第16話 ユリウスの宝
待っていたのは、山のように積み上げられた黄金に輝く財宝。
まばゆいほどの光輝に包まれ、金貨や銀貨、鮮やかな宝石が輝く星座のように無数に煌めていた。
扇型に財宝を囲うように突き刺さった七つの武器は、まるで財宝を守る番人のような威圧感を漂わせる。
これがユリウスの財宝と宝具・・・。
彼の正体がただの王族ではないことがわかった。
「みてみてロイ!金貨よ!金貨!こんなにあるんだから借金返済どころか、おつりがたんまりくるわよ!」
クリスは財宝を両手に満たしては、上に高く投げている。
舞い散る金銀宝石の類は、余すことがないほど黄金に満たされていた。
「ロイ!みてみて!魔法の杖にゃ!それも宝玉が七つも散りばめられてるのにゃ!」
全ての宝具は紛れもなくには巷には出回っていない一級以上の品ばかり。
マオが触ってる杖に使われてる宝玉は、高純度の魔鉱石。
それも、とびきり貴重な『マナタイト』だった。
マナタイトには魔力を溜め込む性質があり、状態の良い純度のあるものであるほど、吸収する魔力量も多くなる。
噂によると純度の低いものですら、
しかも、この杖のマナタイトは全て純度がほぼ100%の宝珠なのだ。
これでマオの弱点も克服できるかもしれない。
「マオ。この杖なら最強魔法が使えるかもしれないぞ!」
「そうなのにゃ?!これで魔法が打ち放題なのにゃ!!!」
喜びのあまりその場でぴょんぴょんと跳ねるマオは本当に嬉しそうだ。
だが、最強魔法がマナタイト魔力量を上回らないとも限らない。
「そんなわけないだろ。魔力を使ったら補充しないとならないんだからな。でもこれで、当面の間はなんとかなるだろう」
杖に限らず、他の武器もマナタイトが含まれているみたいだ。
貴重なマナタイトがこうもたくさんあるのもおかしな話だ。
それだけじゃない。
希少金属である『アダマンタイト』と、
『オリハルコン』も含まれているのだ。
どちらも最硬度の金属ではあるが。
アダマンタイトは加工がしづらいため直接使われるのに対して、オリハルコンは加工がしやすく鋳造などに使われる。
「あとの宝具は杖と同じような希少素材ばかり使ってるよな。当時は今ほど希少ではなかったのか?」
「いいえ。当時こそ手に入れるのですらやっとだったはずよ。それに、全ての宝具が異常な魔力量を秘めているわ。杖は特にね。いったい誰がこんな上物を作ったのかしら?」
クリスも唸りながら感心している。
これほどの武器を作れる技術を持った作り手なんて、世界中探してもドワーフたちが作れるかどうかだろう。
もしかしたら、彼らですら作れないかもしれない。
「もしかしたら、王子が作ったんじゃないのかにゃ?」
マオは思いついたように話す。
「予言王子は、予知しかできないはずよ。彼にそんな武器を作れる技量があるとは考えにくいわね」
クリスはあり得ないと反論する。
「だが、例外はあるだろうな。ユリウスってやつは転生前にスキルを手に入れたと書いてあったし。普通は成人になってから手に入れるものだから」
実体験で確認済みだしな。
「となると。ユリウスはスキルを二つ持っていたことになるのかにゃ?珍しいのにゃ」
俺もその珍しい一人だけどな。
「あり得るわね。ロイ、どうせ物珍しさでさっきの日記とかもろもろ拾ってきたんでしょ?早く読んでちょうだい!」
クリスめ…。行動が読まれていたなんて。
それなりに長い付き合いだからと納得することにした。
先ほどの手記とは違うものから、宝具について書いてあるところを探す。
気になるページが何か所もあったが今は我慢。
見つけた。俺は二人に声をかける。
近づいてきた二人が両隣にグイグイとくっついてきたのが鬱陶しかったが、
気にせず読むことにした。
『宝具を手にした君へ。
この武器は、私がスキルで作ったものだ。
スキルは、『創造』という。
簡単に言ってしまえば自分が想像できるものを具現化できる力だ。
これを聞いて驚いているかとは思うが。
私はスキルを複数持っているのだ。
ただ、このスキルも何でもかんでも使えるわけではないんだ。
あくまで自分が知っているもの、その効果も知っていることが条件だったりと。
制約が多いのだよ。
さて、君のもとには七つの宝具が置かれているだろう?
剣、槍、弓、杖、盾、斧、刀。
すべてこの世界で売られている代物よりもずっと優れた武器だ。
ぜひ有効に使ってほしい。
この武器たちを引き抜くには、
財宝の中にある宝石をはめ込めば手にできる。
だが注意してほしい。
武器を一つ引き抜くたびに・・・・・・。』
文面が2~3行だけ、引き裂かれていた。
いったいなんだろうか?
『・・・・・この試練を乗り越えたなら、きっと世界の危機を乗り越えることができる。
改めて君の健闘を祈る。
ユリウス。』
読み終わると、破れた部分が気になるが、
改めてユリウスというやつが予言に対して本気で向き合っていたのがわかる。
まさか、本当に起こるのか?
今の段階ではなんとも言えない。
「重要なところがわからなかったけど…。ようはこの宝具を作ったのが王子で、宝具を持って帰っていいってことにゃ!」
「まあ、そういうことね!あたしは武器よりも財宝を持っていくけど」
「いい土産になるだろうから。持てるだけ持ってくぞ」
マオは無数の財宝からいくつか宝石を集め、型にはめるが合わない様子だ。
「合わないのにゃ…」
「形がそもそも違うじゃないか。一緒に探すから試したものは混ぜないようにな」
「ありがとうにゃ!ロイ!」
さて、ここからどうやって探したものか。
「ねぇ。これじゃないの?」
あっさりクリスが見つけてくれた。
「魔力が込められたものじゃないかと踏んだわけよ!どう?どう?あたし、すごいでしょ?!」
「おう、今日は本当に何があったんだってくらいの活躍ぶりだな。帰ったらご馳走だな!」
やったーーー!!!っと、二人はバンザイして喜ぶ。
マオが宝石をクリスから受け取り。
はめ込んでみると。
ガガガ、プシュー。
振動と同時に差し込まれた杖から煙が出てきた。何かの演出だろうか?
マオが杖を引き抜くと、黄金がかった杖は漆黒の染まった。持ち主によって色が変化するらしい。
手にしたマオは右手で持ち上げ歓喜の声を上げる。
「よろしくにゃ相棒!今日からあなたの名前は…。『クロノマギア』にゃ!」
それじゃ…っと。
マオの周りが白く輝きだしたかと思えば、丸い形の謎の空間が現れた。
「マオ、それはなんだ?」
「これは最上位魔法の『空間魔法』。これがあればどんな荷物だって入れることができるのにゃ!」
空間魔法なんて古い伝承でしか聞いたことがないぞ。
「すごいわ!本当に空間魔法よ!まさか実在するだなんて思わなかったわ!マオ、あなたって本当にすごいのね!」
クリスがマオを褒めまくる中、ひたすら財宝を風魔法で収納していた。
「だから言ったのにゃ!私は最上位魔法を使えるって!ただ、収納とワープしかできないのが現状だけどにゃ…」
ワープもできるのか!
それでも十分凄い魔法とは思うけどな。
だがふと気づいた。さっきまで赤く輝いていたマナタイトの色が黒ずんでいるのだ。
「なあ、マナタイトが三つも黒くなってるけど」
「ホントだ、なんでにゃ?」
「二人とも忘れてない?マナタイトに溜まった魔力でクリスは魔法を使えたのよ。つまりマナタイト三つ分が空間魔法に必要な魔力量ってことじゃないの」
まさかとは思っていたが…。
なんてコスパの悪い魔法なんだ。
いったい何人の上位魔術師が必要なのか…。考えたくもない。
「それ以上は使わないようにしよう!あとの四つはひとまず保険ということで。
さっさと財宝をしまったらこの部屋出るぞ」
「もう終わってるわよ〜」
あんなに山ほどあった財宝が一欠片も残っていなかった。
突き刺さった残り六つの宝具も全て回収されている。
クリスの欲深さを改めて認識した。
「いつの間に…、じゃあ今日はここまでにして、帰るぞ!」
収穫は山のように手に入れた。
ようやく問題だったことが片付いた気がしてホッと胸を撫で下ろす。
こうして俺たちは大広間を後にしようと、入ってきた扉に手をかけた。
・・・あれ?開かない?
押しても引いてもびくともしない。
「おかしいな、開かないぞ?」
「貸してみなさいよ。…ホントに開かないわね」
「私の魔法でぶっ壊すかにゃ?」
「やめてくれ!ダンジョンごと崩壊するだろうから!」
ちょっとどいて。とクリスが風魔法を撃ってもかき消されてしまった。
「これ結界で覆われてるわね...何重にもかけられてる。中に魔力を吸収するマナタイトも含んでるみたいだし、いくら最強魔法でも壊すのは難しそうね」
バカな、それってもう…。
「完全に閉じ込められたのにゃ」
マオが先に代弁してくれた。
どうするか・・・。
仕方ない...やむを得ないか。
「マオ!空間魔法でギルドまでワープできないか?」
苦肉の策だが、ここは最上位魔法に頼らせてもらおう。
「それはできないにゃ。ワープ先はあらかじめ決めておかないといけないから。無条件にできてもダンジョンの入り口がせいぜいなのにゃ」
「十分だ!それで頼む!
マオが魔法を使おうとしたその時だった。
後方から勢いよく力強い何かに押され、俺たちは壁に突き飛ばされた。
「なんだ?!」
振り返ると先ほどまでの大広間の形は無く。
突如として、広間全体が崩壊しそうなほど、ボロボロに成り果てていた。
壁はひび割れ、天井からは破片が降り注ぎ、壮大な装飾された彫刻は亀裂やら、壊れ崩れ落ちている。
大理石の床は地割れで足場が悪く、不規則に裂け、まるでこの場所が維持することに抗いきれない寸前のような、悲惨な光景だった。
広間の奥に何かが宙に浮かんでいる。
それは先ほどまで玉座にいたユリウスのものと思われる白骨だった。
彼は圧倒的なプレッシャーを放ち、骸骨の手には魔力のオーラが宿っている。
無いはずの瞳は、闇に魅せられたように赤く光り、こちらの全てを見透かしているかのように錯覚させる。
その威厳さ恐怖を煽る佇まいは、
冥府から甦った死者の王だった。
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