第18話 英雄の試練

(・・・システム修正。ロイセーレンのスキルレベルを確認。・・・アップデート開始、

…完了。・・・世界システム変動なし…ロイの覚醒により起動再開)


無機質な声は、ひっそりと誰にも届くことなく告げた。




・・・・・・・ここは?


目を覚ますと、上に大きな穴が空いている。まだダンジョンの中にいるようだ。


どうやら崩落の衝撃で落ちたらしい。

不幸中の幸いというやつか。


それにしてもここはなんだか寒い。


あたりを見ると壁や天井から水が滴り落ちている。

きっと、近くに水源があるのだろう。


手足は動く、体は無事みたいだ。

どうやら地盤が柔らかいことが致命傷にならずに済んだ要因なのかもしれない。


立ち上がるとまだふらふらするが問題ない。

道の先を見つめると小さく光輝いているのがみえた。


もしかしたら外へ繋がる道かもしれない。


忍びない足取りで光の方へ向かう。



辿り着くとそこは、神秘的な空間が広がっていた。

部屋全体が発光しており、四角く設計されたこの場所はすべて石でできている。中には石に文字が刻まれているものもあるのが、まるでわからない。


もしかしたら古代の遺跡なのだろうか?


ここだけ時間が止まったかのような静寂と不思議な雰囲気が漂う。

なぜこの場所にこのようなものがあるのか?


部屋中を隈なく調べていると。


(よくきたな。歓迎するぞ…)


ユリウスの声かと思ったが、彼よりも低くまるで地の底から聞こえてくるかのような声だ。


(ここへ辿り着いたということは…試練を受ける覚悟があると思ってよいのだな?)


試練だと?いったいなんのことだろうか?

あまりにも唐突すぎて状況が飲み込めないでいた。


「俺は地上のダンジョンから落ちてきただけだ。試練のことは微塵も知らない」


しばらく沈黙した後。


(…なんだと?英雄が残した試練を知らないのか?)


英雄の試練だと?

なぜそこで英雄が出てくるんだ?


「知らない。俺はただ地上に帰りたいんだ。なんとかならないか?」


知ってるかはわからないが聞いてみるに越したことはない。


(残念だが、ここから帰るためには試練を越えなければいけない…)


つまり逃げ場はないということか。

どの道避けられないことなのだろう。

ならば。


「それなら試練を受けるよ。一刻も早く帰ってみんなに無事を知らせないとな」


クリスとマオは今頃ダンジョンから出ているはずだ。

アヴァロンが瓦礫や崩落程度の圧力で壊れるわけがない。

きっと平気だ…。


(ほう。試練を受けるか…。いい覚悟だ、英雄の卵よ...)


またか、英雄の卵。

精霊の時も言ってたけどなんなんだよそれ。


「英雄の卵っていったい何なんだ?まさか割れたら英雄が蘇ったりするのか?」


俺は半ば諦めつつも尋ねる。


(知らぬのか?英雄の卵というのは、英雄になるかもしれぬ素養を持つものを指すんだ。英雄の子孫という噂もあるが…。真偽は定かではないな)


まさかこんなあっさりと答えてくれるなんて…。

予想と違うあまり、少し驚いてしまった。


英雄の子孫というのはわからないが、

俺以外の家族たちはとにかく実力だけでいえば指折りだったからな。


もしかしたらどこかで混じっている可能性もある。


「つまり。俺には英雄になれる素養があるってことなのか?」


(そうだ。それは神によって定められし力...。だが所詮は素養があるというだけだ。何もせずに英雄になれるほど簡単ではない)


そう甘くはないらしい。


だが英雄になるための素養が俺にある...。

これは神さまがくれた幸運だろう。


憧れの英雄のようになれるのか…。

俺は覚悟を決めた。


「やるさ!俺は強くなって大切な人を守れるように、そして憧れた英雄のようになるって決めたんだ。この試練受けて立とうじゃないか!」


きっと試練だって乗り越えなくちゃいけない壁の一つなんだ。

これを越えればもっと強くなれるはずだ。


(よく言った英雄の卵よ!…では始めようではないか、英雄の試練を!)


その言葉が発せられたと同時に部屋全体が姿、形を変えていく。

まるで生きているかのように感じた。


静止したらしい部屋はさっきまでとはまるで異なり。

三つの石扉が左右中央に現れた。


その周りを照らすように青白い灯が浮かんでいる。

入ってきた入り口はどこかへ姿を消えてしまい、入れるのは三つの扉だけだった。


(おまえには三つの試練を受けてもらう。これは英雄の卵へ向けた神々がいた時代から残る試練だ)


神々がいた頃から残る英雄の試練。

そんなに長く存在していたのか。


気持ちが疼いているのはこの先に待つ強くなった俺自身をイメージしているからだろう。

こんなに気持ちが昂るのはいつぶりだろうか?


試練について説明を受ける。


試練の内容は本人が乗り越えるために必要なものが用意されているらしい。


三つ試練を乗り切れば、地上に出る魔法陣が起動する。


試練を受けている間は地上と、この場所の時間がズレているようだ。


試練には乗り越えるまで何十年、下手したら何百年もかけたものたちがいるため、地上との時間差を取り払うために、英雄が仕掛けた遅延魔法だという。


人間の生理的な部分については全て遮断されているため。基本的に食事をしたり睡眠を取らなくても死ぬことはないらしい。


だが、試練の間は乗り切るか自害するかの選択を常に迫られる…。多くの者たちは自分から命を絶ったらしい。


それだけ心身を削るような何かがあるのだと察した。


(…説明は以上だが、他に聞いておくことはあるか?)


「ないな。どんな試練だろうが英雄が用意した試練なら乗り越えないわけにはいかない。

素養があるというなら、俺は英雄になる!そして大切なものを守るために強くなる!」


(…その心意気、しかと受け取ったぞ。ゆくがいい英雄の卵よ!おまえの意思を示してみせよ!)


開かれたのは左の扉。

一つ目の試練が始まる。


心は高揚感に包まれこの先の試練を乗り切ると誓う。

躊躇いなく扉に足を踏み入れ、その先に待つ試練を越えると決意した。

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