第23話 試練の成果

試練を終えギルドにいた冒険者みんなで祝いあった翌日・・・。


俺は、朝早くからギルドに訪れてクエストの依頼を見ていた。


「おはようございます、ロイくん。昨日の今日で随分と早いですね」


朝一番からアミさんが声をかけてくれた。


「おはようございます。アミさんこそ、昨日はみんなとお酒飲んでいたのに体調は良さそうですね」


「うふふ。私こう見えてお酒強いんです」


口元に指先をあててウィンクするアミさん。

年上女性の余裕な姿に惹かれてしまいそうになるがグッとこらえる。


「ところで、いつものお二方はいないんですね」


クリスとマオのことを言っているのだろう。

最近わかったのだが、アミさんは距離を置きたい人のことは極力名前で呼ばないことが判明した。


何度も二人に指摘するときにアレだのソチラだのさっきのオフタカタだってそうだ。


ウチのパーティーが迷惑かけていることは承知の上だが、アミさんもなかなかえげつないことをしているとわかり、ゾッとしている。


「はい。二人は酔い潰れてしまったので集まるのは昼過ぎくらいになりますね。その間に単独でもこなせるクエストがないか探していたんです」


クリスは酔っ払いすぎて道端でキラキラを撒き散らし。マオは酔った勢いで魔法を放とうとしていたのでみねうちで気絶させた。


そのまま夜道に放置するのはかわいそうだったので、宿の空き部屋を借りて二人を寝かせた後、机の上に手紙を書き置きしておいた。


クリスがダメでもマオなら気づくだろう。


「それなら、ロイくんにいい討伐クエストありますよ!」


アミさんが自信満々に勧めてきた依頼をもらう。


「オーガの討伐ですか。これってCランク冒険者へ渡す依頼では?」


オーガとは、角を生やした巨大な体躯を持ったモンスター。オークと混同されやすいが、彼らの知能は並で強大な力を持ち、さらには魔法も扱う。ゆえに固い防御力を誇ることからCランクに属している。


Cランクとの戦闘は、クリスと一緒に上位風狼アークウィンドウルフを討伐した時と、ダンジョンの時に倒したリッチーくらいだろう。


どちらも俺単独ではなく、二人の力があってこそなんだが…。


「その通りですが、ロイくんはこれまでに同じランクのモンスターをすでに倒しています。ですので、今度は一人で倒したと証明することができれば晴れてDランク昇格は間違いありません!」


曇りなき笑顔で見つめてくる。

これは受けないという選択肢は消えたようなものだ。


まあ格上との戦闘は、これまでもあったことだしなんとかなるだろう。


それに、試練での成果を活かす相手としてはちょうどいい。


「わかりました。そのクエストでお願いします」


「はい。受理しましたので、気を付けて行ってきてくださいね!」


アミさんに見送られ、俺は朝一番の光に照らされてギルドを後にした。



・・・・・・・・・


ギルドから西へ進んだところの近くに山へ続く森があり、その中の洞窟を住処としているらしい。討伐数は三体とあるが、もう少し多いと覚悟しておくべきだ。


目的の洞窟へ着くと、オーガ三体を確認する。まだ住処にしているというよりも探しているというようにみえる。


油断している今なら倒せるだろう。


俺は試練でもらったスキル『潜在能力覚醒』と『潜在能力向上』を使ってステータスを高めた。

ある程度まで高めたらステータス操作で、足で踏ん張りギリギリまで溜める…。


・・・今だ!


刹那。オーガの一体目掛けて短剣を一閃する。


すると首がもたげて、立ったまま絶命した。

残りのオーガは何事かとあたりを見渡すが気づけていない。


…そう。すでに俺は上空にいるのだから。


一匹のオーガが見上げ始めたがもう遅い。


短剣の切れ味を最高密度にまで干渉させて、オーガの首を真っ二つに落とす。


二体のオーガをあっけなく倒してしまった。


Cランクモンスターにしては手応えがなくて残念だが、不意打ちだし仕方ない。


試練でもらったスキルはかなり有効なことがわかったからそれだけでも良しとしようか。


それと潜在能力向上というスキルは、モンスターを倒すだけでもステータスが上がることがわかった。日課の鍛錬を朝にしていたらごく僅かに上がったため、もしかしたらと思った。


オーガ相手にはスピード重視で戦闘したから敏捷力が上がっている。

イメージとしては向上させたいステータスに関する戦闘や鍛錬を積むと意図的に上げることが可能ということだ。


これからの自分の戦闘スタイル次第でどこを伸ばすか重要になってくるな。


さて、オーガの仲間もいないようだし。

さっさと解体してしまおう。


俺はオーガのツノと骨を討伐の証明としてポーチへしまう。


他に何かないかと、洞窟の中を見てみると。

人一人分ほどの量が積まれた魔鉱石が中に保管されていた。


オーガは魔力を補強するために魔鉱石を食べる。そのため彼らの住処には魔鉱石がある。


魔鉱石は、物量があればそれなりの額になることから冒険者はオーガ討伐とセットに魔鉱石も、というのが常識らしい。


俺もあやかり魔鉱石をなるべく多めに持ち帰る。


あとはオーガ本体をどうするかだが…。

オーガを食肉にするには、固すぎるとあまり評判が良くない。しかし、彼らの内臓は生命力と魔力に溢れており強力な精力剤になると聞く。


・・・少し迷ったが解体して持ち帰ることにした。


残りはギルドに依頼して運んでもらうとしよう。

洞窟に討伐したオーガたちと魔鉱石を集めておき、洞窟の穴を壁で覆う。


こうすることでモンスターが寄り付かず、さらに他の冒険者から横取りされることもないのだ。


依頼するときには壁を崩すための方法を伝えておけば、回収する人も困らない。


クエストも達成したしギルドへ戻りますか。


道中モンスターと何度か戦闘するが全て倒し終えてギルドに帰還した。



・・・・・・・・・


クエストも終えて、待ち合わせのため宿のロビーで待つが一向に二人は現れない。


宿の主人によるとまだ二人の姿は見かけていないのだそうだ。


ということはまだ寝ている可能性がある。

仕方ないので二人を起こしに行くため、二人のいる部屋まで上がる。


コンコンと、ノックする。


返事がない。まだ寝てるのか?


「おーい。クリスー、マオー。いるのか?」


返事がない。扉のハンドルを回すと、鍵は空いている。


鍵をかけそびれていたのか?

俺も昨日は酒のせいで記憶がうろ覚えのため確証はない。


そーっと、扉を開ける。


僅かに空いた隙間から覗き込むと。

ぐっすりと眠る二人の姿があった。


ため息を漏らし、起こすため近づくと…。


「もう、食べられないのにゃ〜」


「あたしのふわふわもふもふよ〜ふふふ」


ベットの上ではマオがクリスの羽を咥え、クリスはマオの耳を掴み、尻尾に頬擦りしている。


なんだろう…この見てはいけないものを見てしまったような罪悪感は。


俺は時限式の目覚まし魔道具を机に置き。

静かに部屋を後にした。



・・・・・・・・・


「「おはよ〜」」


「ああ、おはよう。もう昼過ぎだけどな」


二人は支度を整えてロビーに降りてきた。


「じゃあさっそくだけど、昨日のことについて話すぞ」


俺は二人に事情を説明した。


「…英雄の試練。そんなもの聞いたことないわね」


「それにダンジョンの下にそんな太古のものが残っていたことが不思議だにゃ」


クラスとマオはその事実を認めきれていなかった。


「無理もない、俺だって落ちるまではわからなかったんだ。それに俺たちに宝を託してくれたユリウスの話も間違いではなさそうだ」


「世界が破滅するって話かにゃ?」


「そうだ。俺は試練の中でいくつも世界の終わりと呼べるものを見てきたんだ。どれも破滅と呼ぶに値するものばかり。で、その鍵になるのは救世主だ」


そう。全ては救世主というのが現れたから始まっている。


「救世主なんて、どうにも胡散臭いわね」


「でも、ロイの見てきたものが事実ならもう救世主はいるのかにゃ?…それともこれから?」


「まだ、出てきていないと思う。救世主が来る前に何度か世界で対立が起こってるんだ。それが全ての発端になってる」


世界がまるで救世主を求めるかのように動き出していた。これがもしかしたら破滅への鍵となるのかも知れない。


「それに、救世主の存在を俺は少しだがみることができた」


「なーんだ。じゃあそいつを止めればいいだけじゃないの」


「それで誰なのにゃ?救世主っていうのは」


俺はクリスに視線をずらして見つめる。

な、なによ?とクリスは驚いてこちらに向き直る。


「クリス…みたいな天使がそう名乗っていたんだ」


真剣にクリスを見つめて話した。


「クリスが救世主?それはないのにゃ。だって一番当てはまらないのがクリスだもん」


マオはありえないとクリスが救世主であることを否定する。


「誰もクリスとは言ってないだろう。みたいな、つまり天使のだれかが救世主だと思ってる」


「ちょっと、二人とも。これじゃあたしが世界を救うなんてありえないみたいに聞こえるんですけど」


え、違うの?という目線で俺とマオはクリスを見つめる。


クリスは苦虫を噛み潰したような顔をして機嫌を悪くした。


「あのね!確かにあたしは救世主ではないのでしょうけど。あたしくらいの天使なら世界を救うくらい朝飯前なの!つまり名乗る必要なんてこれっぽっちもないってことよ!わかった?二人とも」


クリスは捲し立てるように自分を正当化するためにでかい口を叩く。


俺とマオは怪訝な目でチラリと見つめてスルーする。


「というわけで、これからのパーティーの方針を定めようと思う」


ちょっと!スルーしないでよ!というクリスの声を無視して話を続ける。


「俺たちのパーティーには目的がなかった。その場でクエストを受けて日銭を稼ぎ借金に追われていたあの時とはもう違う!これからは真っ当な目標を持つべきだと!そこで考えたのがこれだ!」


俺は机に裏返していた一枚の紙を表にする。


「伝説の最強パーティーになる?」


「なによ。この子どもが考えそうな夢」


あれ?二人の反応がイマイチだな。


「いいか!俺たちはこれから数多のモンスターや強敵と渡り歩くことになる。それならば一番になって伝説となる最強パーティーになってやろうじゃないか!」


しばらくの沈黙の後。


「…最強。なんて甘美な言葉なのにゃ」


マオは嬉しそうに笑みをこぼしている。


「え〜、なんで危ないところへわざわざ行くのよ?大金があるんだし、そんなのしなくても遊んで暮らせばいいじゃないの」


クリスは真っ向から否定する。

というかお前の頭の中は遊ぶことしかないのか?


「確かに大金を手に入れたからには贅沢三昧で遊ぶこともできる!でも、それじゃあそのうち飽きるだろ?それより冒険して俺たちの名前を歴史に刻ませるくらいの偉業を達成してやろうぜ!」


そうだ。それで晴れて英雄とでも呼ばれたなら俺の夢が現実になる!


「ロイ!それはいい考えだにゃ!私は最強にして最上位の魔法を操る、至上最高の魔法使いマオ!この名を世界に轟かせてトップになってやるにゃ!」


マオもやる気がみなぎり、その場で高らかに宣誓した。


「二人とも、もっと現実的に考えなさいよねー。そんなの何年かかるかわかったもんじゃないわよ。それよりほら、近くにできた賭博があるからそこへ行きましょ!」


この天使は年中遊び金を減らすことしか考えていないのか。


「クリス。お前のその力は何のためにあるんだ?」


俺はクリスに問う。


「え、自衛のためですけど?それが?」


求めていた言葉じゃなくて心苦しいが、このまま続ける。


「クリスのその力は、多くの人を助けられる力のはずだ!お前の力を俺たちに貸してはくれないか?」


手のひらを差し出して握るように促す。


「あのね。言っておくけど危ないことは極力しないから。それと天使様だと崇め奉ることを忘れないこと。それができるなら話にのってあげてもいいわよ」


クリスは得意げに上から条件をつけてくる。


「そうか。ゆくゆくはその辺の大国で活躍が認められたら広い別荘とか金銀財宝を与えてもらえて、今よりも贅沢で一生遊び続けられる生活が待っているのに。それを捨てるのかー、クリスやっぱおまえにはこの話はなかったことに…」


「行きます!やります!目指します!最強くらいあたしがいればちょちょいのちょいよ!まったく、もっと早めに目標を教えてくれていたらよかったのに、ロイは天邪鬼よね」


手のひらを即座に返したクリスの変わり身の速さに脱帽しかない。


だが、これでようやく俺たちのこれからの目標が決まったわけだ。


伝説の最強パーティー…きっと、数々の困難や壁が立ち塞がるのだろう。


でもこいつらと一緒なら辿り着けるという予感、いや確信があった。


だが、この時の俺たちは裏で何が起こっていたのか知るよしもなかった…。

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