第14話 ダンジョン

パーティーにマオが加入してから半月が経過した。


早くも俺はパーティーを解散したいと思っていた。


相変わらず、クリスのクズっぷりとポンコツっぷりは、もはや健在と言わざる終えないので気にしたくもない。


それよりもマオだ…。

彼女の方にも問題はあったのだ…。


ステータスが俺より少し高く、魔力0伸びしろもゼロなだけが問題の魔術師だと“最初”は思っていた…。


それだけではなかったのだ…。


「ロイ!見て見て!この魔法石は魔力を増幅させる効果があるらしいのにゃ!」


喜びのあまり興奮しているマオが全力で駆け寄ってきた。

少し落ち着くようになだめる。

持ってきた魔法石とやらを怪しみつつ。


「…それいくらなの?」


冷静に答えを聞くことにした。


「驚かないでよ!なんと金貨1枚!これは紛れもなく最高の品だにゃ!」


自信満々に言い切るので、魔法石とやらが本物か念の為鑑定してみる。

それは、ドラットの魔石を加工しただけの石ころだった。

まあ見間違えるはずもないのだが…。


「誰がどう見てもガラクタじゃないか!なんでこんなゴミを貴重な金貨で買ってくるんだよ!」


「そ、そんなこと言われても...。店主の人が勧めてくれたし…それに直感で本物って確信したのにゃ!」


「おまえの直感は的外れなんだよ!一体いくつガラクタばかり増やす気だ!目利きは任せろっていうから様子をみてたが限度があるだろう!今までどうやって生きてきたんだ!」


何度も何度も使えないゴミアイテムばかり集めてくるこの猫はきっとゴミ集めという特性があるのかもしれない。


「そ、それは…今まではポーション作りとかで買い物なんてほとんどしてないし…宿でご飯はついてきたし…他にも…とにかく!ロイがポーションは禁止って言うからこうなってるのにゃ!」


間違いなく俺が悪いみたいに言い切りやがった。


「はじめの頃、俺は言ったよな?わからないことは聞きましょう。何か困ったら相談しましょう。一人で判断せずに確認をしましょうって」


淡々と事実を述べる。


「あまりにもガラクタばかり買ってくるから俺と一緒に買うか、一任するかにしようって言ったのに拒んだろ?俺はなにかおかしいことをしたか?」


ど正論を突きつけると、マオが涙目になりながら。


「そ、それは全部ロイが…」


まだ人のせいにするのか…。


「なんだって?」


言い訳無用とばかりに俺はマオを見る。


「ご、ごめんなのにゃ!悪かったのにゃー!ふええーーーん!!!」

 

泣かせてしまったが、これはマオのためなんだと心を鬼にする。


自分の非を認めたところはまだクリスよりマシだろう。


ギルドの連中が鬼だ、女泣かせだ、と誤解を生むような声がしたので。

弁解しようとするが、スルーされる。


「とにかく、しばらく魔力補完のアテを探すなら俺がいる時にしてくれ。これ以上は問題を増やしたくないんだ」


切実に訴える。

まだクリスの借金が残っているのに。

これ以上増やしてたまるものか。


そもそも、強くなるために組んだパーティーでなんで関係ない金のことを心配しないといけないんだよ!


「うぅ…。早く魔法が打ちたいのにゃ!吹っ飛ばしたいのにゃ!ぶっ放したいのにゃ!」


ギャーギャーギャーと駄々をこねる子どものように騒ぎ始めた。


おかしい。最初の頃は可愛く思えてきたのに、だんだんと鬱陶しさが増してきてる。


これはまずい。

手遅れになる前になんとかしないと...。


なんとしてでも借金解消とクリスとマオを更生するんだと固く誓った。



俺はアミさんにこの現状をなんとかしたいと相談した。


「それは大変ですね~」


なぜだろう。アミさんが話をまともに聞いてくれなくなったような気がした。


「ちょ、真面目に話してるんですよ!このままじゃ俺たちは冒険せずに借金まみれ。最悪奴隷落ちなんです!なにかクエストでガッツリ稼げるものはないんですか!」


アミさんにこれでもかと懇願した。


「私は最初から言っていたではないですか。パーティー仲間は慎重に選びましょうと。ロイくんの実力なら正直DやCランクのパーティーでも通じるとは思いますよ」


ギルドから現在のランクと実力について客観的評価をした一枚の診断書みたいなものを渡された。


中見を見ると、ランクEは以前として変わらないが、もう少しでDになりそうだ。クエストも大きな失敗はなく、達成数も討伐数も基準を満たしている。実力については、火力不足ではあるが前衛でも後衛でも立ち回れる指揮官タイプであると評価された。


自分からだと見えない部分を、こうして他人からみた評価として意見をくれるのは非常に参考になる。


ただ、備考にある。

『パーティーメンバーに問題児多し。

人の見る目を養いましょう。』

という言葉は余計なお世話だと思った。


「そのように評価してくれるのは嬉しいのですが、やはり俺は自分のパーティーがいいので。ただ…仲間については要検討ってところですが...」


真面目に見直さないといけないと思い始めている。


「パーティーメンバー募集をするならお手伝いしますし、私の方で、ロイくんと相性のよさそうな人を探してみましょうか?」


アミさんはなんて気の利く人なんだろう。

さすがはギルド受付嬢ナンバーワン。

本当に頼りになる人だ。


「ありがとうございます。本当にどうしようもなくなったら力をお借りします」


最後の最後の保険を手にした気になり、肩の荷が少し降りた。


「わかりました。手遅れになる前に“必ず”おっしゃってくださいね」


必ずってところを強調されたような?

てことは俺のパーティーって、もう手遅れ一歩手前だということか?


「では、相談された内容で思い当たる。一攫千金のクエストがありますよ!…『ダンジョン』探索です!」


「ダンジョン、ですか?」


ダンジョンとは、太古の昔からあるとされる地下に存在する迷宮のことだ。中はモンスターはもちろん。トラップやアイテムが点在している。


いいことばかりではない。

数多の冒険者が訪れて帰ってこなかったクエストの第一位がダンジョンだ。


大きなリスクはある。

しかし、それ故にまだ見ぬ隠し通路や膨大な秘宝が眠っているのもダンジョンなのだ。


つまり冒険者にとってダンジョンとは、

ロマンが詰まった夢の場所である!


「街から南西に向かった場所にある『カルテナのダンジョン』があります。そこはまだ調査が追いついておらず、未開拓な場所も多いのです」


つまり、その未開拓な場所へ向かえば財宝が残っている可能性が高い。


「そのクエスト行きます!」


「はい!受理しました!気をつけて帰ってきてくださいね!」


そして、ダンジョン探索のために二人を呼び出した。


「ダンジョン?私は構わないにゃ」


「ダンジョンなんていくの?あたし今日はゆっくりしていたいんですけど〜」


マオはついてきてくれるようだが、クリスはやる気がないらしい。


「じゃあ俺とマオで行ってくるからな。お宝見つけてもクリスには取り分はないからな」


「ロイの意地悪!あたしもいくわよ!でも早い者勝ちだから、お宝ゲットしたらあたしのね!」


どこまで強欲なんだこの天使は。

原因を使ってる自覚はあるのか?


 「お宝かにゃ!その中に魔力をあげる秘宝とかないかにゃ?」


「あるかもしれないな。正直それとパーティーの資金集めが目的なんだ」


あわよくばモンスターとの戦闘も期待している。


パーティーの意見も一致したので、準備と支度を済ませてダンジョンへ向かった。



・・・・・・・・・


南門から南西へ少し行ったところ。


廃れた町の跡が残っていた。

建物は崩壊し、見るも無惨な光景だ。

どうやら戦争によって犠牲となったらしい。


肝心のダンジョンは古びた廃城跡の中庭にあるらしいのだが…。


「もしかして、これか?」


地下に続く長い階段がある。

入り口にもダンジョン名があることから間違いはないのだろう。


「さあ!魔法の宝玉を手に入れるのにゃ!」


「そんなのあるかわかんないでしょ!だけどお宝は間違いなくあるわね!そういう匂いがするわ!」


「とにかくダンジョンは危険が多いと聞くから油断するなよ」


お宝を期待するやる気満々の猫。

嗅覚が鋭いらしい天使。

最新の注意を払う俺は、まだ知らぬダンジョンに踏み込んでいく。


中を進んでいくたびに入り口の光が遠ざかる。先の見えない暗がりと不気味さが際立っている。

通路はタイルが敷き詰められていて、大人五人くらいは並んで入れるほどに広くなった。


今のところはモンスターは見当たらない。


俺たちは照明用の魔道具を手に持ち。

慣れないダンジョンを探索する。


「ねぇ。今どこにいるのにゃ?」


「地図だとこのあたりだな。入って少ししたところに部屋があるらしい」


その部屋があるらしい扉を見つけた。

鑑定でもただの木でできた頑丈な扉だとわかった。施錠はされていない、慎重に開ける。


中は真っ暗だったが照明用の魔道具に魔力を流し込み、部屋全体を明るくする。


どうやら書斎のようで、多くの書物が本棚に敷き詰められ、どれも埃まみれである。


一人が使うには広いテーブルと大きなイスがあった。きっと恰幅の良い人が使っていたもなのだろう。


「なんか貴族が使ってそうな場所だよな」


あたりを隈なく調べている中で呟いた。


「あのね。ダンジョンってのは昔から王族貴族なんかが生き残るために作ったものなの。それがモンスターの巣窟となったのが今のダンジョンってわけ」


「あれ?古代からあるものじゃないのか?」


「そういうのもあるにはあるけど。ほとんどはこのダンジョンのように貴族の隠れ蓑として存在してるのよ。わかったかしら!」


ドヤ顔で煽るクリスに内心腹が立つ。


「詳しいのにゃクリスは!」


「あたりまえじゃないの!なんたって天使ですから!」


天使ってのはなんでも知ってる辞書なのだろうか?だんだんクリスがすごいやつに見えてきているのは気のせいと思いたい。


しばらく探索して、いくつか部屋があるのでそこも調べようとしたら、あからさまな宝箱が奥の部屋にあった。


「あ、お宝!ちょっと取ってくるにゃ!」


「待て待て!」


マオのローブを引っ張って止める。

なんでこうも無鉄砲なんだ。


「あんなあからさまなトラップなんて怪しすぎるだろう」


鑑定によると、『ミミック』というモンスターのようだ。擬態することで人やモンスターを喰らっている。ダンジョンや秘境の地に住み着いているらしい。


その辺の石ころをミミックに投げてみると。

宝箱が開いたと思えば、それは大きな口で鋭利な歯と舌を覗かせて石ころを噛み砕いた。


「キ、キモいにゃ!」


「ねぇちょっと、ロイ。一回、喰われてきてよ」


悪びれもせずにクリスはトラップに引っかかれという。


「なんてこというんだよ!そういうクリスが言ってこいよ!」


「あたしはダメよ!偉大な天使がミミックに喰われてるなんて、そんな間抜けしてたらお笑い草よ」


日頃からの言動や行動、迷惑行為でどうしたら“偉大な”なんて言葉が出てくるのか。


「とりあえずミミックは動けないから放置するぞ。探索の続きだ」


俺たちは部屋の捜索を終えて、次の場所へ移動しようとした時だった。


「いくぞーってあれクリスは?


クリスがいないことに気づく。


「クリス〜。どこにゃ〜!」


ここよー!


遠くから聞こえる声。

それはさっきのミミックのいた部屋だ。


「何してるんだクリス」


「やっぱりあのミミックの後ろがどうしても気になるのよ」


クリスはどうしても引き下がりたくないらしい。


「わかったよ。あいつを倒して何もなければ次に行くからな」


ミミックに喰われる前にトドメを刺す。


ミミックは本性を現すときまでの距離が決まっている。

俺は短剣で斬りかかるとミミックにギリギリ喰われる手前で短剣を上蓋へ串刺しにした。


倒したミミックはガス状に化けて形を変え、

小さな鍵に変化した。


「鍵になったぞ!」


驚きのあまり声を上げた。


「ダンジョンではモンスターを倒すと稀に『ドロップ』。つまりアイテムを落とすのよ。だからモンスターを倒していくと面白いアイテムが手に入ることもあるの」


それを先に言ってくれよな。

だがモンスターがアイテムを落とすだなんて聞いたことがなかった。


アミさんからそんな話は出てこなかったし、クリスはどこまで知っているんだ?


俺は鍵を拾い上げるが、そもそも開ける場所について思い当たらなかった。


「どこで使うんだこの鍵?」


「部屋中探してもそれらしい鍵穴とかは見なかったにゃ」


「二人とも、あの壁の小さな穴。あれじゃない?」


クリスの指さす方へ近づいていくと。

壁に小さな鍵穴が空いていた。


俺たちは互いに頷き合って確かめる。

ドロップした鍵を差し込み回した。


ガタガタガタガタ


部屋全体が揺れ始めた。

まさか崩れるのではと覚悟したが、差し込んだ壁が開かれて新たな通路が出てきた。


中は不思議な青白い光で照らされ奥の方にまで続いている。

明かりは必要なさそうだ。


俺たちは隠された未開ルートを見つけた。

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