第10話 悪手
道すがらEランク以下のモンスターを討伐しつつ。
十日かけて、無事に
途中の町で、馬車で乗り継ぎながら北端までこれた。
あたり一帯は霧に満ちている。
一部では通称、『まどろみの森』とも呼ぶこの場所は。
いかにも迷い込みそうで、少し不気味でもあった。
森の中へ入ってみると。
「立ち去れ...人間よ...。おまえの来るところではない...」
森のどこからか聞こえる低く、おぞましい声。
ここでひるむわけにはいかない。
「ここを通してくれないか!この先で待ってる人がいるんだ!」
「…貴様。名を名乗れ」
どうやら話は聞いてくれるようだ。
「俺はロイセーレン!この先に俺を呼んだ妖精がいるはずだ!」
それから返事もなく。しばらく待っていると...。
「…失礼した。ロイセーレンよ、我らが主人のもとへ案内する」
どこから現れたのか、光の粒が群がってきた。
何事かと、驚いていると。
「はじめまして、ロイセーレン。案内人の『キティ』といいます。私の後をついてきてください」
背後から出てきたのは、キティと名乗る妖精。
金髪に深い緑の瞳とツリ目が印象的だ。
それと手のひらほどに小さい。
「あの、この光の玉はいったい?」
「この子たちは精霊の子どもたちです。あなたを歓迎しているのでしょう」
これが精霊か。もっと妖精に近い実態のある生き物と思っていたが。
ふわふわと浮いている。
人懐っこくてかわいいじゃないか。
「さあ、早くいきましょう。こんなところを見られるわけにはいきませんから」
急ぎ足で森の中を進んでいく。何か都合の悪いことがあるのだろうか?
「…確認ですが、ここへはあなた一人だけで来たのですよね?」
「はい。俺一人だけですよ?」
そうか。と呟いてからのキティさんは、特に何も言わずに黙々と飛ぶ。
(精霊たちよ。怪しいものが三人いる。やつらを森へ入れるな)
神霊の森はこれといって景色が変わることはなく。
木々がずらりと並んでいるだけ。
モンスターの気配もないし、あまりにも静かだ。
まるでこの場所そのものが現実にないかのようにさえ思う。
キティさんに尋ねても、黙ってついてくるようにとだけ言われ、教えてもらうことはできなかった。
しばらく歩いた後、ガラスのように反射している場所についた。
ここは結界らしい。たとえ森に入られても敵を引き返すための措置をしているのだそうだ。触ってみると固い感触があってそれ以上進めないようにしてある。
しばらくキティさんが結界の前で何かしているようだが、よくわからなかった。
「よし。このままここを進め」
「え?結界をですか?」
「あぁ、早くしたまえ」
結界を恐る恐る触ると手が入った。
・・・よし!行くぞ!
目をつむったままで結界へ入り込む。
瞼から光を感じた。
目を開けるとそこは色彩豊かな緑溢れる。
まさに、森の都が目の前に広がっていた。
・・・・・・・・
「・・・おい。奴はどこへ行った」
「知りやせんて、...もう帰っちまったのかも」
「んなわけあるかい!俺たちがつけてるんだから見逃すはずがねえ」
黒づくめの三人は森に迷い込み。
ある男を探していた。
「ったく!どこへ行きやがった。あの坊主が!」
「もしかしたら精霊の許しを得て、森を進んでいるのかも...」
奴らはあたり一帯を隈なく探す。
すると、
「蛮族どもよ。ここは神域な場所だ、今すぐタチサレ!」
森全体から届くおぞましい声が彼らに警告を告げる。
「こ、声が?!どこから?!」
「へっ!ど、どうせそのあたりにいるんだろうよ...まとめて叩き切ってやるぜ!」
「やめておけ...さもなくば貴様らには神のバツが下るぞ...。もう一度言う。ここをタチサレ!」
二度目の脅しを告げる森の意思は彼らのうち二人を、震え上がらせた」
だが、一人の男は笑みを浮かべて語る。
「・・・この先に俺たちと一緒に来たやつがいる。・・・合わせてもらおうか」
「...そいつの名を申せ」
「・・・ロイセーレンだ」
森の声はしばらく黙っていた。
「ロイセーレンは一人で来たと言っている。貴様らにはここから出て行ってもらおう!」
「・・・フ、フハハハハハ!!!!!」
突如男が高らかに笑う。
「...何がおかしいのだ、不埒ものよ...」
「・・・失礼。少しばかり滑稽でな。ロイセーレンがここにいるのがわかれば、それでいい」
「何をする気だ?!貴様?!」
「・・・少しばかり騒ぎを起こすだけだ。・・・入れないなら、向こうから出てくるようにするだけのこと」
黒づくめの男は漆黒の炎を纏い。
自分を中心として森へ炎を広げた。
その様相は業火に焼かれる悲惨な光景となって森の姿を変えていた。
・・・・・・・・・
「ここが『マナエルテ』か」
空が虹色に輝き、太陽はなく空全体が明るく照らされ。
妖精たちが花々と戯れたり、追いかけっこをしたり自由に過ごしている。
同じ自然でもここまで華やかで幻想的な場所は観たことがない。
俺は夢中でこの都を見つめていた。
「ロイセーレン。こちらに主人がお待ちです」
キティさんに連れられたのは。
妖精たちからすると、とても大きい宮殿が目の前に浮いていた。
そこから出てきたのは、王女と呼ばれた綺麗で美しい容姿。
神秘的な輝きをした羽。一目見ただけでただの妖精ではないとわかる。
「こんにちは、ロイ。この姿でははじめてですね。ふふふ」
どうやら彼女が俺の夢に出てきた妖精だったようだ。
「はじめまして女王様。ロイセーレンです。お見知りおきください」
「そんなに畏まらなくていいですよ。さあ、宴を用意しているからついてきてください」
女王様たちに連れられると、たくさんの妖精たちが祝いの用意をしていた。
「…すごいですね!」
「みんなあなたのために用意したものよ。さあ、ここでゆっくりしていって」
人間用のもてなしとして豪華な椅子があった。
座るのに抵抗があったが、女王様が率先して宴を開いたみたいだ。
遠慮するのは野暮というものだろう。
それからは妖精たちのもてなしをたくさん受けて。
楽しい時間を過ごした。
「どうですか?ロイ楽しんでます?」
女王様が一人で様子を見に来てくれた。
「はい!すごいたのしいですよ!女王様!」
酒の影響か少し酔いが回っているみたいだ。
「それはよかった、…ところで本題だけど」
真剣な顔つきで話を切り出す。
「ほんだい?」
女王様が言うにはオークの一件は何者かによって仕組まれた事故であるらしい。
その証拠として、モンスターには『魔の紋章』が刻まれているのだそうだ。
ということは『スタンピート』は意図的に起こることなのか。
これはギルドで共有するべきだろう。
俺はついでに『神霊の森』にある泉について話してみたが、病やケガはその泉の水で治るがスキルの作用は治らないらしい。
「どうして、女王様は俺のスキルのことを知っているのですか?」
「それはね。神からのお告げを受けたからなの」
「おつげ?」
妖精の女王には、神とつながる力があるらしい。
オークの事件を神託で解決しようとしたときに俺のことを知ったらしい。
神さまが裏で手をまわしていたとは知らなかった。
「そういえば、俺のこと英雄の卵って言ってましたけど。なんですかそれ?」
最も気になっていたことだ。
最弱ステの俺になぜ英雄の卵なんて呼び方をするのかわからなかった。
「それは、私の口から言えません。きっと時が来ればわかるでしょう」
「いいから教えてくださいよ。女王様〜」
少し悪酔いしている気がする、女王様の手前だ気を引き締めないと。
「さあ!宴も本番よ。ロイ、この祭具を身に着けて」
なんか誤魔化されてしまった気がする。
そのうちわかるなら待つとしよう。
渡されたのは不思議な文様をした冠と数珠つなぎのネックレス、そして金色にさびれた剣。
「これはいったい?」
「これからあなたのスキルの副作用を直すわ」
どうやらこの宴が副作用を直すための儀式でもあるらしい。
それも神託によるお告げだそうだ。
神さま、本当に感謝しています。
妖精たちの魅惑な踊りや歌が響き。
俺はこの瞬間意識がうつろっていた。
(・・・システム変更。これよりロイセーレンのスキルによる副作用を改変します)
この声。まさかスキル習得の時に聞いた無機質な女か。
いったいなにものなんだろう?
(・・・更新完了。ロイセーレンのスキルを改変しました)
よし!これで俺も痛みを気にせずスキルを使えるな。
胸をなでおろし、安堵していると。
(・・・世界システム修正開始。ロイセーレンのステータスに大幅な修正を確認。強制的に弱体化を実行)
おいおい!!!何てことを実行してるんだよ!!!
また弱くなるのかよ!
(・・・弱体化失敗。外部からのシステム圧力を確認。排除、・・・失敗)
よかった。なんとか、ステータスはそのままのようだ。
もういいから修正しないでくれよ!
(・・・世界システム修正の提案を受諾。これよりロイセーレンを除くすべての存在を強制強化します。なお、外部からの妨害を確認。排除、・・・成功)
今とんでもないことをいったな。俺以外みんな強制的に強くしただと?!
そこまでして俺を強くしたくないのかよ!!!
また俺はあの弱いころに戻るのか・・・。
絶望に打ちひしがれていると。
(おーい!聞こえるかのぅ。ロイ!)
この声は神さまか?!聞こえてるよ神さま!
(すまんな、またシステムのやつがお主を最弱に設定しおったわい。ワシがついていながら申し訳ない)
神さま!俺はなんでシステムから嫌われているんだ?
(ロイという存在がシステムの都合で、最弱な人間として組み込まれているからのぅ。この前はそれに抗おうとしてステータスを弄ったんじゃが、また振出しじゃ)
そんな理不尽どうしろっていうんですか?
俺は世界にいらないってことですか?
悔しい。おれは自分の力でどうにもできないことが何よりも許せなかった。
(ロイよ。そう悲観するものでもない。前回と違うのはお主のステータスはこれまでは違うってことじゃ。あの弱かったころではない)
そうだ。悲観するのは早すぎる。
俺のステータスは今のままで、世界全体がステータスを上げた。
これはむしろチャンスになるんじゃないか!?
(ロイよ、もうすぐ宴も終わる。そうすればスキルの副作用ともおさらばじゃ。大変じゃろうが、お主なら強くなれる!神であるワシが保証するぞい!)
ありがとう神さま!俺、何とかやってみるよ!
システムになんて負けない!俺は最強になってやる!
(うむ、では検討を祈っておるぞぅ)
宴も終わり。
神さまとあの女の声がぱたりと消えた。
「大丈夫?ロイずっとうなされていた様だけど...」
「平気ですよ、女王様。それじゃあ、さっそくスキルを使ってみます!」
俺は女王様を鑑定した。
名前はマナ。妖精の女王。それに魔法適正が異常だ。それに魔力量が桁違いだ!
さすが女王はステータスも伊達じゃないってことか。
「どう?痛みはある?」
「...いいえ、痛くないです。無事に治ったようです。女王様ありがとうございました」
「それはよかった。ちなみにどんなスキルを使ったの?」
妖精たちの間にはスキルのタブーとかはないようだ。
「鑑定というスキルです。女王様を視てみたんですが、お名前は『マナ』というのですね。それってこのみy・・・!」
「それ以上は言わないで!」
女王様に口を塞がれてしまった。
何かまずいことを言ったみたいだ。
「…ど、どうしたんですか?突然」
「はぁはぁ、…女王の名前っていうのは妖精たちでは、呼んだ瞬間に婚姻を結ぶ儀式となるの!もし聞かれていたら大変なことよ!」
とんでもない事態を起こすところだったらしい。
未然に防いでくれてよかった。
「そ、それは失礼しました!女王様!」
「…でもロイがどうしてもっていうなら、考えなくもないよ?」
これは、からかわれているのか?
女王様は俺といる時は、言葉づかいが自然になる。
きっと話しやすい相手と思ってくれているのだろう。
ならそれに応えるべきだ。
「女王様が良いとおっしゃるのであれば、俺も覚悟を決めましょう」
「えっ?冗談だよね?ロイ」
俺は笑顔で答えると。
女王様に手刀をくらった。
祭りも終わり俺はここを出ようと考えていた時。
「大変です!女王様!」
家臣らしき妖精が慌ててやってきた。
「いったい何事?」
さっきまでとは違い女王様に戻るマナ。
「不埒ものにより、森が焼きつくされております!」
「なんてことを?!」
森が焼かれている!?
いったい誰にだ!?
「ロイ!悪いけれど、力を貸してもらえるかしら?」
「もちろんです!女王様!」
女王様にはここでお礼を返させてもらおう。
それにスキルを全力で使うチャンスだ。
システムへの鬱憤もここで晴らすとしよう。
俺はまだ見ぬ敵に制裁を与えるために闘志を燃やした。
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