episode7



ガラリ。



さっきとは比べられないくらい人通りの少ない廊下。



飛鳥が薄緑のドアを開ける。



少し黄ばんだドアプレートには生徒会室と書かれている。



あの後、飛鳥から隠していたことを話すから黙ってついてきて欲しいと言われ、昼食を食べた僕らは飛鳥に従うことにした。



ちなみに茜は最後はリスのように口いっぱいにお好み焼きをほお張って、大量の水と共に、なんとか食べきっていた。



欲張って2つも買うから…。




「どうぞ」



飛鳥に続けて中に入る。



名門と名のつく差からか、僕が普段いる生徒会室よりも広い気がした。



キレイに整頓された棚や机が更に部屋を広く見せる。



「あ、飛鳥、さっきパソコン部行ってきたら…って、」



部屋の奥でスマホを操作していた女子生徒が飛鳥に駆け寄り、僕らを見て目を点にする。



確かに、生徒会室に他校の生徒が来ることはまず無いから驚くのも頷ける。




「あー、春香先輩ちょっといいですか?」



頭にポンと右手を乗せながら飛鳥は春香と呼ばれた生徒と共に部屋から出ていった。




シーンとした教室。




わずかにどこからか、誰かの笑い声だけが聞こえてくるだけ。



なんとなく沈黙に耐えられなくて、チラリと茜を見てみる。



「…」



強張った顔で、無言でスマホをいじっている。



なんとなく、雰囲気で話し掛けられなくて僕は一つ、息を吐いてポケットからスマホを取り出した。




「ごめん、待たせちゃって」



ドアの開閉音と共に飛鳥の声が後ろから飛んできた。



「あ、いえ」



僕は振り向いてブンブンと胸の前で手を振る。



「大丈夫です」



茜も嘘っぽい微笑みを浮かべる。



「あ、うちの高校の会長です」



飛鳥が後ろにいた生徒に手を向ける。



「3年の三浦春香です。初めまして」



髪を一本にまとめ、分厚い黒縁メガネを掛けた真面目な雰囲気だ。





「それでは、早速お話を伺ってもよろしいですか?」



春香に勧められ、とりあえず長机を挟んで座った瞬間、茜が聞いた。



静かな声ではあるが、拒否できない雰囲気がある。



「…実は」



飛鳥は春香と一旦顔を見合わせて、ためらいがちに話しだした。




「実は、先週これが生徒会室にあって」



飛鳥は近くの棚から一枚の紙を取り出し、僕らの前に置いた。




『学校祭を中止しろ。

さもなければ、大変なことになる。』




定規を使って書かれているのだろう。



真っ直ぐと、カクカクとした文字が並んでいる。



「これって…」



「うん、脅迫状」



僕の言葉を予想したように、春香が静かに答えた。



静かな肯定に背筋が凍る。



「先週の放課後、私が生徒会室に来たら、これが置いてあって」



飛鳥が言葉を繋ぐ。



「なんで…。中止した方が」



学校祭は既に始まっている。



今、何かが起きてもおかしくない。



「私も、私達もそう思いましたよ!…けど、」



「反対されたんですね」



飛鳥の叫びに、今まで黙っていた茜が応えた。



「…うん。脅迫状が届いてすぐに先生に相談した。…だけど校長を初め、脅迫状の事を知った一部の人間はイタズラだと言って、半ば強引に文化祭を開催することを決定した」



飛鳥の顔に暗鬱な陰影がかすめる。



茶色の瞳が一瞬、眼球が陰気な光を放ったように見えた。



「どうして…」



「…東雲学園の学校祭は毎年大きな注目を集める。それを中止してしまったら、学園のイメージや財政源、来年の入学希望者にも影響が及ぶ可能性が高い」



口を閉じてしまった飛鳥に代わり、春香が冷静に答える。



僕は言葉も出なかった。



自分の学校の生徒の安全よりも、大切にするものなんて無いはず…なのに。



「東雲学園の学校祭は開校以来の50年間ずっと、何があっても中止されることはなかった。中には、昔、脅迫状があったって聞いたこともあったけど。だから、この学園の教員は必要以上に学校祭を誇りに思ってるし、脅迫状の楽観視も高いの」



春香はそう言いながら、軽いため息を吐いた。



「まぁ、なんとか説得して警備員だけは増やしてくれたんだけど…」




「…あっ、そろそろ行かないとじゃないですか?」




腰を曲げて、ドヨンと椅子に寄っかかっていた飛鳥が掛け時計を見るなり、勢い良く立ち上がった。



「何かあるんですか?」




「うん、一応私達も校内を巡回しようと思って。トイレとか警備員さんの行けないような場所もあるしね」




僕の質問に春香もヨイショと立ち上がって言う。



僕の頭の中には一つの考えが浮かんだ。




「…あの、僕もついて行ってもいいですか?」



話を聞いた以上、何か力になりたい。



いつの間にかそんな想いが芽生えていた。



「うん、良いんじゃない?もう、部外者とは言えないし。男子トイレはさすがに私達にも入れないし」



「ですね、さっすが究極のお人好し!」



「それ、もうやめてくださいよ」



春香と飛鳥が頷いてくれてホッとする。



飛鳥も元気が戻ったようで、瞳も生き生きとしている。



「茜は?どうする?」



「私は…、用事があるので。終わったら連絡ください」



茜は静かにそう言って、部屋を出ていった。



「え…?あ、はい」



用事ってこの学校でってことか?



一体何の用事が…?


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SNS探偵 〜事件はスマホ一つで解決します〜 日香莉 @Hikari_c

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