ハッピーレインカーネーション
@iomax
第1話 幸せな転生ライフを目指して
目が覚めると、20代前半に見える女と男に抱えられていた。ふと自分の体の方に目をやってみると、手は小さいし、足も小さい。俺はどこぞの赤子に転生したのだ。
『生まれたぞ!リリィ。元気な男の子だ!』
『えぇ。あなたに似て元気な子ですね』
彼らは何か喋ってるようだが、言葉が理解できない。欧州とかそこらへんの国なのだろうか。
そうして俺は、どこかの夫婦の長男として転生したのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺の前世は酷いものではあったが、楽しくはあった。くわしくは触れたくはない。
だが、端的に言ってえば、
家族には縁を切られ、20歳で結婚もしたが、一年で離婚。
仕事では大失態を犯しクビになったので金を稼げず友人に金を借りて過ごしていた。
酷い人生だった。
だが決して楽しくない人生ではなかった。
なぜなら、友人がいつも悩みを聞いてくれたからだ。
そういう意味では前世の俺は人として腐ってはなかったのかもしれない。
だが、あの状況では俺の"精神"は腐っていた。
家族に捨てられ、会社もクビになり、借金まみれになったのだ。当たり前だ。
もともと前世の俺は名家の生まれだった。
なので常に優秀でなければならなかった。結果を残せなければ、血が滲むような努力をしても褒められることはなかった。
大した結果も残せなかった俺はすぐに家族に捨てられた。優秀な弟や兄や妹がいたからだろう。
親が決めた許嫁だった嫁も、家族に捨てられた俺を見るとすぐに離婚して別の家へ嫁に行った。
どん底だった。
人生なんてどうでもよくなった。
でも友人は、そんな俺を唯一見捨てなかったのだ。
金に関しても助けてくれたし、いつも酒の場で俺を励ましてくれた。「いつかきっと報われる、だからもう少し頑張れ。」などと。最初の方こそ頑張った。だが、なかなか友人の言う通りにならないところを見るともうどうにもなんないんだと思ってしまった。
そこから俺は引きこもった。
5年間、引きこもり続けた。もう借金まみれだ。
そんな中、ある日久しぶりに友人から飲みの誘いが来た。
最初は気が向かなかったが、行くことにした。待ち合わせ場所に行くと、もう友人はいた。そこから会話も挨拶程度でほぼなく、気まずい雰囲気の中待ち合わせ場所から居酒屋へ向かう途中。飲酒運転がこっちに突っ込んできた。
それに友人は気づいてなかった。
俺は声を出す事ができなかった。
友人は死んだ。
葬式では友人の遺族になんで助けなかったんだとか散々言われた。
ここまで見ると全然楽しくないように見えるが、学生時代はもう、親の目も気にせず友人と好き放題したものだ。それがずっと忘れられない思い出だった。
だからこそ、忘れられない思い出にいる友人が死んだというのはそれほど俺にとって大きい出来事だった。
なのでもうどうでものよくなった。
死のうと思った。
そうおもいながら葬式の帰り道。ふらふらしながら夜道を歩いていると、一匹の子猫がトラックに轢かれる寸前だった。俺は考えなしに助けに飛び込んだ。
恐らく、友人のことがあったからだ。居ても立っても居られなくなったのだ。
うっすら聞こえるサイレンの音。うっすら見えるたくさんの野次馬や、慌てたトラックの運転手。そして俺を照らす月の光と、トラックのヘッドライト。
どんどんそれらは感じることができなくなり、目の前が真っ暗になっていく。
そこで意識は飛んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は異世界に転生した。20代前半の夫婦の長男として。名前はジークフリートと名付けられた。今世の家族は父がレオン、母がリリィ、そして魔法学校で寮生活している姉のソフィアの4人家族だ。俺は家族からはジークと呼ばれている。
『あなた、今日も仕事?』
『あぁ、今日は魔法学校の方から依頼があってな、臨時の学校講師として授業をしなければいけないからジークを頼むよ、リリィ。』
『任せて』
俺が生まれてから3年ほど経った頃、俺はとっくに言葉を理解できるようになってきていた。そして、リリィとレオンのそんな会話から、どうやらこの世界は地球ではないのかもしれない。今魔法学校と言ったよな…。
当たり前ながら魔法に興味が湧いてきた。字はすぐに覚えれた。あとで魔法に関する本でも父の書斎から漁って読んでみるか。魔法を使いたい。
そして、字について学んでいて気づいたことがいくつかある。どうやら、この世界には言語が種族によって違うらしい。なので種族がいくつかある。例えば、人間族、長耳族(エルフ)、炭鉱族(ドワーフ)、などなどだ。エルフやドワーフなどといった種族は前世の世界でも空想上の生き物として有名だ。俺も前世はラノベをよく読んだ。まぁだからエルフと結婚するとか、ハーレムとかそういうラノベの王道には当然憧れがある。今世では結婚して平和な家庭を築きたいなぁ。
『ジーク、お腹減ってない?大丈夫?』
そんなことを考えていたらリリィに話しかけられた。よく見るとっていうかよく見なくても母も父も美形だ。この世界の人間は美形なのだろうか。と言ってもまだ両親しか見てないが。
『うん母さん。お腹減ったよ』
『わかったわジーク。ママが美味しいお料理を振る舞ってあげる。』
『わぁ。それは楽しみだな』
心なしか精神まで子どもになってきている気がする。体に精神が順応しているということか。
それにしても、母が料理しているところは初めて見る。どうやって作っているのだろうか。
『ファイヤーボール』
母は魔法を使った。火の魔法だ。なんともありきたりな名前なのだろうか。そんなことはいいのだが、詠唱とかは存在しないのだろうか。初めて魔法が使われるところを見たけどライターから火が出る感じで手から出るのか…。
使えるようになりたい。
『ジーク、ご飯できたわよー』
思ったよりも早く出来上がった。魔法のおかげだろう。
『おいしそうだね母さん』
『ママが頑張って作った料理だからおいしいに決まってるわ、さあ、冷めないうちに食べなさい。』
『いただきます。』
食卓に並んでいたのは、前世のカレーみたいなものだった。前世のカレーよりも米が米っぽいけど違う何かで、ルーも何かが違ったが。それでもおいしい。すぐに食べ終わった。
『おいしかったです。ごちそうさまでした。』
『はーい』
そういうと母は満足そうな笑みを浮かべていた。母に対してはそういう感情は湧かないが、かなりかわいい。
まぁ、そんなことよりも魔法の本を探しに行こう。
『あった』
どうやら魔法に関する本っぽいのが父の書斎から見つかった。さすがは魔法大学からなにかしらの依頼が来るだけのことはある。
本にはこうあった。
魔術(魔法)は、体に流れている魔力を消費する。基本的な属性は、水・火・風・土・光・闇だ。光に含まれるのは解毒や治癒魔術なんかだそうだ。
それぞれ初級魔術から中級、上級。その上は超級、聖級、魔王級、神級とあるそうだ。
普通は、すべての魔術において詠唱が必要だが、無詠唱を使えるものもいるという。母リリィは、魔術名だけで詠唱なんてしていなかったが。ファイヤーボールは火の初級魔術だった。
とりあえず当分は魔術を特訓していこう。
あとひとつわかったことがある。この世界には10人の魔導王が存在するらしい。どれも人間族だったり、魔族だったり色々な種族の魔導王がいるという。魔導王は、魔王級以上を使えるようになると与えられる称号であり、魔導王を名乗るには前の魔導王を倒さなければならないという決まりがあるらしい。それを守らなければ、魔王級魔術師(魔導王)の名を名乗ることができない。ならば神級はどうなのだろうか…。
まぁそんなことは俺にとっていけるかわからない領域にあるので、目指したい気持ちはあるが、とりあえずは上級魔術を使えるようになりたい。もちろん全属性を。ただ、闇魔術が少々厄介なようだ。まぁ頑張ってみよう。
俺はこの世界にきてやりたいことが見つかりつつある。
前世では、やりたいこともまともにやれず一生を終えたが、今世ではジークフリートとしてたくさんやりたいことを思うままにやって幸せに生きていけるのではないか。
よし。
『たくさんやりたいことをやって、幸せに、楽しく生きていこう。』
こうしてジークフリートとしての一生が始まるのであった。
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