§6 仕事とわきまえ
第24話 閑話:2086年 上席の座
Ch.1の登場人物まとめ - 赤い文字で断罪される勇者は敬愛する妻とかぼちゃを食べる:
https://kakuyomu.jp/works/16817330661673670560/episodes/16817330665078786821
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第六十七世界の西暦2086年にあたる、ある日。
鮎田数樹と妻のアユミ・アユタ=スズキが就職して10年後。
鮎田歩は、研究所の上司に勧められて、研究者としては通称名で勤務している。「タツヤ・スズキの! メイ・スズキの! 娘か!」と目を輝かせる連邦内外の先輩方に好評である。
***
亜空間(常世の国とも呼ばれている)内のとある「座」で、亜空間の生命体「席」による報告書の準備作業が進行中だった。
山積みされた資料幻影の中に、下記のような内容が連合の記法で書かれた資料幻影が含まれていた。
【】内は「伏せ塗り」と呼ばれる記法で処理されている。
***
[執務室にいた【被害者】が顔を上げると、【加害者】が席の脇に立っていた。
「あなたが【被害者の姓名】ですね?」
【被害者】は答えた。
「はい? そうですが。ご用件をおうかがいできますか?」
【加害者】はレンズが青いメガネ越しに【被害者】の体を上から下まで凝視した。不躾かつ尊大な態度だった。しばらくして、目をそらし、ため息をついた。非常に不愉快そうな様子だった。
【被害者】もあまり愉快な気分ではない様子だ。
「単刀直入に申し上げます」
【加害者】の声には何か信仰の熱に浮かされたような強情な響きがこもっていた。
***
各世界と亜空間の「部屋」「座」を統括する組織。それが「連合」だ。
連合に属する亜空間の生命体には職位の序列がある。
・全般管理職の立場にあるのは「座」を統べる「席」。
・その下の中間管理職の立場にあるのは「部屋」を統べる「主」。
・常世霞は、統べる場を持たないが、同じく連合のために働いている。
亜空間の「座」は白い部屋の「部屋」とほぼ同じ構造だ。
区切られていて、壁や天井がある。しかし、部屋とは違い、座の空間の壁や天井には色はない。
そこに一体の
常世霞は天井近くの宙に浮いていた。この常世霞は「白い麻の葉の常世霞」という名前を持ち、一緒に働く者たちには「麻の葉」と呼ばれている。
麻の葉模様を施された部分があるわけではない。ただの屋号のような呼び名だ。
透明な霞なので、見る目かないものには、なにも見えない。
麻の葉は有能な生命体だった。すでに上級の常世霞のみが会得できる技術のすべてを使いこなしている。近いうちに「部屋の主」になることが決まっている。
いまは上席の補佐をしていて、担当の上席の一挙一動とその周りを見守っている。
また、上席が立案する作戦計画の資料となる「幻影」の管理も麻の葉の仕事だ。
常世霞の下にある机には通称
上席は企画書を書いていた。
この上席は連合での白い水玉の部屋の主(非公式な通称は「袋」)の上司にあたる。
書く業務のある席たちは、手がある存在に擬態することが多い。人間、天使など、それぞれの好みの姿になる。
この上席は、ペンそのものに擬態をしていた。具体的には「羽根ペン」。大型な黒い鳥から取る風切り羽根。その先端の凹みにつけられたインクがさらさらと文字を記していく。
白い杉綾なのに黒? そういうことを上席はあまり気にしない。
白い杉綾の座の上席、通称「上席」の自筆手書きは、字が汚いだけでなく、書いている本人も考えがまとまっていないようで、支離滅裂だ。しかし、報告書にまとまる段階では、美しい筆跡となる。
今は準備期間なのだ。
常世霞、主、席は念話記録の受け渡しができる。「書く」技術は主も身につけていることが多いが、かなりの高等技術で、席に昇進する条件でもある。
主と常世霞が集めた念話記録は連合速記化する。
席、もしくは、各世界から集まった能力を認められた生命体がその作業を担当する。
能力を認められた者とは、元勇者一行構成員や念話可能者などだ。
記録は連合に属する亜空間の生命体が立案する作戦計画の資料となる。
杉綾の席がいま参照している資料幻影記載のできごとは、鮎田数樹が就職して8年目に起きた。
2076年の就職直後から彼が連合で従事していた仕事のひとつは、このページのような「連合に関わる出来事」の記録作成だった。
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2023-10-22 文章を手直ししました
2023-10-09 上席の通称などを少し訂正しました
次、第25話 2076年 勇者鮎田数樹と連合の記録
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