第2話 神との出会い

まさか。死んだのか?


さっきまでの痛みをまったく感じない。

どうやら俺はまた命を落としたようだ。


目の前に広がる世界は白いモヤのかかった異質な空間。

とてもじゃないが死んだ世界にしては半端な場所のように思った。


『ようこそ、ロイドセーレン』


頭に直接響いてくる。

なんだこの声は?


「誰だか知らないが、頭に響くからやめてくれ!隠れてないで姿をみせろ!」


きっと俺は正体不明の何者かによって、ここにきたことは間違いない。


すると目の前に光が集まり目も開けられないほど輝き出した。


光が収まるとそこには白い髭を蓄え、純白な天使のような羽を広げた。

神と呼ぶに相応しい神々しさを纏っている男がいた。


「すまなかったな、ワシは神だ。この世界を管理しておる」


神と名乗るこの男。

嘘をついているようには見えなかった。


「えっと神さま。俺は死んだんですか?」


「半分正解だのぅ。

ここは彷徨った魂を審判する場所じゃ。

おぬしの容体は意識不明の重体といったところか。後でワシがなんとかするから死にはせんよ」


どうやら最悪は免れたらしい。

ホッと一息つく。


「実はのぅ。ロイに謝らなくてはならないんだ」


「…謝らなくてはいけないことですか?」


フルネームから突然のロイ呼びに驚いたが、一旦スルーする。


「実はな。おぬしのこれまでの不遇な人生。あれは全てワシの管理が行き届かなかったのが原因なんじゃ、本当にすまない」


「神さまの不手際ですか?具体的には?」


神が俺の何を管理していたのだろう?

少し長くなると前置きを入れられて、

その詳細をぎっしりと教えてくれた。


要約すると。

この世界はステータスというシステムが組み込まれていて。

俺はその中で最弱な人間の一人として生まれてきたらしい。


だからどれだけ人より努力や研鑽を重ねても一生成長できないと言われた。


悔しさと同時にこれまでの苦労の原因がわかったことで、いろいろと腑に落ちた。


「じゃあ俺はどんなに血の滲むような訓練をしても、死と隣り合わせの状況で戦ったとしても一生変わらないってことですか?」


「うむ。そうなるのぅ。じゃからこの事実を伝えたくておぬしをここに呼んだのだ」


親切なのか無神経なのかよくわからない神さまだ。


でも悪意があるわけじゃなさそうだし、

神さまに免じて許すことにした。


「となると俺はもう強くなれないから、農家でもして生きた方がいいんでしょうか?」


「今のままでは、全く。これっぽっちも強くはなれんのぅ。今のままではな…」


含みのある言い方が気になったが、ここは自分の気持ちを素直にぶつけることにした。


「俺、強くなってモンスターから弱い人や困ってる人を守れるような人間になりたいんだ!だから強くなることを諦められない。

いい方法はないですか神さま!?」


俺は神さまに頼み込む。

なんとかして強くなりたい。

今までバカにされてきたから見返したいという気持ちもあるが、一番は恩義を返したい人がいるから。


そのためにも強くなりたいし、強くならなければならない。


「もともと、ワシのミスでおぬしには苦渋を一気飲みしてもらっていたからの…。

ワシからの贈り物としてスキルを授けよう」


「神さまからのスキル…。でもスキルって成人したら誰でも手に入るのものではないのですか?」


俺ももうすぐ16の年。

成人になると神の加護として必ずスキルを授けられるといわれている。


「あー。おぬしはスキルすら持てないぞ。

成人だろうが玄人だろうが、

もうステータスがそうなってるからのぅ」


スキルすらもらえないのか…。

俺は正直このスキル獲得が一番楽しみでもあった。

唯一家族や村のみんなに近づける手段だと思っていたから。


神から伝えられていなかったら、絶望して身投げしていたかもしれない。


「あの、俺のステータスってなんとかなりませんか?生活するのも一苦労ですし、せめて並の人間にはなりたいです」


今の俺は誰かの世話を借りないと生活できないくらいに頼りっぱなしだ。

このままではいつまでも自立できない。


「そうじゃな。ではワシの力の一部のスキルとステータスを本来の能力に戻しておこう」


よかった。

これでようやくまともな生き方ができる。

誰の世話にもならず自分の力だけでなんでもできるなら願ってもないことだ。


「それとのぅ。成人の日くらいはスキル習得させた方がいいはずだし…。神からの出血大サービスで成人の日にスキルが習得できるようにしておいたぞい!」


「え!?ということはスキルが二つ習得できるんですか?」


なんてこった!スキルが二つもある人間なんてそう多くないぞ!


「ただ他のスキルに関しては本来のステータスの抵抗が強すぎるから習得はできんのじゃ。すまない」


どんだけ俺のステータスはハズレなんだよ!

俺を最弱にしたシステムとやらをぶっ壊してやりたい。


「神さまは悪くないですよ、原因はシステムですから謝らないでください!

それに俺は嬉しいんですよ。

ようやくまともな人間になれるんだって」


「まるで今までがダメ人間だったみたいなセリフに聞こえてしまうが…本当のことだからのぅ。仕方ないわい」


虚しくなるからやめてくださいよ、神さま。


「そういえば、おぬし転生者だったの。

こっちの世界は元の世界と違って苦労しただろう?」


「・・・え?俺、転生なんかしてましたっけ?」


転生ってなんのことだろうか?

まったく記憶にない。


「おぬし、まさか魔力災害で記憶を無くしたのか!?」


「魔力災害に遭ったのは覚えてるんですが、その転生した時の記憶はまったくないんですよ」


神さまから転生前の記憶について根掘り葉掘り聞かれたがまったくわからなかった。


「ううむ。やはりワシのせいみたいだのぅ。重ねて申し訳なかった」


「頭あげてください!それに記憶がないから神さまに謝られても困るだけなんで。きっと記憶はそのうち思い出しますよ」


俺は神様を宥めて気を取りもつ。


「そうかのぅ。じゃあせめてもの償いとしておぬしのステータスにちょっと細工しておくわい」


「細工っていったい何をするんですか?」


「そ、それjaりゆm1mtdはやな1803らやgpさajuたにや489(vlw___tmdtt」


突然、神さまの声がノイズまみれで聞き取れなくなった。


「か、神さま!?いったい何が!?」


「gdm&a&"v57してgtwd/##800850い9÷38vwjかあ2ttwt」


ダメだまったく聞き取れない。


「神さま!神さま!」


呼びかけても呼びかけても、それ以降反応はなかった。



しばらくすると。

突然頭痛に襲われた。


(スキルを獲得しました)


無機質な女の声が聞こえてくる。

な、なんだこれ!割れるように痛い!


(スキル。『ステータス操作』を獲得しました)


ステータス操作?

それはいったい何のスキルなんだ?


続けて起こる頭痛。

すると脳内に膨大な量の情報が入り込んできた。


こ、これってスキルの情報か!?

・・・そうか、こうやって使えるのか…。


スキル『ステータス操作』とは。

簡略すると、世界を支配するステータスに干渉ができるらしい。

自分のステータスもいじれるみたいで、

かなり強いスキルみたいだ。

実践して使ってみたい!


(ステータス更新完了。世界システムによる修正。…完了。ロイセーレンのステータス変更、管理者権限により受諾。…完了。システム再構築、これより起動します)


この無機質な声が止むと同時に。

眩い光が視界に溢れ。

俺の意識は途絶えた。

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