第17話 vs骸の王

「あ、あれはスケルトン!?なんだか禍々しい気がするのにゃ!」


マオは、慌わ慌わと落ち着きがない様子だ。


「あれはリッチーよ!それにしては魔力量が桁違いすぎるわ!」


クリスもただのアンデットではないと豪語する。


リッチー。主に魔法使いが死から抗うために自らアンデットになった姿だ。


本来はそうなのだが、目の前にいるリッチーはどうやら違うらしい。


(・・・ワガタカラヲモチダシタモノヨ…。イマコソ、オノガチカラヲシメシテミヨ…!)


なんだかハメられたような気分だったが、

こうしてはいられない!


「マオ!急いで空間魔法を使うんだ!」


「それが、さっきから使おうとしてるのに使えないのにゃ!」


なんだと!?

いったいどういうことなんだ!?


「あのリッチーが、『マジックキャンセル』を使ったのね!すでに使用した魔法を使えなくするための封印魔法よ!」


なんだその反則魔法!?


どうやら逃げも隠れもできないみたいだな。


なぜさっきまで遺骨だったのに、リッチーの姿になったんだ?

宝を持ち出したことが条件らしいが…。


「そうにゃ!お宝を全部戻せば収まるんじゃないかにゃ?」


「イヤよ!絶対に戻さないから!これはあたしが遊んで暮らすために使うの!というか、さっき魔法は使えないっていったでしょ!無効よ無効!」


さっきから進展しない二人の会話に呆れていると。


ふと、手記の破られていたところが思い浮かぶ。もしかしたら…。


「宝具だ!おそらく宝具を持ち出したのが原因かもしれない!」


それなら辻褄が合う。

もしかしたらユリウスってやつは始めから戦うことを望んでいたのかもしれない…。


迷惑極まりないが、内心どこか喜んでいる自分もいるので複雑だ。


ここまできたら、やることはひとつだけだ!


「戦うしかない!やるぞ二人とも!

リッチーだから物理攻撃は効きづらい。俺とクリスであいつを足止めする間に、マオのまだ使ってない最強魔法で倒すぞ!」


「それしかないのね…、あぁもう!あのアンデットめ!無事に成仏できるとは思わないことよ!」


クリスは腹を括ったらしい。


「…や、やるしかないにゃ!いっそのこと、ダンジョンごと破壊してやるにゃ!」


マオはヤケになったのか、物騒なことを言い、気持ちを奮い立たせている。


「それはやりすぎだから!俺たちまで巻き込まれるから!そうならないくらいの火力で頼む。…みんなであいつを弔ってやるぞ!」


合図と同時に、すかさず走り出した俺とクリスはリッチーの陽動役となるため撹乱する。


(フハハ…!ゾンブンニタノシマセテクレタマエ!)


リッチーは上級炎魔法『インフェルノ』を放つ。広間全体が灼熱の炎に包まれる。


余計なお世話だ!と内心呟きながらスキルで大広間に散らばる大理石の硬度を高め、盾代わりにしつつ攻撃を回避する。


「こっちよ!迷惑アンデット!」


その間にクリスが上級水魔法『アクアキャノン』でリッチーに膨大な水を直撃させる。


しかし、リッチーには効果が今ひとつのようだ。すると壁に突き飛ばされた衝撃を浴びて俺とクリスは後退する。


「これよ!これが『マジックキャンセル』!不可視の衝撃波だったのね!それがわかれば大したことないわ!」


(…タタカイハコレカラダ!)


リッチーは浮遊を止めると、自分の影からアンデットであるスケルトンを召喚して、俺たちに差し向けてきた。


ざっと30体弱か。


クリスには水と光魔法で援護してもらいつつ。

スケルトンたちを片っ端から倒していく。


リッチーは隙を見て、炎魔法や闇魔法を撃ってくるがクリスの防御でダメージはない。

僅かの間に召喚したスケルトンを全滅させた。


(…イイゾ!モットタノシマセロ!)


リッチーは高笑い、戦いを楽しんでいるようだ。


「冗談じゃないわよ!あんたにはイイ思いをしたから、せっかく見逃してあげようと思ったのに!天使であるあたしに楯突いたことを後悔するがいいわ!」


クリスは右手を掲げる。

大広間の天井から天の光が集まっている。


【エクセラ】を使う気だろう。


その間に、俺はクリスの準備ができるまで、大広間の彫刻や大理石を投げたり、短剣でリッチーの注意を引き寄せる。


「汝に向ける刃は、悪しき穢れを滅する剣...。世の理に顕現し、神の代行を成すもの...」


クリスの周りに光が集まり、剣に変形していく。…いよいよだな。


「その不浄な末路を解放する者なり!我が力で因果を絶つ!…」


いけ、クリス!!!


「エクセラーキル!!!」


・・・・・・・。


・・・・・・・?


さっきまで集まった光はクリスの前から、

プツンと消えた。


・・・何も起こらなかった…。

・・・あ、あれ?


「なんでよエクセラーーー!!!こんな時に限って、拒否らないでよーーー!!!」


…よくわからないが、どうやらエクセラが使えないらしい。

本当に肝心なタイミングで使えない天使だ。


(ドウシタ、ソノテイドナノカ?)


リッチーはすかさず上級雷魔法【サンダーボルグ】を連続で放つ。


僅かにダメージを負う。

致命打にならないが、俺もクリスも消耗が激しい。

このままじゃ、もたない!!


「ロイ!いつでも打てるのにゃ!」


マオの周囲に何重にも聖なる力を感じる、白き魔法陣が展開されていた。間違いなく大規模な魔法であることを直感的に理解する。


ナイスタイミングだ!マオ!


俺は避けられないように支柱でリッチーを挟み込み、クリスが中級光魔法【ホーリーバインド】で動きを止める。


(…ワガグンゼイデ、オワリニシヨウ!)


油断も隙もなく、すかさずアンデットを召喚してきた。

さっきの倍以上はいるようだ!


「常世にありし亡霊よ…。生と死を分かち、理に背く愚行…。聖なる光は不浄を余さず滅絶せし力…。汝の封印は、この一撃で無にす…。故に眠れ!我が永久とこしえの恩恵は、己が胸に刻み賜った!無想の夢に抱かれよ!

【パージドバニッシュ】!!!」


鮮烈な瞬きもできないほどの白色な輝きがマオから放たれ、リッチーはおろか大量のスケルトンが一瞬で取り込まれていった。


俺とクリスも身動きできずに巻き込まれた。


わずかの間ではあるが、不思議と心地が良い感覚に襲われる。


光が収まったようで、目を開くと。

大量のスケルトンはいなくなり、リッチーの姿も消えていた。


やったのか!?


警戒しながら様子を伺う。

クリスとマオもどうやら無事らしい。


「リッチーの気配はないようね」


「にゃははは!私の最強魔法【聖浄魔法】ならリッチーやアンデットを相手にするなんて造作もないのにゃ!」


さっきまで大慌てして怖がっていたのに、変わり身の早さに驚いた。


しかし、全員無事だ…。

リッチーは強敵だったがマオの魔法で消滅したのは間違いない。


難敵の脅威が去ったのだ。


(・・・・・見事です。本当に倒してしまうとは、思いませんでしたよ)


俺たちは目を合わせる。

どうやら幻聴ではないらしい。


(宝具の力はいかがだったかな?これからの戦いでも、ぜひ役立ててほしいと思う)


「もちろんだにゃ!大事に使わせてもらうのにゃ!」


反応がない。ということは、あらかじめ吹き込んでおいた声なのかもしれない。


(さて…、私を倒した君の強さを見込んで、頼みがあるんだ。手記を読んでくれたならわかるとは思うが、世界は破滅の道を辿っている…、それは紛れもない事実なんだ)


どうやらユリウスの予言は本当らしい。

俺以外の二人は状況を飲み込めていないようだ。


(だから私の代わりに、君が世界を守ってほしい。他でもない私を倒した君にね…。

さあ、伝えることは以上だ…と、言いたいんだけど、まだ伝えたいことが山ほどある…。

あと、もうすぐこの部屋が崩壊するから、詳しくは僕の書物を読んでみてね!)


ユリウスと思わしき声がそれ以上、語りかけてくることはなかった。


は?崩壊?


途端に広間全体が大きく揺れ、立っているのもやっとだ。さらに天井が崩れ、頭に当たればひとたまりも無い瓦礫が降ってきた。


さきほどの崩壊するという言葉は間違いない。


「マズいぞ!今すぐここを離れるんだ!」


危機を察した俺は二人に声をかける。


「最後の最後まで迷惑アンデットね!早く出ないと…そうよ!マオの空間魔法で逃げましょう!封印魔法は解除されてるわ!」


「ムリだにゃ!もうマナタイトの魔力がないのにゃ!」


杖に爛々と輝いていた紅のマナタイトは、漆黒の杖と同化していた。


嘘だろ!?このままじゃ全員で生き埋めになる!


俺は出入口の扉を全力で開けようとするが、びくともしない。

どうやら、扉向こうが塞がれている。


ここだけじゃなくダンジョン全体が崩壊しているみたいだ。


「ダメだ!扉も塞がれてるぞ!」


「イヤーーー!!!もうおしまいよ!」


「にゃーーー!!!なんとかするのにゃ!」


パニックになった二人を他所に打開策を考えるが…、すぐには出てこない。


ふと、ひとつだけ思い当たったが…。


もう時間がない…迷ってる暇はないんだ!

俺はクリスの近くへ駆け寄る。


「クリス!今すぐアヴァロンを貸すんだ!」


「イヤよ!ロイはこんな非常事態に何をしようっての?!」


恥ずかしがるクリスのことを擁護してる余裕はない。

クリスの周りを囲って視界を遮り、持ち合わせの着替えを放り投げた。


「バカなこと言ってないで、それを着てアヴァロンを脱げ!このままじゃ全員潰れるだけなんだよ!」


「もう!わかったわよ!」


すぐに着替えたクリスからアヴァロンを受け取ろうとするが。


・・・弾かれた!


「ほらね。触ろうとしても無理でしょ?今までだってそうだったじゃないの」


クリスが何を今更と悪態をつくが、

今はこれしか思い浮かばない!


「アヴァロン!お前の力を貸してほしい!このままじゃみんな生き埋めだ!俺はお前に相応しくはないかもしれない…。だがこの窮地を救えるのは他でもないお前だけだ!

今こそ最高にして至高の硬度を誇るアヴァロンの実力をみせてくれ!」


必死の説得に応じたのか。

アヴァロンからの反発は起きなかった。


ウソでしょ?とクリスの声が漏れる。


俺は装着せずアヴァロンの形状をアーチ状に変化させた。


「よし!成功だ!みんな中に入れ!もう崩落するぞ!」


二人は飛び込むようにアーチの中へ。


「ロイも早く入るのにゃ!」


「そうよ!早く入りなさい!」


二人が俺を中へ入るように促すが…。


「…悪いが俺は入れない。アーチを保つには外側を触れていないとならないんだ。…だから、あとは頼んだぞ」


中からだと外への干渉があまくなる。

覚悟を決めたんだ、迷いはない。


「何を言ってるんだにゃ!ロイ!早く入るにゃ!」」


「そうよ!こういう時に限って自分を犠牲にするなんてバカのやることだわ!」


二人が無理やり引きずるために、外へ出てきそうだったので。


「すまん…、二人はどうか無事でいてくれ」


アーチの隙間を完全に閉じて、アヴァロンをドーム型にして塞ぐ。

二人が内から叩く音と、全体が瓦解していく音だけ聞こえる。


直後。天井は崩れ落ち。

俺は崩壊した瓦礫の巻き添えとなった。

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