第2話
旧棟の仕事を終えて、新棟に戻ってきた。今日は早めに終わらせることができ、更衣室には仕事終わりの学生達が数名いた。
私は嘘はつかずにきちんと片桐さんに説明をした。
「そう。またか」
「おいおい、仕事の遅延を幽霊のせいにすんなよ」
その言葉をかけてきたのは今日の仕事前にバカにしてきた奴だった。
「何? お前、幽霊信じてるの? ダッサ!」
馬鹿にしてくるそいつを私は鼻で笑ってやった。
するとそいつは顔を歪ませ何か言い返してきそうだったが、それは片桐さんに言葉によって止められた。
「閉じ込められるのは怖いね。立て付けかな?」
「どっかの誰かのイタズラかもしれませんよ?」
私は馬鹿にしてくるやつを見て言う。
「人のせいにすんなよ!」
「もうやめろよ」とそいつの同じ学部生が止めに入る。
◯
三日目。風が強い日だった。
その日は3階の窓が開いていた。何度も。
私が窓を閉じて、他の部屋をチェックしていると、風が汚れたカーテンをはためかせ、音を発していた。戻ってみると窓が開いているのだ。
窓を閉じて、隣へと移動すると微かに足音が。戻るとまた窓が開いていた。
それが何度もあった。
今までとは違う現象。
「幽霊に足があるのか?」
私は大きく溜め息を吐いた。
◯
四日目。
白いワンピースの髪の長い女がいた。幽霊だけど足があり、そいつは裸足だった。
遠目からでも背丈とガタイが良いのが分かった。
(男じゃん)
そしてその不審者は懐中電灯を持っている。
近寄るとそいつは走って反対方向へ走って逃げていく。その走り方はえらく人間的だった。
そして多数の笑い声が廊下の奥から聞こえた。
聞いたことある笑い声に私は辟易した。
とりあへず追いかけるが、捕まえることが出来なかった。
◯
五日目。
私が病室をチェックすると外から閉じ込められる事案が発生。
「ハアー」
私はこれみよがしに大きく息を吐いた。
そしてこの日は片桐さんが訪れるまで、ずっと私は病室に閉じ込められたままだった。
「おいおい、遅いぞ。何やってんだよ」
また鬱陶しい奴から嫌味を言われた。
「こっちは被害者やぞ」
俺は怒鳴った。
「さすがこれは一大事になりかねないから警察に通報すべきですかね?」
と私がまるで周りに聞かせる様に大声で片桐さんに言うと、
「それも考えないとね」
と困った様に言う。
なぜだろうか。
犯人は分かっているのに?
◯
六日目。
その日は昨日の件もあり、スマホの持参が許可された。
その日もまた異変があったが、昨日の件もあったのか、小さいイタズラ程度だった。
◯
私はいつも通り、まず新棟の仕事をするが、今日はやけに人の数が少なかった。
休みなのかな?
そう思っていたら片桐さんに、彼らが昨日から無断欠席で、連絡が取れないということを知った。
そして通常業務を終えて、旧棟へ向かおうとしたら片桐さんに止められた。
「実は取り壊しをすることに決まってね。だから、もういいんだよ」
「それならもっと早くに……」
「ごめんよ。その……なかなか踏ん切りがつかなくてね」
片桐さんは苦笑いをした。
◯
そして大晦日前に私は病棟ではなく、病院に呼ばれた。
病院の事務室に向かうと事務長と警察がいた。
旧棟で彼らの死体が見つかったと私は教えられた。
死因は低体温症。
どうやら閉じ込められて死んだらしい。死亡推定時刻は私のシフト六日目の翌日。つまり私の休みの日だ。あの日は大雪だったことを思い出した。
その大雪の日に彼らは閉じ込められて低体温症で死んだ。
この時期はただでさえ気温がマイナスの世界だ。大雪の日はいつにもまして低かっただろう。旧棟で寒さを凌げるものはカーテンぐらいのもの。それだと低体温症で死んでもおかしくはない。
ここで私は自分が疑われているのだと考えた。
さんざん嫌がらせをした彼らに仕返しをして、逆に閉じ込めたのではと疑われたのではないかと。
でも、警察も事務長もそうと考えてはいなかった。
なぜだろうか。
普通なら私が第一容疑者になるはずだろう。
それなのに警察も事務長も私を疑わない。
◯
彼らが幽霊に殺されたのだという噂を耳にした。
馬鹿馬鹿しいと思った。でも、聞くとどうやらあの旧棟には幽霊がいて、今まで多くの人が不審死をしたとか。
そこでふと思い出した。初日と二日目は誰だったのかと。
本当に幽霊はいたのか。
三日目は明らかに人によるイタズラと分かったが、初日と二日目だけは……。
(よそう)
今となってはもう分からないこと。
旧棟 赤城ハル @akagi-haru
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