第19話 第一の試練
ロイが地下へ落とされた後・・・。
崩落が止み、アヴァロンから抜け出したクリスとマオは、ロイを探すために辺りを探していた。
アヴァロンは二人が出た後すぐに元の防具に戻り、クリスはその場で装備し直した。
二人は僅かな余力で近くの瓦礫を漁っていた。
「ロイー!どこにいるのにゃ!」
「ロイー、どこなのー!いるなら返事しなさーい!」
呼びかけても返事がない。
先ほどの戦闘の疲労が残っているのか集中力が続かない。
「やっぱりもう潰されてしまったのかしらね?」
クリスがそんな諦めに近いことをいう。
「そんなことない!ロイは生きている…はずだにゃ!」
若干の間を空けて反論するマオ。
「マオだってわかってるんでしょ?あの崩落にロイが生き残ってる可能性は限りなく低いわよ。
それにみなさいな!アヴァロンがこんなにボコボコになる程の衝撃よ!生きていたら奇跡だわ!」
ロイの心配より生きていることの放棄を選んだクリス。
「なんでロイが死んでる前提なのにゃ!天使らしく奇跡を起こすとかそれっぽいことを言ってほしいのにゃ!」
天使らしく発言するように説得するマオ。
「無理なものは無理よ。死んだ人間を生き返らせるなんて…。せいぜい出来るのは神くらいじゃないかしら?全く、自分を犠牲にするとかバカの極みよ…」
死んだと断定しているからか悲観的なことを述べるクリス。
それでもやはり悲しいのかマオの顔を見ないようにしている。
「さすがに天使でも難しいのかにゃ…。せめて何かロイの体の一部が落ちていれば甦らせることができるのに…」
マオが聞き捨てならないことをいう。
「…え?今なんて言ったの?」
「だから、難しいのって」
「じゃなくて、その後よ」
「甦らせることができるって、ところかにゃ?」
クリスはマオの発言が間違ではないと理解した。
「そうよ、マオ!あなた蘇生魔法まで使えるの?どうしたらそんな魔法を身につけられるのよ!」
蘇生魔法は?最上位魔法の中でも特別扱えるものが限られる魔法。
少し昔では神に背く行為として禁忌魔法に認定されていた。
ある種伝説の魔法とすら言われている。
それを扱えるマオにクリスは驚きを隠さないでいた。
「言ったはずだにゃ。私は最強魔法と最上位魔法を操る最強最高の魔法使い!蘇生魔法くらい大したことないのにゃ。
でも、死んだ本人の一部がないと蘇らせることはできないのにゃ…」
本人は残念がっているが、蘇生したい本人の一部があれば蘇生することができるということは、それさえあれば蘇生は容易であることを言っているようなもの。
マオは、はぐらかして教えてはくれないけれどいつか身につけた方法を知りたいと思ったクリスは前向きになる。
「それならギルドで捜索を手伝ってもらいましょう!そうすれば人手も多いからきっと見つかるわよ!ロイの一部!」
「わかった!ギルドに戻って蘇生するために全力でお願いするのにゃ!ロイの一部のために!」
クリスとマオは、ロイを助けるためにダンジョンから地上に出るために動く。
すでに死んでいる前提で二人が動いていることに当人すら気づくことはなかった。
・・・・・・・・・
扉の先に待っていたのは何もない空虚な場所だった。歩いても歩いても進んでいるのかがわからない。
いったいいつになればここから出られるのだろうか?
いい加減飽き飽きしてきた頃。
(待たせたな…英雄の卵よ。では試練を始めよう)
さっきまでの声のようだが、口調が異なり雰囲気が柔らかく聞こえる。
(ここでの試練は『向き合え』だ。果たしてどう乗り越えるかな?)
ふっと、何もなかった場所の景色が一瞬にしてがらりと変わった。
もしかしたら、この場所そのものが転移したのかもしれない。
あたりを見渡すと草原に囲まれた大地が広がっている。
先の方にぽつんと建物が見えた。
きっと誰かいるのかもしれない。
俺はそこへ近寄っていく。
近づいていくと、田畑が実りを揺らし。
集落のような場所であることがわかった。
近づいたことではっきりと見えた建物。
それはデカく周囲の建物に混じらない異質感に包まれ、まるで貴族が住んでいるかのような馴染み深い家屋。
よくよく周りを見てみると、俺の見知った建物がそこらに並んでいる。
「まさか、ここはアーリア村か!?」
懐かしの故郷、アーリア村がなぜ試練の場所にある?
あれから約半年は経ったと思うが、それにしては村の広さや田畑の数が少ないように思う。あの忌々しい我が家もあんなに綺麗だったろうか。
「おい!どうした!」
「さっさと立てよ、のろま!」
「ほれほれこっちこいよ!」
なんだろう。この煽り方に覚えがある。
隠れるように建物の影から覗き込む。
「やめてくれよ!俺にかまうな!」
「ロイのクセに生意気だぞ!」
「せっかく俺たちが遊んでやってるんだから感謝しろよ!」
「自分じゃ何もできないんだから俺たちに従ってろよ!」
なるほどな。
試練ってのはそういうことか。
どうやら今見ているこの光景は、俺の過去の記憶。それも嫌な時期の頃だ。
あの頃はずっと自分の弱さに苦しんでいた。
もっと強ければ。こんな奴らに負けるわけがないのにって。
劣等感に塗れていたどん底の日々…。
試練というからにはこの後何度もこの光景を繰り返すのかもしれないな。
俺の予想は正しく。
この後、延々と過去を掘り下げていく光景を眺めていた。
思い出したくもない記憶。
それでも、試練が『向き合え』と言ったからには自分の弱さに目を向けろってことなのだろうな。
悪いが、この過去は俺にとっては過ぎ去ったものだ。
今更過去がどうのというつもりはない。
それにしても悪趣味な試練だと思う。
英雄がなぜこんな試練を用意したのかと疑問だったが、この試練は早々に終わることだけはわかった。
(…おまえは過去に何を見た?)
すると、あの男の声が聞こえてきた。
きっとここで回答することが試練へ進む鍵なのだろう。
「俺は自分の過去を覚えている。見せられた過去以外にも多く支えられたものがあることも知っている。過去があるから今の俺があることを一度たりとも忘れないさ」
過去が今日までの在り方全てとは言わない。
けれど間違いなくあの頃の俺がいなければここにいることはなかったそんな気がする。
(…そうか。おまえにはこの試練は無用だったらしいな。行くといい…次はそれ以上の試練が待っていることだろう)
周りの風景が移り変わっていく。
少し名残惜しいと思ってしまった。
心からこの故郷を俺は嫌ってはいないのだろう。
フレアに会いたい…。
今頃元気にしているだろうか?
手紙ではやり取りは欠かさず半月に一度は送るようにしてはいるが…。
たまには帰ってみてもいいかもしれないな。
場面は変わり何もない殺風景な空間に戻り、目の前には扉がある。
開けると最初に入ってきた場所へ戻ったみたいだ。
(…よく戻ったな、英雄の卵よ。予想以上に早いじゃないか)
地の底から響いてくる低い声。
間違いなく最初のやつだ。
そういえば肝心なことを聞いていなかった。
「なあ今更なんだが、おまえは一体何者なんだ?なんか複数人いる気がするけど」
(我に名はない。だが強いていうなら『導き手』とでもいうべきか。好きに呼べばいい)
「じゃあ『ナナシ』って呼ばせてもらうよ。意味は特にないけどな」
なんとなく。その呼び方がいいかもと思った。本当に意味は特にない。
(…別に構わない。さあ次の試練が待っているぞ!)
なんか声のテンションが上がったような?
名前をつけてもらえたのが嬉しかったのだろうか?
「言われなくてもいくさ。ナナシ、ちなみに今どれくらい時間が経ったか教えてくれたりするのか?」
(一時間程度過ぎただけだ。これまで試練を越えてきた中では最も早い方だろうな)
体感では半年くらい経過したように感じるんだよな。全ての記憶を丸々見せられたわけだし。
「ありがとう、ナナシ。それじゃあ次へ行ってくる!」
(…待っているぞ!ロイセーレン!)
真ん中の扉を開いて中へ進む。
始めた時とは違い、試練への抵抗が少ない。
きっと一つ乗り越えたことで気持ちも軽くなったんだ。
…あれ?ナナシはさっき俺の名前を呼んでいたよな。名乗った記憶がないんだが…。
後で聞いてみるとするか。
ナナシとの会話が少し楽しみになっていた。
名付けた影響だろうか?
試練を乗り越える動機がまた一つ増えて、先ほど同様の空虚な空間に身を置くのだった。
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