第22話 試練を越えて
クリスとマオたちは、ようやくフィオネストへ到着した。
ケビンの馬車は、門番に足止めされてしまったため、クリスとマオだけ先にギルドへダンジョンの件を伝えるために戻る。
「戻ったのにゃ!」
マオは勢いよくギルドの扉を開けると、受付まで突っ走る。
他の冒険者もなにごとかと様子を見ている。
「お疲れさまでした、マオさん。成果はありましたか?」
アミはいつも通りの対応で、マオを相手に平静を保つ。
「お願いにゃ!ロイを助けて欲しいのにゃ!」
藪から棒にどうしたのかと、驚くアミは詳細を聞こうとした。
「ダンジョンが崩落して、ロイが巻き込まれたの。だからギルドの救急班を借りたいのよ」
珍しくクリスがまともで的確な説明をしてくれた。
ダンジョンが崩落した?
ありえないとは思うが、彼女たちのボロボロな姿を見る限り嘘はないように思う…。
「アミちゃん!こいつは緊急なんだ!今すぐ出してほしい!」
ケビンが後ろから事実であることを補足する。彼の仲間も同意する。
仲間たちはポーションで回復して魔力を補給し動けるようになった。
ケビンが言うならきっと正しい。
「そんな…まさか、ロイ君は...?!」
「あたしたちを助けるために…、今頃...」
普段はどうしようもない二人が、これほど真剣に訴えてきている…。
ケビンの慌てようをみて確信に変わった。
これは間違いなく緊急事態である。
アミはギルドの救急班を出動させるために動き出す。
「わかりました!緊急対応として、救急班を向かわせます!お二人はしばらく休んでいてください!」
アミは受付裏へ移動し、ギルド長へ申請しようと手続きを進める。
冒険者たちが、ぞろぞろと何があったのかケビンに尋ねる。
事情を聞きつけた冒険者たちは各々準備を始めた。
「そのダンジョンはおそらく緊急クエストになるはずだ。俺たちも装備を見直すぞ!」
「だな!ロイには世話になってるし、ここで恩を返しておくのも悪くねぇだろ!」
「ロイたちにはまだ借金返してもらってねぇからな!チャラにさせてたまるかよ!」
「よっしゃ!ロイを助けるぞ、おまえら!」
うおおおおおおお!!!!!!!
冒険者たちはロイのために立ち上がり、クエスト発令を待つ。
クリスもマオも冒険者たちが手を貸してくれることに驚く。ロイがここまで慕われているとは思わなかった。
二人の見ていないところで、ロイは冒険者たちに数々の場面で手助けしていた。それが今回のような団結を起こしたのだろう。
全員がクエスト発令を待っていた。
・・・その時だった。
ガシャッ!
ギルドの大扉が開かれる。
そこにいたのは・・・。
「「「「「「ロ、ロイ!!!」」」」」
冒険者一同驚きのあまり、大声をあげる。
「帰ってきたぞ、みんな」
ギルド内がさっきから騒々しいとアミは危惧する。
もしかしてまたあの二人がトラブルを…?
手続きを終え、あとはギルド長の許可をもらうのみ。しかし騒ぎが気になるため、こっそりと覗きに行く。
ギルドのエントランスへ戻るとそこには…。
「無事だったか!ロイ!」
「ロイ!生き埋めにされたって聞いたけどもう平気なのか!?」
「亡霊じゃないよな?まさかアンデットになって化けたってことはないよな?」
冒険者たちが口をそろえてロイの名前を呼んでいる。
アミは何が何だかわからずに茫然としている。
けれど、全身ボロボロな装備ではあるものの、笑顔を見せて安心させようとしている。
ロイの姿が確かにあった。
「ロイーーー!!!心配したのにゃーーー!!!」
泣きじゃくるマオに抱きつかれて身動きが取れない。
「ロイ。あなたはバカよ!大バカものよ!」
久々にあった最初の一言目がそれかと軽蔑する。でも、時間差的にはまだ一日も経っていないのか。
「でも、お陰で生き残れた…。守ってくれてありがとう」
文句を垂れつつもお礼を言うあたり素直じゃないなと内心呟く。
クリスのそういうところは憎めない。
「ロイ!心配させやがって!てっきり死んだと聞いてたんだぞ!」
ケビンが涙ぐみながら腕を肩に回して、心配したと叫ぶ。
それもそうか。ダンジョン内での事故はほぼ死と隣り合わせ。生きてこれたのが奇跡だからな。
「すまん、また迷惑をかけたみたいだな。悪かった」
「いいさ!無事に帰ってきたならそれでいい!またおまえと冒険ができるからな!」
ケビンは涙を拭い、笑顔を見せる。
こいつはいつでも前向きなやつだと感心する。
「ロイくん!無事だったのですね!」
アミさんも俺を心配して駆け寄ってきた。
「ご迷惑かけました。無事に帰ってきましたよ!」
試練で回復したおかげで五体満足。
両手を広げて無事であることを伝える。
「本当によかった…。ロイくんがいなかったら…」
「いなかったら?」
「いいえ、こっちのことですから!とにかくおかえりなさい!」
なんかすごく重要なところをはぐらかされてしまった気がする。…まあいいだろう。
「それにしても、どうやってここまで戻ってきたのにゃ?」
「そうよ。どうやったのよ?」
マオとクリスが執拗に迫ってきた。
「話すと長くなるんだが、結論をいうとダンジョンにあった脱出用の魔法陣で生還してきた」
嘘ではない。どこでも転移できる、ということは伏せてあるが言う必要はないだろう。
「いったいその間に何があったのにゃ?!」
「それになんか雰囲気が変わった?前よりも魔力の流れが良くなってるような…」
二人はまだ納得していない。
クリスは俺の変化に気づいているみたいだ。
「それも後で話すよ。今はダンジョンの報告を済ませよう」
俺たちは手続きを済ませて、ダンジョンの後始末を依頼する。
「それで結局どうなるんだ?」
「ロイも無事だったし、クエストはないんじゃねーの?」
「しゃーねーよな!ま、ロイが無事だったんだから解決だろ!」
ギルドのみんなが俺の生還に喜んでいる。
なんだかこそばゆいな。
「みんな!俺のことでいろいろと迷惑をかけてすまなかった!だが、この通り無事に生きている!今日は俺からの奢りだ!好きなだけ飲むなり食べるなりしてくれ!」
ここは彼らに労ってやるのが一番だろう。
「気前いいじゃねーか!」
「よっしゃ、ロイの奢りだとよ!」
「借金は一旦忘れてやるかな。飲んで食って祝うか!」
「よーし!ロイが生還してきた祝いだ!!お前ら飲むぞー!」
おおおおおーーーーー!!!!!
ギルド内が祭りのように騒がしくなる。
ケビン含めていろいろなクエストで世話になった冒険者がたくさん気にかけてくれたんだ。
とても新鮮な気分だ。
いつもは迷惑(主に仲間たちの)ばかりしていたから嫌われていると思っていた。
俺たちは夜が明けるまで彼らと飲み明かし続けた。
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