」


「ま、いいわ。アタシとしてもその方が好みよ」


そして、咳払いをすると真面目な顔つきになりバルは宣誓した。


「最古のメドゥーサでありヴェットリアの主であるこのアタシが、アンタにこの世界への侵入権を与える」

 

 真剣なバルも可愛くて美しいな、なんて事を考えながら私は新たに己の体に宿った感覚を確かめていた。

 目には見えないが、何か特別な力が宿ったのがわかる。

 恐らく、意識すればこの空間へいつでも来れるようになっているだろう。


「これでアンタはいつでもここに来れるわよ、生憎アタシがそっちに行くことは出来ないけどね」


 寂しいから出来るだけ頻繁にきてくれ、と付け加えてバルは真面目モードを解いた。

 もちろん、バルが嫌じゃなければ私は毎日ここにくるつもりだ。

 しかし、何故だかバルの表情は暗い。

 

「どうかしたのかい?何やらモヤモヤしてそうだけど」


「……アンタの書いた小説、ジャンルはミステリーでしょ?なのに『私、東堂香苗は人生最大級の逆境に立たされていた。』って一文で終わりなのが引っかかっちゃったのよ」


「何かおかしかったかい?」


 そう問えば、バルは歯切れ悪そうに突っかかりを口に出した。


「いや、おかしくはないんだけどアレはいわばミステリーの問題掲示編じゃない?何も解決してない序章。それなのに解決編がないのがうーんって思っちゃうのよね。これはアタシがミステリー小説の厄介ファンってだけだから、特に気にしないで欲しいけど」


 気にしないで欲しいと言われても、バルにそんな顔をさせてしまったのは私の失態だ。

 ならば私が責任を取るべきである。


「なら書こうか?解決編」


「え?」


「さっきから今までの会話を文字起こしして欲しい、それに地の文を加えて続きとして投稿しよう。それならばキチンとミステリーだろう?」


「……いいの?アタシはいいけどアンタは会話も思考も全部ネットに流れちゃうじゃない」


「ハハッ、そんなのさっきの短編の時点でそうだろう。特に問題はない」


 それを聞いたバルは、何やら機械を取り出してパソコンに繋げた。

 そのままカタカタとキーボードを叩いていく。


「能力でヒューヒョイとは出来ないのかな?」


「出来るけどせっかくアンタがやってくれるって言ったのなアタシが何もしないってわけにはいかないでしょ」


「……君は優しいんだな」

 

「そうでもないわよ?むしろアンタの方が百倍優しくていい奴、なんでアタシに惚れてるのかわからないわよ」


「君が魅力的だからじゃないか?」


「はいはい、ところでなんでミステリーだったの?理不尽ホラーみたいなジャンルでも良かったんじゃない?」


「……考えたことも無かったな。だって、君との素晴らしい出会いがホラーであるわけがないし」


「恋って怖いのね。はい、だいたい会話は打ち込んだわよ。あとは必要に応じて会話文と地の文を付け加えれば小説の完成ってわけ」


 そうして、パソコンが私に渡された。

 バルの話によると、別に地球とここの時間軸はリンクしていないので好きな地球時間で投稿できるらしい。

 ならばこむら川小説大賞の締め切りに間に合うようにと、そもそも最初の短編の直ぐ後に投稿して仕舞えばいいかと、そう考えた。

 もう既にゲームは終わっているので、その時間に投稿しても今更結果は覆ったりはしないそうだ。

 最初の短編のサブタイトルを「問いかけの章」と変え、この解決編は「答えの章」として投稿するつもりだ。

 


 これは解決編である、ノンフィクションである、エッセイである。

 それだけ残して、私はこの小説を完結させたい。

 では。

 

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もう一度君に会うために 執事 @anonymouschildren

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