最終章
「ただいまー」
約4時間の旅路を終え、家の玄関を通りリビングに上がったら先生がお酒を飲みながら出迎えてくれた。
「お、おかえりー。一週間ぶりかな?」
「昼間っから酒なんて飲むなよ...」
少しテンションが高い先生。妹は買い出しに行っている。うん、いつもと同じ光景だ。
「ちょっとお話聞かせてよお。ね、どうだった?楽しかったー?」
「わかったわかった少しずつ話すから」
俺はあの町で起きた出来事を事細かに話した。
「へえ、あんた体張るねえ」
「そのおかげで区長と話せたから結果オーライだよ」
「まあ、いい社会経験になったんじゃない?今後どうするのさ」
「とにかくしっかり勉強して日本とあの街の掛け橋になってみる」
「あの街って言ってるけど名前ないの?」
「確かにしっかり聞いたことはないな」
「後なんかないの?面白い話」
そんなことをいわれても...あ、一つ思い出したことがある。
「なんか金化人種の人の黄金には真実しか映さないって言われてる。だから顔を映すだけでどんな心境かわかるらしいよ」
「うっそだー」
「俺もよくわかんないよ」
そんな話をしていたら妹が帰ってきた。
「兄さん、おかえりなさい」
やっぱり家は安心する。金化人種の人たちにも早く安息の地が増えるといいんだが...
その晩、俺はそわそわして仕方なかったので9時に星を眺めに外に出た。
「あれ?錬斗じゃん、こんな夜に何してんのさ」
「こっちのセリフだよ鈴乃」
「私はバイト帰りだよ。ところでどうだった?金化人種の街」
「なんか、色々すごかった。とにかく眩しかったね」
「へえー、私も一回行ってみたいなあ」
俺はふと、如月さんに投げかけられた質問を鈴乃に聞いてみたくなった。
「なあ鈴乃、命ってお前から見てなんだと思う?」
「なんだよいきなり急に。うーんそうだなー」
鈴乃はすごく困惑した顔で悩んでいた。
「命かぁ...当たり前だと思っているのに簡単になくなってしまうもの?かな」
「なんか鈴乃らしくない答えだな」
「私だってこういうことも言うよ」
俺は鈴乃がこんなことを言うのに少し驚いていた。
「命ってさ、いま私たちが生きてるみたいに当たり前のことなんだけど、ちょっとした事象でプツンっと命の糸が切れるっつうか、うーん...とにかく!最初からみな平等に持ってる大切なものなんじゃないかな」
そういう答えもあるのかと感心してしまった。
俺はまだ自分の答えが出せていない。多分、死ぬ直前までわからないだろうな。
「ありがとう鈴乃、よくわかんないけど俺も何やればいいかわかったような気がするよ」
「役に立てたのならよかった」
鈴乃が微笑みながら言った
そこからの4年間は大変だった。
勉強に追われる毎日、とにかく勉強に励んだ4年間だった。できるだけ早く金化人種の現状を変えるために。
時々、如月さんとメールでやり取りをしている時もあった。今日は誰が死んでしまった、新しい飲食店ができた、保育園の運動会があったなどいろいろなやり取りをしていた。
だが俺が大学3年生の冬にメールはぽっきり来なくなった。仕事が忙しいのか、スマホを新しいのに買えたのか。
とりあえず大学を卒業したらもう一度あの街に行こう。そう決めていた。
だがそんな俺に思いもよらぬことが起こった。
それは大学4年生の冬、もうすぐ卒業するという時期だった。
連日の勉強疲れで床に就きそのまま寝た次の日、体に違和感を覚えていた。右腕だった。感覚が少しなくなっているが痛いというわけではない。そのせいで目が覚めてしまい右腕を上げてみると、
「え...嘘...」
右腕が黄金になっていた。
その時ふと思ったのが如月さんが言ってた「金化人種の人の黄金にはね、真実しか映さないって言われてるの」だった。
俺はゆっくり自分の腕を見てみる。そこに映ったのはもちろん自分の顔だった。だがいつもとは違う顔をしていた。
黄金に反射するその顔は、どこか安堵しているように見えた。
普通は不安や恐怖が顔に出てしまうところなのになぜ安堵しているのか。
それは多分、加害者から外れたことによる安堵であろう。
心のどこかで思っていたのだ、自分は金化人種の人たちに寄り添っていると思っておきながら、一般人と金化人種で区別していたことに。
俺自身も金化人種の人たちを区分けしていたのだ。
寄り添っていくと言っておきながら区別している自分が許せなかったのだろう。だから金化人種になった今なら本当に寄り添えると、どこかでそう思っていた。
やっと如月さんの言ってることが分かった気がする。
俺はゆっくりと、そして確実に死に向かっているのを初めて実感した。
4か月後
4年ぶりの金塊地区、まずは手荷物検査からだけど、
「潮田様ですね。お通りください」
手荷物検査はスルー出来た。おそらく前回の出来事のおかげだろう。
さてまずは如月さんに会いに行くところからだ。4年で俺も雰囲気が変わった気がするから気づいてくれるかな。
区役所についた。少し外装がきれいになって職員が多くなったように感じる。皆忙しそうだ。俺は受付に行った。
「あの、潮田錬斗です。区長に会いたいんですけれど...」
「はい、ご案内致します」
区長室に着いた。
「区長は中にいらっしゃいます」
「ありがとうございます」
俺は扉を開けた。するとそこには見たことない人がいた。
「やっと来てくれましたか潮田様。こちらから連絡できなくて申し訳ございません」
「え、えっと、あなたは?」
「私如月さんの後継を任されております平川翔です」
「え?後継?如月さんは?」
「大変申しにくいのですが、説明いたしますと...」
前々から嫌な予感はしていた。連絡が取れなくなったあの日から。
「如月さんは1年前にお亡くなりになられました。急性の金化病だったそうで、前日まで働いていたのですが急に...」
やはり知っている人が死ぬのは実感がわかないものなんだな。
「そうですか...」
「それで、如月さんから遺言を授かっております。どうぞ」
俺は恐る恐るその遺言書を開いてみた。
「やあ久しぶり錬斗くん。これを読んでいるってことは私はもういないってことになるね。金化人種はいつ死ぬかわからないし、急性だったら余計だからね。だからこうして遺言書を書かせてもらったよ。まず一つ、ありがとう。私、小さいころから両親を亡くしていてずっと祖父母の家で暮らしていたの。しかも金化人種になっちゃったりもして。でも久しぶりに錬斗くんのような信頼できて仲のいい人に会えてよかったよ。もし錬斗くんが久しぶりにこの街に戻ってきて私が死んでいたら、区長を君にやってほしいなぁなんて。私が推薦しておくから。君は金化人種の人に寄り添える、私はそう信じてるから。私がいなくなっても明るい未来のために、頑張れ。
如月澄香」
「全部、拝読しました」
「この遺言書の通り、新しい区長は潮田様にやってほしいと思っているのですが...」
「そしたら平川さんはどうなるんですか?」
「潮田様がいいとおっしゃるなら私は潮田様の秘書として務めさせていただきます」
俺は許諾した。なぜ許諾したかはわからない。この遺言書の影響かはたまた...
「ところで潮田様その腕...」
「ああ、私も金化人種になってしまったんですよ。これで私もこの街の一員です」
俺は微笑みながらそう言った。本当にうれしいのか、または苦し紛れの笑顔なのか。
その日から俺は区長になった。このことは大々的に知らされ、皆俺が区長になることを許してくれた。まあ、前区長の推薦だもんな。
・・・
皆さんは命をどう考えていますか?心臓?それとも生きている証ですか?一人一人にそれぞれ考えがあると思います。私は如月さんという前区長が教えてくれた「義務」っていう考え方も嫌いではありません。そもそもこの世の中はあまりにも不条理です。死にたいと言ったら生きろと言われ、生きたいと言ったら死ねと言われる、なんて理不尽な世の中でしょうか。選択できる世の中にしようとしても死ぬことが悪という考えが定着しているので難しいです。結局命とは、人生とは何でしょうか。その答えが出てくることは当分ないでしょう。ですが私はこう考えます、人生は退屈な日々を少しでも輝かせるための猶予だと。命はその時間だと私は考えます。なので、日々は退屈で当たり前です。もはや退屈がない人生なんて誰もないでしょう。変に人生を飾り付ける必要なんてないのです。
さて、ここまで話してきたのはこの話をしたかったからです。今、辛い感情や不安を抱えていて人生を諦めそうになっている人、無理に顔を上げろとは言いません。無理に生きようなんて言いません。でも、少しだけ自分の人生に花を持たせるチャンスを与えてはどうですか?花というのはなんでもいいです。趣味を見つけたり、大切な人を見つけたりといろいろ。それでも無理だったら自分と相談してください。私はあなたじゃないので深くは追及できませんが、これだけは言えます。楽しんで。それだけです。
昨今は灰原先生という科学者が薬を開発してくれて金化人種の寿命が30年から50年に増えましたね。おかげで私はもう63歳です。こんな年寄りの話が今の若者に少しでも影響を与えてくれたら私は嬉しいです。
私の黄金から反射される光が、少しでも未来を明るく照らしてくれますように。
潮田錬斗」
全ての若者よ、「青春」を、「今」を、思いっきり飾り付けろ____
完
黄金に反射するその顔は れれあ @HoujouRea
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