第15話 予言

新しく出現したこのルートはしばらく一直線に続いている。

記されていないところを、マップになんとなく書き込んでいく。


「ロイ。それじゃ距離が合わないわよ。まだそこの半分くらいしか進んでないから」


クリスは俺のマッピングがおかしいと指摘する。


「それならクリスがやってくれないか?俺はこういうの慣れてないんだ」


「いやよ、めんどくさいもの。…でもそうね、あたしを天使様と敬うなら考えなくもないわね」


こんな時に調子のいいやつだ。

癪に障るが仕方ない、アレでいくか…。


「今日の晩飯は俺が奢るからそれでいいだろ?」


「言ったわね!約束よ!今日は美味しいものたらふく食べてやるんだから!」


敬愛より、食い気をとる天使とは如何に?


クリスにマッピングを任せ。

しばらく進むと突き当たり、左右に分岐している。


どちらへ進んだものか?


「右だにゃ!こっちの方がありそうな気がするにゃ!」


マオは右がいいという。

ということは…。


「じゃあ左だな。マオの反対を行けば間違い無いだろう」


「心外だにゃ!私がなんでも間違うわけがないにゃ!」


これまでが間違いだらけだから、言ってるんだが...。


「クリスはどう思う?」


「どうなのにゃ?」


俺とマオはクリスの判断を尋ねる。


「何言ってるのよ。真ん中に決まってるじゃないの」


クリスが指さす方へ体を向ける。

どう見ても突き当たった壁。

どこにも進むところは見当たらないように思う。


「ただの壁だぞ?」


「幻覚でも見てるのかにゃ?」


マオと二人で大丈夫か?という視線を向ける。


「二人とも…まあいいわ。見てなさいよ」


呆れたクリスが壁にはめ込まれた、白いタイルの一つに手を触れると。


ガコン。


壁のタイルの一つが窪んだ。

すると壁が崩れ落ちて、通路が浮かび上がってきた。

中は真っ暗だが、奥に灯りが見える。


唖然とする俺とマオ。


「二人とも、ダンジョン向いてないわよ」


ぐぅの音も出ない。

なんだか今日のクリスは頼もしい。

いつもこうだったらいいのにと心から思う。


「ありがとなクリス。なんだか今日はいつもと違うな、期待してるぞ」


クリスが驚いた顔をして、そのまま固まってしまった。


「どうした?」


何かを思い出したかのように、うわの空だったがすぐに反応する。

 

「…なんでもない。まったく、いつも褒めてもバチは当たらないのよ!もっと崇めなさいな!」


どや顔のクリスに、俺はため息一つ。


何も見ていないかのように、スルーして開いたルートへ入る。

マオも察したように続く。


「ちょっと!二人とも何か言ってよ!」


クリスは慌てて追いかけた。



行き着いた先は大広間。

中央には立派な大理石の床が広がる。

赤く絢爛な敷物が敷かれていることから位の高い貴族がいたことがわかる。


それだけでなく、見上げると壮大なアーチ型の天井はどこまでも続くかのように錯覚させる。


壁には不思議な模様が浮き彫られた人型の彫刻が並び、燭台は壁に設置され、不規則なキャンドルが静かに炎を揺らしながら、広間全体を写す様はどこか華やかで不気味な感覚を覚えた。


「ダンジョンにこんなところがあったのか」


思わず声を出さずにはいられない。


「とてつもなく広いのにゃ。見たことないものがたくさんある…」


マオは感心して広間を見渡している。


「貴族は貴族でもかなり家柄は良かったようね。規模が普通じゃないもの」


まるで見てきたかのように、冷静に広間を観察するクリス。

…本当に今日はどうしたんだ?


大広間の真ん中あたりまで来ると。


奥には玉座があり、白く輝く宝石が散りばめられていた。そこに腰をかけるよれた豪華な衣装を纏う白骨が対照的で、その横には古びた書物が一冊と生前の遺骨の主が書いたであろう手記がいくつか乱雑に散らばっていた。


その一つを手に取り開いてみる。

文字が掠れていて読みづらいが読めないことはない。


二人も両隣から覗き込む。


「知らない字、なんて書いてあるのにゃ?」


「あたしもこの字は知らないわね。珍しい字体だわ」


どうやら二人は読めないらしい。


「この字は、『日本語』っていうんだ。聞いたことないか?」


俺はこの文字の存在を知っている。


「にほん、ご?どこの言葉なのにゃ?」


「どこかで聞いたことあるわね。でもどこだったかしら?思い出せない」


「いや日本語は日本って国の言葉…。あれ日本?」


この国には日本なんてものはない。

なぜ俺はこの言葉を知っているんだ?


・・・ダメだ思い出せない。


「とにかく読んでみるのにゃ!お宝について書いてあるかもしれないし!」


「そうね!ロイ読んでよ!」


二人に催促されたので、日本語について考えるのは後回しにする。


初めのページから読んでみることに。

手記にはこう書かれていた。


『これを読んでいる同胞よ。

ここまできたということは、私はもうこの世にはいないだろう。


私は『ユリウス』という。とある王族の第一王子だ。

ここにいるのは、とある研究のため。


これを読む君に、身内にも、愛する妻にさえも、ずっと話さなかった秘密を告白しておこう。


・・・私は、この世界の人間ではない。


いや、正確に言えば。

私は前世の記憶を引き継いだ人間である。


前世からこの世界へ“転生”してきたのだ。

それも前世の記憶を引き継いだまま...。


これを運が良いと呼ばずしてなんと言うか。


・・・さて。

ここには愛する妻とのラブロマンスでも書こうかと考えたが。


私はある日“世界は滅びる運命にある”ことを知ってしまったのだ。』


「にゃんと!?」


「どういうこと!?」


二人が驚きのあまりツッコむ。

俺も読んでいて信じられなかった。


転生者という言葉に聞き覚えがあるのだが。

・・・やはり思い出せない。


だがそれよりも…世界が滅びる?

話が大きすぎて実感がない。


どういうことなのか、続きを読んでいく。



『・・・世界が滅びるといって君はありえないと思うだろう。


でも、これは紛れもない事実なのだ。


もし君たちの世界に『救世主』と呼ばれる存在が出現した時…、世界は大きく動き出す。


もっとも最悪な方法で。


私たち人類含め獣人やエルフ、妖精、竜族、生息するモンスター…、多くの存在がたった一人の救世主により世界のバランスを乱され争いの種が蒔かれるのだ。


そして世界は。

乱れたバランスを正すために、一度世界を滅ぼす。


私はそれを“カタストロフ”と呼ぶ。


君にはカタストロフを防いでほしいのだ。


これから訪れる未曽有の危機から逃れ、無事に全員が生還することを望む。

犠牲は出さない方が賢明である。それは種族を問わずにだ。


そもそもなぜ私に予言ができるのかといえば。

スキルのおかげといえば話は通じるだろうか?


私のスキルは、『予知』という極めてまれな能力を転生時に授かったから。

制約があるためコントロールできるわけではなかったが。


この予言も私がこの隠れ家で余生を送っている間に視えたものだ。


防ぐための対抗策を教えよう。

“人々の希望となる勇気あるもの...。剣に愛されし天の祝福を与えるもの...。

東にいる和をもって豪を成すもの...。魔に選ばれ従えるもの...。

神のごとし力で世界に干渉するもの...。”


彼らを見つけ助力を願うのだ。

滅びる世界で唯一救えるのは、彼らだけである。


君にも世界の危機を救うために力を貸してもらいたい。


私の玉座の後ろに、財宝と宝具がある。

ぜひ役立ててほしい。

きっと力になれるはずだ。


あるいは君が世界を救うのかもしれないな。


それでは健闘を祈る。


ユリウス。』



手記にはそれ以上は書かれていなかった。


嘘みたいな話だと思うが。

本当の話である可能性も否定できないだろう。


「その話、ほんとうかにゃ?」


「どうだかな。でも事実だとしたら救世主ってのが気になるな」


「バカらしいわね。そんなの考えたってしょうがないわよ。それよりもお宝よ!お宝!奥に行ってみましょうよ!」


「そうだにゃ!奥に行くにゃ!待ってて宝玉~!」


そそくさと奥へ行ってしまった。


二人は気にしていないようだが。

俺はやはり気になった。


特に対抗策の中にいる人物の一人に“世界に干渉するもの”とあった。


これって“ステータス操作”じゃないか?

まさかな・・・。


さらに調べる必要があると考えた俺は。

テーブルにある一冊の書物と、読んだ手記の他に落ちている手記を持ち帰ることにした。なにか役に立つかもしれない。


「す、すごいわよ!なにこれ!?」


「お宝の山だにゃ!ロイも早く来るにゃ!」


わかった!と返事をして。

奥にいる二人の声が気になるので、急ぎ足で向かった。

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