第12話 ポンクズ天使とパーティー結成

「おい、ガキ!痛い目見たくなかったらさっさと謝れ!」


ゴロツキの一人が大声で怒鳴っている。


「なによ!あんたたちの方が原因でしょ!謝って!そっちが謝って!」


可憐な少女?とゴロツキ冒険者たちがなにやら揉めているらしい。

少女も強がってはいるが、もしかしたら怖がっているのかもしれない。


「お巡りさん!ここに女の子を乱暴にしようとしている人が!」


明後日の方へ大声をあげた。


「ちっ!誰だそんなことを言いやがった奴は!」


ごろつきに気づかれる前に、

俺は路地裏に潜んで様子をうかがう。


「マズいぜぇ、一旦引こう!」


「クソがっ!テメー後で覚えておけよ!クソ天使!」


「誰がクソよ!あんたたちの方がよっぽどトイレがお似合いよ!」


五人のごろつきは文句を垂れながらその場を立ち去った。


どうやら危機は脱したみたいだな。

俺は路地裏から何事もなかったかのようにギルドへ向かう。


「ねぇ。あなたが助けてくれたの?」


突然声をかけられてバレたかと思い。

恐る恐る振り返ると、さっきの天使がいた。


「助けてくれてありがとね!あいつらほんとしつこくってさ!」


「えっと、なにかあったの?」


何も見ていないことにしてその場を逃れようと試みる。


「残念だけど、あたしには『真実の目』がついているから。嘘を言ってもバレちゃうよ」


天使の力とはまだまだ未知の部分が多い。

言われるまでは知らなかった。


「…そんなものがあるのか。そうです、俺がやりました」


認めざるおえない。

スキルの力かもしれないが、聞いても答えてくれないだろう。


「よろしい!あたしはクリスティーナ。クリスって呼んで!」


無邪気な笑顔が心を和ませてくれる。

きっと悪い子じゃないんだろう。


「俺はロイセーレン。ロイでいい。クリスは、なんであいつらに絡まれてたの?」


きっととんでもない言いがかりをつけられたのかもしれない。

俺は原因を確かめたかった。


「あいつらがね、馬鹿にしてきたから。

ちょーーーとだけ、仕返しにいろいろ言ってやったのよ。…で、あまりにも腹が立ったから表へ出ろ!っていったらこうなった」


ようするにどっちも悪いってことか。

呆れてため息をつくと。


「そうそう!あたし、これから防具を取りに行くんだけど。せっかくだからついてきなさいよ!自慢の一品を見せてあげるから!」


自信満々な彼女に少し不安を覚えたが、

自慢の一品とやらが気になったのでついていくことにした。



・・・・・・・・・


「・・・な、なんじゃこりゃ?!」


クリスの行きつけの防具屋に着いて、

さっそく防具を見せてもらったのだが。

これまでに、見たことがない高価な防具が出てきたため驚きを隠しきれなかった。


聖なる力を感じさせる青と金色の輝きを放ち、その存在感は英雄譚に出てくる最強の守りを象徴した鎧のようで。

男なら誰しも装備したいと思ってしまうカッコいい防具だ!


「どう?すごい?!すごいよね?!これがあたしの防具、『アヴァロン』よ!」


どうやら超合金の素材『アダマンタイト』を惜しげもなく使っていて。

この店でも一二を争う代物らしい。

店主が自慢そうに語ってくれた。


「なぁ、クリス!俺に一回装備させてくれないか!?」


興奮のあまり、つい本音が漏れてしまった。


「いいけど。着られるかわからないよ」


わからない。というのが引っ掛かるが。


ウキウキと心が弾む。

ここにきてよかったー!


装備するため防具に触れようとした瞬間。

見えない圧力によって店の壁に突き飛ばされた。


「いっててて…。いったいなんだよ!?」


何が起こったのか理解できないでいた。


「アヴァロンはね。着る人を選ぶんだよ、自分にふさわしい人にしか着せたくないっていうプライドがあるらしいの」


なるほど、選ばれしものしか装備できない防具ってことか。

防具にも選ぶ権利があるのは知らなかった。


「クリスは着られるのか?」


「あたりまえでしょ!あたしの防具なんだから、とうぜn・・・」


クリスも触れようとした瞬間にあっという間に壁まで吹き飛ばされた。

あれ、着られるんじゃ?


「…へぇそうですか。直してあげたのに。そうやって仇で返すんですか…。上等じゃないのこのクソ防具!!!」


キレたクリスが防具相手にケンカを始めてしまった。俺は抑えるようにクリスを止めるが歯止めが効かない。

店主も大慌てして止めようとするが、どうにもできず涙目になっている。


なんとか、決着がついたようで。

クリスが防具を装着し終えた。


その姿は立派な聖騎士のようで。

誇りと正義を全うする騎士の鏡のように見える。


「よし!この防具がどれくらい耐えるのか、しかと見せてもらおうじゃないの!覚悟しておきなさいよアヴァロン!アハハハッ!


装備した側は、悪意と欲望にまみれた。

騎士とは正反対な天使だ。


「なあ、よかったらこの後クエストを受けようと思うんだが、一緒に来るか?」


物珍しさでつい誘っていた。


「いいの!?いくいく!できれば防具の性能が試せるモンスターで、強すぎないのが条件ね!」


すごく半端な条件だが、アミさんに言えば何とかしてくれるだろう。


「わかった、じゃあ行こうか」


「お~う!!!」


店主にお礼を伝え。

テンションの高いクリスとともにギルドへ向かった。



・・・・・・・・・


さっきから視線が痛い。

それもそのはずで俺の隣には恐ろしく目立つ防具『アヴァロン』を装備してるクリスがいるからだ。


しかも、さっき言い争っていたゴロツキ冒険者も近くにいる。


クリスにアレは大丈夫なのかと尋ねても。

なんのこと?

といって誤魔化しているのか、または能天気なだけのか。

よくわからない回答しかしない。

きっと気にしてないということがわかった。


「えーっと、ロイくん…。こちらは?」


「クリスっていうんだけど。一緒にクエストを受けようと思って」


そうなんですか~。

と適当に流された。

なんだかアミさんの様子がおかしい。

何かまずいのだろうか?


「そうですね。お二人のランクに合って、さっきの条件を満たすのなら、風狼ウィンドウルフなんてどうでしょうか?」


「じゃあ、それを受けます。いいよな、クリス?」


「えぇ!風狼なら大したことないけど、攻撃は刃物よりも鋭いからうってつけね!」


「では、受理しましたのでお気をつけて!」


いくぞー!!!と、ノリノリでクリスはギルドを飛び出した。

俺も後を追うように行くが、アミさんに止められる。


「ロイくん、気を付けてくださいね?クリスさんはかなりクセのあるかたですから」


はい。と軽く受け止めて出発する。

なんだかほかの冒険者の視線が、冷たい目で見ているように感じたのは気のせいだろう。



西門を出発した

クエストは近隣の村近くに住みついた風狼の討伐。

討伐数は五匹、群れでいる可能性があるが。

二人なら何とかなるだろう。


俺たちは草原を歩いていると遠くにモンスターらしい影を発見する。


「あれが風狼か?まだ遠くてよく見えないな」


「どれどれ…。ああ、あれよ風狼。ぴったり五匹いるわね」


この距離から見えるのか?!

まだ数百メートルくらいあるぞ!


天使の力に感心していた俺は、風狼を倒す算段をつけていると。


「じゃあ、あたし先に行ってるから!全部討伐したらアタシの取り分ね!」


「え!?おい、まてクリス!」


翼を広げてクリスが先に行ってしまった。

・・・とおもったが。


クリスは少しだけ飛んですぐに落下した。


「…おーい。大丈夫か?」


「お、重い…。やっぱり防具つけたまま飛ぶのは無理ね」


そんな現実的な話は聞きたくなかった。


気を取り直して、風狼たちの近くまできた。

まだ気づかれていない。

鑑定で見るかぎり、これまでの強敵よりかは劣る。

だがEランクモンスターの中でもDに近いのが風狼。油断禁物だ。


クリスに作戦を伝えた。

内容はクリスの防具テストもかねて、おとりとして攻撃を耐えてもらう。

その間に俺が奴らの弱点である、額の魔石を砕くか首を切って倒すという手筈だ。


「いくわよ!風狼!勝負よ!」


風狼たちはクリスの方に集中している。

よし!いい調子だ!俺は回り込んで隙ができるのを待つ。


ガアアアアア!!!!!


風狼たちは風魔法『ウィンドカッター』を放つ。

しかし、クリスの防具に傷は一つもつかなかった。


「どうしたぁ?!その程度か~?風狼?!このザコめぇ~!アハハハッ!!!」


その煽りセリフは何とかならないのかと思っていたら。

何かが伝わったのだろう。

クリスに嫌悪感を示した風狼たちは接近して追い詰めてきた。


「え!?ちょ、え!?まった!待ってよー!!!」


クリスは全力で逃げるが、風狼たちの足は当然速い。


いい感じに風狼が集まってくれたおかげでスキルを発動する。

クリスの走るすぐ後ろに大きな穴を空けて、風狼たちを落とす。

よし!全員落とせたようだ。


様子を見に行くと。

風狼たちが吠えて助けを求めているように見えた。


「ナイスよ、ロイ!どうだ、あたしを追いかけた罰よ!神に償いなさい!」


さっきまで泣きわめていたのに有利になると態度が大きくなった。

この天使はいつか刺されるかもしれないと。

至極当然に思えてしまった。


さっさと風狼たちを倒そうとした、そのときだった。


ウオオオオーーーーーン!!!!!


異様に響く雄たけびが聞こえた。

振り向くと、ドデカい体躯をした風狼がこちらに猛スピードで駆けてきた。


「な、なんだよ?!あれ!」


「し、しらないわよ!あたしは何もしてない!」


逃げるかどうか悩んでいる合間にそのモンスターは現れた。

このモンスターは、上級風狼アークウィンドウルフ

Cランクモンスターだ。どうやらこの風狼たちの親らしい。


俺たちはその威圧感に固まっていた。


「ロイ…。これマズいやつよね?」


「あぁ、少なくとも他のモンスターとはわけが違うな」


ガルルルルル!!!!!


戦闘態勢に入っている。

もう逃げられなさそうだ。


「逃げるわよ!ロイ!」


「クリスは離れていろ!俺がコイツを倒す!」


クリスを逃がして俺だけでも時間を稼いでやる。


「ちょっとカッコとかつけなくていいから!命だいじ!ねぇ、そうでしょ?」


クリスのいうとおり。命は大事だ。

でも、俺が倒そうとしている敵はもっと強い。

ならばこんなところで尻込みなんてできない!


「俺は強くならないといけない!こんなところで躓いてはいられないんだ!」


「バカじゃないの!早く逃げなさいって!」


うおおおおお!!!!!


俺はクラスの警告を無視して、上級風狼に特攻する。

奴は中級魔法の『ハリケーン』を使ってきた。

あたり一帯に竜巻が発生する。


スキルで片足ずつ交互に筋力を高めて上級風狼の懐へ入る。

短剣の鋭さを高密度にして切り裂く。


グガアアアアア!!!!!


大声をあげて腹から大量の血が噴き出る。


「強い…」


クリスがポツリと呟く。


怒り狂った上級風狼は、中級魔法の『ハリケーン』を連発する。

俺はその風圧に耐え切れず。

身体が空に放り出された。


魔力災害の時を思い出す。


上級風狼は飛び上がり爪で切りつける。

地面に叩きつけられたが、防具の耐久をあげていたおかげで助かった。


しかし、思ったよりもダメージが大きい。

奴はまだ余力がありそうだ。


トドメとばかりに魔法を放ってきた。

まともに食らえばひとたまりもない。

俺はやられる覚悟した。


「・・・まったく。強くなりたいやつって、どいつもこいつも頭がおかしいわよ」


直撃したと思った魔法は霧散して消えていった。

助かった・・・?


目の前にいたのは。


「しょうがないから。あたしがコイツを倒す」


正真正銘の騎士がそこに立っていた。



上級風狼は魔法を打ってくるが。


「もうその攻撃はいいから...」


クリスがすべての攻撃を防具によって無効にしていた。

上級風狼はひるんでいる。


「これで終わり…あなたを狩る!」


クリスは右手を掲げると天から光が注がれる。

そこには輝きが溢れかえると、眩く白光した絶対的な存在を露わにした剣が現れた。


「汝に示す刃は、悪しきものを滅する剣...。世の理に顕現せし、神の裁き...。その不浄の姿を断罪する者なり!我が力を見よ!

エクセラーキル!!!」


クリスは両手で剣を振り抜いた。


グガアアアアア!!!!!


上級風狼は真っ二つに割れて、

その場に崩れ落ちた。


「はあ~、疲れた~」


クリスはその場に座り込んだ。

剣も光となって霧散する。


強い。これが天使の力。

ステータスも俺より遥かに高く。

さすがは神の代行者とも言われた種族だ。


「ありがとなクリス。助けてくれて」


「いいってことよ!あたしも活躍しないと報酬が入らなかったら困るしね」


どんだけがめついんだと思ったが、正直助けられた。

あの剣はいったい何だったのだろう。


「なあ、さっきの剣はいったいなんだ?見たことないぞ」


「さっきの?あれは天界の力で使える、天使専用の剣【エクセラーキル】。ここでは便宜上、【エクセラ】と呼ぶわ。といってもあたしクラスの天使じゃないとそうは使えないけどね」


性格は少しまがっているが、実力としてはかなり優秀かもしれない。

いっそパーティーにでも誘ってみるか?

だが、初日だし早すぎやしないだろうか?


ああでもないこうでもないと悩んでいると。


「ねぇロイ。あたしとパーティー組みましょうよ」


俺の思考が読まれていたかのように、クリスから話を進めてくれるとは。


「いいのか?俺、お前よりかは強くないぞ」


正直ステータスでは全てにおいて負けているため、間違いはない。


「バカね、強い弱いの話じゃないの。一緒にいて相性がいいかどうかよ。あなたなら、あたしと合うかなって思ったから誘ったの。

ロイはどう?」


正直。クリスとなら相性がいいかもしれないと思った。

前衛にも後衛にでても戦えるクリスはパーティーとして活躍するのに大きな戦力かもしれない!願ってもない申し出だ。


「わかった。パーティー組もう!よろしくな、クリス!」


「こちらこそ、よろしくロイ!さて、さっさと風狼を解体して持って帰りましょ!」


おう!と二人して解体をして。

無事にギルドへ帰還した。


解体は全てできたが持ち帰りきれず、仕方ないので貴重な部位と美味しいところはきっちり持ち帰り夕食で調理してもらうことにした。


それでも、上級風狼の肉や毛皮、爪は高く売れるので。

買取の依頼とクエスト場所への引き取り手続きも依頼した。


上級風狼を倒したことを伝えると、アミさんは驚いていた。


「Cランクモンスターを倒してきたんですね!おめでとうございます!」


「クリスのおかげですよ。クリスがいなかったら間違いなくやられてました」


「ふっふっふっ、もっと崇めたまえロイ!」


調子の良いやつではあるが。

悪いやつではない。

俺の中で覚悟は決まった。


「アミさん!俺はクリスとパーティーを組むことにしたので手続きをお願いします!」


直後、アミさんの表情が一瞬だけ渋い顔になった気がする。

それに他の冒険者たちの眼差しがキツく向けられてる気がした。


「本気…なんですね?」


…これはあれか。

パーティー結成するための妥協試しみたいなものか?

それならば…。


「もちろん!俺はパーティーを作ったからには、解散なんてことはしませんから!安心してください!」


堂々とその場で高らかに宣言した。


アミさんが驚いたまま固まってしまった。

他の冒険者たちが唖然としている。


なにかおかしなことをしただろうか?

隣にいるクリスは嬉しそうに羽を動かして上機嫌のようだ。


「…まあ、ロイくんのことだから考えあってのことでしょうし。わかりました。…パーティー結成を受理します」


初パーティを結成した。

意外な形での出会いからスタートとなったが、これからのクエストもより強いモンスターと渡り合うことになるだろう。


パーティーとしての冒険が…、

今、俺たちに始まったんだ!!!



・・・・・・・・・


それから半月が経過した。

俺はパーティーを結成したことをひどく後悔していた。


なぜかというと・・・。


「ゴラッ!!!テメー人様の飯をタカってんじゃねーよ!!!クソ天使!」


「クソ天使!!!まだ借金返してもらってねーぞ!!!早く返せオラッ!!!」


「あの時貸した、ポーションまだかよ!?早く持って来いクソ天使!!!」


「なーに!?またあんたら???そんなお尻の穴が小さいこと言ってると女からモテないわよ!」


ゴロツキに絡まれるクリス。

もう何度見ただろうというくらい。

俺はこの光景に飽き飽きとしていた。


「それとこれとは違うってんだよ!クソ天使!いいから弁償しろよ!金だ金!!!」


「そうだ!!!早く返せー!!!」


「神さまに頼んででももってこい!!!」


ゴロツキたちはクリスが迷惑をかけた人たちで、そのクリスは今まさにツケを払わされようとしている。


「あなたたち、一度医者にかかった方がいいわよ。あたしのどこにそんなお金やポーションがあると思ってるの???頭と目が小さくて考えられなくなっちゃたとか???それじゃ、天使の力でも癒せませーーーん!」


クソヤローーーーーがーーーーー!!!!!


とまあ。

クリスがこんなどうしようもない、

『クズ』ということがはっきりしたわけで。


それが非常に悩みの種となっていた。


問題はそれだけではなく…。

あるクエストを受ける時も…。


「え?なんでクエストするの?今日はお休みでしょ!常識よ常識!そんなことよりお金貸して?」


クリスは多額の借金を抱えていた。


なぜかクリスの借金を仲間の俺が負担する羽目になっている。


天使なのに中身は悪魔以下の外道。

唯一まともなのは、容姿と防具のみ…。


こんなはずじゃなかったんだが・・・。


「・・・おい。あのクズ天使の連れさんよ。あいつのことで…わかってるだろ?」


ゴロツキ冒険者に借金しているクリスの代わりに俺が代引きしているのだ。


おかげで金は底をつきかけている…。


こんなはずではなかったのに・・・。


「ねぇ、ロイ。お腹すいたからお金ちょうだい。あとまた借金しちゃった、アハハハ…。

まったく連中がうるさくってね...、ってどしたの?」


俺はもう限界だった。

テーブルに頭をつけてうずくまる。


「大丈夫?お腹壊したの?トイレついて行ってあげようか?」


カチン


俺の中の何かのスイッチが入った。


「おーまーえーのーせーいーで!!!破産しそうなんだよーーー!!!」


嘆きを声を大にして上げた。


「ちょっと、びっくりしたじゃない!大丈夫よ!借金なんて冒険者やっていれば大金が転がってきてそのうち何とかなるわよ!だから一緒に堕ちましょ?」


甘えた声で耳障りの良い言葉を並べてくる。

間違いない天使の皮被った悪魔だ。


「ふざけんなー!!!やってられるかこんなこと!!!もういい、おまえとはパーティー解散だ!!!今から申請出してくるから...、おい、はなせ!!!」


「いや!!!解散だけはやめて!!!もうどこのパーティーも入れてくれないの!それだけはやめて!!!」


鼻水たらしながら泣きついてきた天使に俺は愛想をつかすを通り越して憎悪を抱いていた。


「おまえ!俺にどれだけ迷惑かけてるのか!いい加減に自覚しろよ!?なんで何もしてないのに俺にお前のツケが回ってくるんだよ!?天使なら天使らしくまともな奴になってくれよ!!!」


「あたしは十分にまともじゃない!クエストだってきちんと受けてるし、自分のお金で使ってるだけなんだから、怒らないでよ!」


「お前が怒らせるようなことしてるんだろうが!少しは周りを見ることも覚えろよ!天使には人様に迷惑かけるのが当たり前ですって教わったのか!?自分の尻くらい自分で拭きやがれ!」


俺の怒りはこれ以上ないくらいにヒートアップしていた。

この後も小一時間ほど、このポンコツなクズ天使を説教しまくり泣かせ喚かせ、これでもかと自分のしてきたことがどれだけクズなことなのかと叩き込んだ。


周りの冒険者やアミさんが俺のことを鬼だ。

キレさせたらヤバいやつと陰口を言われることになってしまった。


疲れ切った俺はギルドの空いたテーブルに座り、ウェイターがよそよそしく注文を聞いてきたので。

冷静に水だけ頼む。


そういうわけで、クリスがまともじゃないとはっきりしたから、普通の仲間が欲しいと思ってパーティー募集の張り紙も出してみたのだが…。


新人冒険者と一緒に冒険してくれる都合の良い仲間は現れなかった…。



・・・・・・・・・


翌日。

俺とクリスは早めにクエストを受けに来た。


クリスは昨日こっぴどく叱ったので、今は非常におとなしい。


とにかくもう金がないので。

アミさんに割のいいクエストを朝一番に頼もうと待っていると。


「あの!パーティー募集の張り紙を見たのですが、にゃ…」


にゃ?


奇妙な声がしたので誰だと思ったら。

とんがり帽子を被り、帽子から耳がぴょこぴょことはみ出している。


杖を両手で持っていることからも、魔術師であることがわかった。


全身、黒と紫のローブを身に纏い。

グローブからブーツの先まで魔女として相応しい。ケモ耳と尻尾を除けば。


クリスより背丈も胸も大きく。

紫紺の瞳を宿し毛並みもふさふさしている。


獣人ではあるが、人型寄りだろう。

容姿もほぼ人間に近い。

ぴこぴこ動くケモ耳とゆらゆらと動く尻尾以外は。


「お願いします!あなたのパーティーに入れて欲しいのにゃ!」


獣人種のそれも、猫族である魔術師が。

パーティー加入を希望してきたのだ。

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