第3話
前回までのあらすじ
強と、長岡は、6年前の失踪事件を思い出す。
旅を続ける3人の前に、異世界生物が現れ、その失踪事件で失踪したと思われていた、強の彼女、さよりが襲われた。強は死体を見て、信じることができずにいたが、さよりと一緒に買ったキーホルダーが死体の手に握られていることに気づき、現実を受け止めた。次の日、3人はさよりを埋葬し、旅を再開した。
失踪事件が起こった場所にいきつき、強と長岡は今の状況の真相を理解する。そこで更なる疑問が生まれ、長岡は激怒して1人で行動することを決意し、去っていった。
3話
くそ!絶対戻るもんか!
長岡が2人と別れてから2日がたち、長岡は武器集めに没頭していた。
今のところこの錆びたナイフしかない。こんなの使えるわけないよな…。
長岡は狭い路地裏に、汚いトタンで小さな部屋を作り、そこを住み家にしていた。ホームレスとして生きてきた経験のある長岡は、こういったことに長けている。むしろ、このくらいの汚さと狭さが、彼にとって落ち着く環境になっていたのだ。
ザッザッザッ
雑草を濾して飲む、ホームレス界隈では有名な雑草汁を飲んで、ゆっくりしていた長岡の元に人影が近づいていた。
「おい、俺は何を言おうと戻らねぇぞ!わかったらサッサっと帰れ!」
長岡は足音に気付き、そう言い放った。
「お、おい!」
それでも近づいてくる足音に違和感を覚えた長岡が後ろを振り向いたそのとき!
ガララララララララ
突然トタンのドアが開かれ、黒い影が長岡を覆った。
…
「あ〜れ?長岡?」
チャラそうな男がふざけた声で言った。
「かみ…むら?はー…。」
肩の上がった長岡の体から、一気に力が抜けた。
「何だお前かよ!よく俺がわかったな。異世界生物かと思って焦ったぜ。」
「先生!あんたまだ死んでなかったんだw
てか、あっちに角田と村田もいるからきてよ」
「敬語くらい使ったらどうなんだ?ったく
でも1人じゃ心細いから案内してくれ」
2人は東京タワーのふもとにむかった。
「ここ、俺らの拠点」
「お〜!せんこうしばらくだな〜!」
と、角田
「よく生きてたな!まぁ、座れよ!」
と、村田も迎えてくれた。
あちこちから集められた木材が、これでもかとびっしり横に並べられ、立派な木造の建物に築かれていた。長岡のものとは比べ物にならない。3人は卒業後、建設業に勤めていたのだ。
「せんこう、知っていることがあれば教えてくれ、今何が起こっているんだ?」
長岡は、何から何まであったことを全て話した。
「と、いうことだ。俺は何があっても斎藤の元には戻るつもりはねぇ。」
「ちょ、ちょっと待て、俺らはまだ会ってないからいいが、そんな化け物に襲われたら俺らどうすんだよ」焦る角田。
「そうだよ!長岡。今すぐ斉藤とやらここに連れてこい!」長岡の胸ぐらを掴んでそう言ったのは上村だ。
「まさか俺らを見殺しにしようってんじゃねぇだろうな!」と、村田。
こうしてやむおえず斎藤を探すことになった長岡。たんこぶを3つ作って。
一方斉藤と強はというと、ある1人の男を探していた。
「俺と一緒にこっちにきた、梶谷という男と合流したい。」
「かじたに?母さんの旧姓と同じだ。」
「ああ、奴は君の叔父だ。」
「え?叔父さん?けんちゃん?」
まさか俺の叔父がこっちにいるとは思っていなかった。早く会いたい。早く会って抱きしめて欲しい。
「だか、彼はいま君のことを嫌っている。」
「え?」
「君の母さんと関係がある。」
「母さん?」
俺は心配になってきた。怒った叔父さんを今まで見てきた。叔父さんは怒ると髪の毛を掴んで物置まで引っ張って押し入れに入れてきた。怖かった。10年前死んだ父さんの代わりに一緒に暮らしてくれて、第2の父のような存在だった。あのけんちゃんの怒る顔をもう見たくはない。正直怖い。やだ。おそロシア。
「もうすぐだ。」
小さすぎて、本当にそうかわからないが、人らしきものがあるのがわかった。
「ね、ねぇ。本当に合わなきゃダメ?」
「ダメ」
やっぱ会いたくないな〜。
着々と大きくなる人影。しかしそれは、突然にして何か他の大きなものの影に隠れてしまった。
「ね、ねぇあれ…」強が震える声で言った。
「ああ、お前はここにいろ。」
斉藤が地面を蹴ると、土埃が5メートルほど高く上がって、疾風が巻き起こった。斉藤は飛んでいった。
「す、すげぇ…。バッタみたいだ…。」
強が目を輝かせ、子供のようにいった。
「ち、気づかれた。」
音速をも超える速さで駆け寄って来る斎藤を、異世界生物は人だと認識した。
「むめまぬのんやらほなすえこむけのとめきめにてふめ」と、奇声を上げながら斉藤はマッチに火をつけた。すると、
ぼぉぉぉぉぉぉぉう!!!!!
異世界生物は一気に炎に包まれ、熱風が巻き起こった。
そう、これが彼の技。むめまぬのんやらほなすえこむけのとめきめにてふめなのだ。
「何あれ、気持ちわる。」
強はただならぬ気持ち悪さを感じた。
30分後、強は斉藤の元に追いついた。
そこには談笑をする斉藤とけんちゃんが座っていた。
「あ、けんちゃん久しぶ…」
強と目が合うと、けんちゃんは目を逸らし険悪な顔をした。
え?俺なんかしたっけ?母さんが関係してる?
その場はしばらく重い空気になったが、斉藤が話しを始めたからそれでおさまった。
俺何したんだろ…。強はまた考えることが増えたと、嫌な顔をした。
一方長岡は高いビルの屋上から見下ろせば、
見つけやすいと考え、長い階段を登っていた。
かっかっかっかっ…
かんかんかんかんかん…
かん…こん…かん…こん
長岡の足取りは徐々に重くなった。
それもそうだ食べ物をろくに食べてない長岡にとって55階の高層ビルを階段で登るのは無謀なことだ。事実、彼はまだ11階。あと44階も残っている。それでも長岡はいまだ足を止めない。彼が1段登るたび汗がドバッと垂れる。
「喉が渇いたぁ」
「みずをくれぇ」
「今何回ダァ?13階?えええええ!?」
と、ぐちぐち文句を言いながら、それでも長岡は足を運び続けるのだった。
続く。
俺以外の人間全員異世界転生したんだが、取り残された俺はどうすればいいのか(1) サネユカナイ @saneyukanai
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