第11話 強者

そこはこの世の地獄かと連想させるように、

炎が森を包み込む。


妖精と精霊たちが水魔法で消火を急いでいるが、

一向に広がるばかりだ。


やはり火元から断たなければ。


「炎の元凶はどこにいるのだ!」


「はい!こちらでございます!」


妖精の案内に追従していくと、

そこには黒づくめの三人組が待ち構えていた。


「・・・ふっ、ずいぶんと遅いじゃないか」


「誰のせいでこうなったと思っている?!」


王女様は、怒りをぶつけるように黒づくめを威嚇する。


「へへへっ、妖精の親玉じゃねーのか?ありゃ高値が付きそうだぜぇ!」


「でも強そうじゃないか?…早いとこ済ませたい」


「・・・おい、ロイセーレン。貴様に用がある」


「俺に?」


黒づくめたちは俺に用があるらしい。

鑑定のスキルを使ったが何も見れなかった。

彼らは何者なんだ?


「・・・貴様にはある嫌疑がかけられていてな。・・・悪いが少し付き合ってもらおう」


「お断りだ!森を燃やして妖精たちを傷つけるお前たちに付いていくものか!」


「・・・ならば、強制的に相手をしてもらおうか!」


二人の黒づくめが仕掛けてきた。


ヒャッハーーーーー!!!!!

…早く終わらせたい。


奴らは、それぞれダガーを武器にしている。近接戦が得意のようだ。

俺はスキルで地面に干渉し地割れを作る。


しかし、奴らは容易く回避する。


速い!!!


すでに差し迫ってきている二人に俺は、短剣の干渉に切り替える。

素早くやつらに切りかかるがこれでもかわされる。


「クソッ!なんて速さだ!」


システムで強化されているのもあるだろうが。

明らかに戦い慣れしている。

踏み込むたびに勢いよく加速する。


「加勢するぞ!ロイ!」


王女様と妖精たちが風と土魔法で援護する。


「チッ!妖精どもめ、余計な事を!」


「…やっぱ、あっちから片づけたほうがいいか」


二人の標的が妖精たちに向いた。


そうはさせない!

俺は地面に触れて土の壁を形成して二人を閉じ込める。


しかし、あっさりと破壊されてしまう。

これでもダメか。


「ったく、面白いことしてくれるじゃねーか!」


「…あいつ強くないのに、鬱陶しい」


こちらに意識を向けられたようで、

やつらは再び接近してきた。


俺は死角を警戒しつつ接近戦にならないように立ち回る。

そして、奴らは視界から地面の下へと消えた。


「いてて、なんなんだこれはよ!おい!!」


「…落とし穴、さっきまでなかったはず」


「さっき作った。お前たちの力を利用させてもらったぞ」


あらかじめ一定の強さが加わると落ちる時限式ならぬ。

加限式かげんしきの落とし穴を作った。


「今です!女王様!」


「ああ!皆の者放て!!!」


妖精たちの雷魔法が黒づくめの二人に降り注ぎ。

彼らの断末魔が聞こえてくる。


声もやみ、様子を見ると失神しているようだ。

妖精たちによる結界で拘束する。


あと一人。さっきからずっと傍観していた。

きっとこいつがボスなのだろう。

俺は戦闘準備に入る。


「・・・見事だ。ロイセーレンと妖精たち。・・・だが、お遊びはここまでだ」


その刹那、背後にやつがいた。

振り返る間もなく、近くの木々まで蹴り飛ばされていた。


ぐはっ!!!

・・・つ、つよい!


さっきの二人より、遥かに格上。

切れた唇の血をぬぐい。

武具の軽量化をして加速する。


「・・・遅い」


ぼろぼろになるまで殴る蹴るの猛攻。

すでに地に伏していた。

妖精たちはなぜか身動き一つとれないでいた。


「・・・残念だが、妖精たちの動きは封じさせてもらった」


王女様たちは見えない何かに囚われているようだ。


「・・・どうした、その程度なのか?」


地面を鋭利なトゲに変化させて攻撃する。

しかし、圧倒的な力で粉々に打ち砕かれてしまう。


剣で切りかかるが武器も使わずに対処される。


…これが格上。自分ではどうにもならないほどの暴力。

剣術、体術、スキルの猛攻をあたえても。

どれも奴には届かない。

これまで積み上げてきたものが崩れ去っていくような気がした。


「・・・ふむ。この程度ではないだろう?ロイセーレン」


必死に抗うがすべてがいなされ、屈服させられる。


「・・・少し、趣向を変えてやろうか」


「…何をする気だ?!」


奴は女王様の拘束を解き、その場で痛めつけた。

妖精たちが、必死に声を上げ抵抗するが。

身動き一つとれない。


カハッ!!!


女王様もボロボロにやられている。


「・・・どうした、ロイセーレン。・・・女王とやらがやられるぞ」


「やめろ!!!!!女王様から離れろ!!!!!」


気合で立ち上がり。

奴を切り伏せようとしたが、避けられしまう。


「ロイ…!!!」


女王様が泣きそうな声で呼びかける。


このままじゃ全員、こいつにやられる…。

なにか手は?!


「・・・自分のスキルなのに自分にかけないとは。・・・愚かな奴だ」


…そうか!

もうスキルの作用を気にしなくていいんだ!

俺は無意識にかけないようにしていた。


フラフラと立ち上がり。

スキルを自分の右足にかけると。


一瞬にしてやつの近くに移動する。

それから右腕の力を引き上げて殴った。


奴は両腕でガードしながら背後へ吹っ飛ぶ。


「・・・ほう、やるじゃないか」


感覚がつかめてきた。

体の部位ごとにスキルを作動させて戦う。

これが新しいスキルの使い方だ!


奴との戦闘がさっきと違い、

戦いやすくなった。


「・・・ふっ、しばらく遊んでもよかったが。・・・ここまでだ」


「なんだと?!」


奴は突如、戦闘をやめる。


「・・・目的は達成された。今日はここで引く」


「…逃げるのか?!」


鋭いまなざしが向けられ。


「・・・見逃すと言っているだけだ、勘違いするな」


あくまで見逃すらしい。正直助かった。


「貴様らのやったことは許されない大罪だ!」


女王様は最後まで敵意をむき出しにしている。


「・・・好きにすればいい。それと、ロイセーレン。・・・お前を狙っているのは、裏にいる組織の連中だ。・・・背後には気を付けておけ」


「なんで、お前に心配されないといけないんだ!」


「・・・人のアドバイスは素直に従っておくべきだが、…まあいい。・・・いろいろと惜しい奴だな貴様は」


「お前はいったい、何者だ?!」


「・・・我が名は、ヌル。裏を統べるもの」


さらばだ。と言い残して。ヌルと名乗るやつは姿を消した。

同時に森中に燃えていた炎は一つ残らず消えてなくなった。


静寂が闇を一層深く引き立てるように。

誰も言葉を発することはなかった。


・・・・・・・・・


それから数日の間。

俺は森の復興のために力を注ぎ。

無事に元どおりにすることができた


主にスキルを使って修復したことでこれまでよりも、

より緑豊かな場所になった。


「ここまでいろいろとありがとう。ロイ」


女王様が一人で休憩している俺を労いに来てくれた。


「いいえ、俺が原因で森があんなことになったのですから。当然です」


「ロイのせいじゃない、悪いのはヌルってやつでしょ?」


確かに俺は悪くないのかもしれないが、俺をあぶりだすために仕組んだものと妖精たちから聞いているため。

間接的にでも責任を感じてしまう。これは王女様には言っていない。


「そうですね。でも俺が強ければヌルを捕まえられたのですが」


捕らえた二人は、妖精たちとの交流のある村から、

街の騎士達によって引き渡された。


どうやら大きな賞金を懸けられていたようで、

俺に賞金を渡されたが、世話になった恩もあるため。

森の支援金と蓄えにするように王女様にすべて渡した。


「ロイはよくやってくれたよ。私がボロボロにやられたときに、助けてくれたの嬉しかった。ありがとう」


「王女様には助けてもらっていますから、当然ですよ」


「…ねぇ、ロイ。このまま森で暮らさない?ロイならみんな歓迎してくれるし。私もロイと一緒にいたいの」


王女様からの申し出。

確かに森での暮らしは豊かで気候もよく、落ち着く。

これほど快適な場所はない。


「お言葉は嬉しいのですが、俺には強くなるっていう目的がありますから。それまでは冒険者をやめるわけにはいかないんです」


それにヌルが言うには俺を狙うやつがいるらしい。

なおさら残れない。


「でも、強くなるなら森の近くのモンスターだって強いよ?ここなら食べ物やお金とかも心配ない。それでも行くの?」


王女様は俺に残るよう説得をしてくる。

嬉しい話だが。


「はい。恩義を返す人がいるので。それに王女様のいるこの森は第二の故郷と思っています。必ず帰ってきますから、それまで待っていてください」


必ずまた来ようと思った。

それまでにはもっと強くなれるように、

鍛えないといけない。


「わかりました。では最後に…。ロイ、私と婚姻を結んでくれますか?」


まさかの王女様からプロポーズ。

一応人間と妖精でも婚姻は可能らしいのだが。


「…嬉しいお話ですが、俺には大切な相手がいるので」


そう。俺にはすでにフレアという決めた人がいるのだ。

いなかったら、…わからなかったな。


「あら、女王命令に背くと死罪ですけど?」


「え?!勘弁してください!」


「ふふ、冗談です」


冗談のレベルが非じゃないんだよな。

俺は心身ともに驚き疲れる。


「ねぇロイ、二人だけの時はマナと呼んでほしいの」


「でも、妖精たちに聞かれたらマズいのでは?」


妖精たちに聞かれたら婚姻だとか言っていたような・・・。


「そのときはそのときよ!いいから呼んで!」


強引に話を進めているような気がしてならないが。


「じょ…、マ…、マナ」


「はい!」


とびきりの笑顔を向ける。

こんなに嬉しそうなマナを初めて見た。

きっとこれが彼女の本来の姿なのだろうと思った。


胸が締め付けられるようだ。



かくして、俺はマナ達と別れを告げて。

“フィオネスト”に帰る。


マナとの話し合いで。

スタンピートはギルドと連携して解決をするように話がまとまった。

今回の森での出来事はヌルのこと以外は秘密にするようにとのこと。

そして、必ず森へくるようにと念押しされた。


ギルドに戻ると今回の件を、アミさんに報告した。

スタンピートの件とヌルの件もギルドが協力してくれるみたいだ。

それと裏の組織について聞いてみたが情報がないらしい。


俺を狙うということはスキル絡みのことだろう。

何か知っているのだろうか?

ますます謎は深まるばかりであった。



・・・・・・・・・


翌日。

クエストを依頼しようとギルドに訪れる途中。

ごろつきの冒険者が言い争いをしていた。


絡まれないようにこっそりと道を進んでいたら。


ちらりと絡まれている人を見てしまった。


それは、美しく神々しい金髪。

海よりも深い碧眼にあどけない容姿に。

白いワンピースを身にまとう。


そして、何よりも目が釘付けになったのは。

彼女の背中についた、純白の羽と頭上の光輪。

…間違いない。


一人の天使がそこにいた。

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