第4話 スキル試し

あれから数日が経ち、怪我も完治した。

完治したからには村にいる理由はない。


早ければ明日にでも村を離れようと思う。

ただやらなければやらないことがある。


最低限の自衛。

こればかりは誰かに頼るわけにはいかない。


朝早くから剣の素振りに体術の稽古。

普段は数分足らずで体力が尽きるのだが、

神さまのおかげで並のステータスに調整してもらったことで一時間近くは続けられている。


いつもできなかったことができる!

これほど楽しいものはない!

もっと打ち込んでいたいっ…!


…しかしそうもいかない。

いつまでも稽古するだけでは所詮素人。

やはり実践を積まないといけない。


どうやら、村の近くを荒らすモンスターがいるみたいだ。自分の力試しにはちょうどいいだろう。


それに、ようやくスキルを本気で試せるのだから腕がなるというものだ。


・・・それに強くなる理由もできた。


もともとは、自分と同じような弱者をモンスターから守れるような人間になりたいと思っていた。


今は理由が増えた。

フレアのために強くなること。


世話になった恩もあるが、それ以上に彼女を守れる力を身につけるんだ。


強くなることは俺のためでもある。


強くなって誰かを救うこと。

小さい時に憧れていたお伽話に出てくる正義の味方、彼のようなそんな英雄に…俺は…。


「おーい、ロイー!ご飯よー!」


フレアの声が聞こえる。

朝の食事みたいだ。


朝日が照らす陽光は背中を押してくれているように暖かった。



・・・・・・・・・


「本当にいくの?やっぱりまだ早いんじゃない?」


フレアはやはり不安そうだ。

これまでの俺を知っているからこそ。

危険を冒してほしくないのだろう。


村周辺のモンスター狩りは村の住人にとっては脅威たり得ないのだが。

以前の俺では相手にすらできなかった。


しかしこれまでと違ってステータスは並…、

平均といったところか。

ヘタをしなければ負けることはないだろう。


「平気だ。フレアだって俺が今まで違うって気づいてるだろ?」


完治した俺は、フレアに力の一端を見せている。腰を抜かすほど驚いていたのでよっぽど信じられないことだったみたいだ。


力の原因は魔力災害という理由にしている。


神さまの話を持ち出したとしてもフレアはしつこく食い下がってくるだろうから、

未だ謎の多い魔力災害を利用した。


「それはそうなんだけど、…やっぱり私も行く!ロイを一人にするのは危ないから!」


なかなか引き下がってはくれないみたいだ。

魔力災害もあったからというのもあるだろうが、フレアは過保護すぎる面がある。

ここは彼女のためにもいかないと。


「フレア。これは俺自身のためとフレアのためでもあるんだ。おまえを守るために強くなる。強くなって一緒にいるためには、ここで足踏みしているわけにはいかないんだ」


「でも…、ロイは別にそのままで…」


「心配してくれるのは嬉しい。けどフレアに守られるだけはイヤなんだ。フレアの隣に立つ男になりたい…これは俺のケジメでもあるんだ。必ず帰ってくるから待っててほしい」


「…わかった!帰ってこなかったら、二度と冒険なんてさせないんだから!覚悟して行ってきなさい!」


どんだけ冒険させたくないんだよ。

まあフレアには迷惑をかける形にはなるから強くはいえない。恩もあるしな。


さて、気を取り直して村の近くでモンスターでも狩るとするか。



・・・・・・・・・


村を出てしばらく歩く。

腰には短剣をぶら下げ、簡易な防具も装備している。

フレアのお父さんが使っていたものを拝借させてもらった。


太陽はまだ真上に登りきらず、雲に隠れたり顔を出したりしている。

やけに風が強い。嵐でもくるのだろうか?


しばらく歩いていると。

地面がボコボコと凹んでいる。


ここを馬車が通ったらひとたまりもないな。


「・・・よし。いっちょやりますか」


地面に手を触れる。そして、


(スキル。ステータス操作)


穴ボコを埋めて平地に戻す。

歩いていた道よりも綺麗になった。



道中にスキルを試していてようやくわかった。


ステータス操作は、

俺が触れた“モノ”のステータスに一部干渉できるスキル。


さっきのでいえば穴ボコの地面を、平らに戻すようにステータスを書き換えたというべきか。


だが、このスキルかなり消耗が激しい。

鑑定と同じく頭痛や動悸がする。


先ほどかすり傷を負ったのでスキルを使ってみたら元に戻った。


回復魔法の『ヒール』と同じかも思ったが、

残念ながらケガは塞げても治癒はできない。


致命的な傷を負ってしまえば役には立たないだろう。


それに干渉といってもモノ全体に作用できるわけではないので、使うには少々クセのあるスキルだ。


ゴソゴソ


草むらが動いている。

きっと穴ボコを作った原因だろう。


俺は石を投げて様子を伺う。


すると警戒するようにモンスターは現れた。


ネズミの変異モンスター。名はドラット。

特徴的なのは額にある魔力のこもった赤き結晶。奴の弱点はそこだ。


シャアアアア!!!


威嚇してきた。

戦闘することを選んだようだ。

俺は短剣を構え、様子を伺う。


ドラットは、初級土魔法の“サンドアロー”を放つ。


一直線に向かってくる魔法を最小限の動きで避ける。


よし、イメージ通り。

しかし実戦での立ち回りは初だ。

果たしてどこまでやれるか?


隙を逃さないドラットは、次々と魔法を放ちじわじわと追い詰めてきた。

俺は回避に専念する。


このままでは埒があかない!


…なら!一撃で決めてやる!


俺はドラットに向かって走り出す。


奴は土魔法を放つため強そうに感じるが、

単調な攻撃なので動きは読みやすい。


短剣のステータスに干渉。

避けきれず魔法があたるけれど問題ない。


近づき弱点目掛けて短剣を振り抜く。

ドラットの額から左下へ切り口が入り、血を吹き出して倒れた。


上手くいったみたいだ。

スキルで短剣の切れ味を上げたのは正解みたいだ。


短剣は刃こぼれした状態に戻る。

直後、とてつもない倦怠感に襲われる。


しまった、加減を間違えたみたいだ。


ステータス操作。使い方によっては大きな活躍ができるスキルだが、使用者の俺への負担が大きい。


なんとかならないものだろうか?

一度自分に触れてこの頭痛を治そうとしてみたが、痛みを引かせることに成功はした。


だがスキルを止めると倍以上の痛みで返ってくることがわかったから。

もうやらない。


それにしても初勝利、初討伐だ。

嬉しい反面、呆気なかったので拍子抜けだ。


まあ仕方ない。このモンスターは初級モンスターの中でも一、二を争う最弱だからな。


ここで満足しているだけではだめだろう。

まだまだ強力なモンスターは山ほどいる。


俺はそいつらを倒して、フレアの脅威となる敵を倒せるようにならなくては…。


しかしまあ、これまでは戦うことすら叶わなかった相手だったわけだし…。


少しでも前進はしているだろう。

これが成長ってやつなのかもしれない。

胸の鼓動が高鳴り、まだドキドキしている。



・・・もう少し倒していこう。

まだ試してないこともあるしな。


俺は日が暮れるまで村周辺のモンスターを討伐して回った。


まるで子どもがおもちゃで遊ぶような楽しさと好奇心を覗かせて、

俺はようやく小さい頃にやりたかった遊びをしているような気になっていた。

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