第18話 閑話:2076年の学食の仲間たちと新しい家庭

 翌年2076年2月、私、畑中麻衣美とダーリンの智司は鮎田と鈴木に誘われて、ダブルデートをした。

 それぞれの卒研・卒論が終わり、落ち着いた時期だった。


 ちょっと風変わりで洒落たバーに行った。「卓球ができるのよ」と、桜色のセットアップを着た鈴木は嬉しそうに言った。

 美容院に行ったばかりらしく、きれいに整えられた黒髪のボブは鈴木の美貌を引き立てていた。

 私が卓球好きになったのはコイツのせいである。鈴木は卓球部に入ったら大成したかもしれないくらい上手いが、私程度であっても合わせてくれて、楽しく遊べる。

 ふたりで時々来るそうだ。私も久しぶりに鈴木とラリーを長く続けて楽しんだ。

 

 そのあと、鈴木が鮎田と同棲しているアパートでごはんをごちそうになった。ふたりで作ったという豪勢な食事が並べられ、美味しいお酒も振る舞われた。


「連邦首都へ引っ越す前に、私たちも結婚します」


 予想通りの報告のあと、乾杯した。

 センス良く盛り付けられた前菜を前に、オレンジ色のエプロンを着た鈴木は言った。


「これ、ふたりでランチに行ったお店の盛り付けを参考にしたの。ずっと研究が忙しくて、試せなかった。やっとできて嬉しい。お店を選ぶとき、神崎くんが鮎田くんの相談に乗ってくれたって聞いた。ありがとうございました。すごい美味しくて素敵なお店だった」


 ***


 鈴木からこっそり聞いたところによると、鮎田の鈴木への求婚は唐突でムードもへったくれもないぐだぐだだったらしい。

 

 ――相変わらずヘタレだな、そういうところはうちの智司の方が上だ。

 

 そう、私たちも、卒業と同時に入籍するのだ。その時の智司の言葉(略)。


 実はもう妊活もしている。早めに産んで、子どもがいても働ける制度を活かして働くつもりだ。

 

 でも、まあ、このふたりにも、それなりにロマンチックなこともあったらしい。大照れ気味の要領を得ないほのめかしを聞いて察した。親友が幸せなのは良いことだ。

 

 これというのも、うちのダーリンが(略)。

 しかし、波乱もあった。

 

 例えば、ある日、顔を真っ赤にした鈴木に「ランジェリーを買い足したいの」と相談された。


 ――はあ? らんじえりーって下着? 新製品のスポーツブラ?


 と思ったら、どうやら違うらしい。


 既製服販売仮想空間にアクセスし、恥ずかしそうに親友が見せた購入履歴を見て私は目を見張った。

 

 ――何ということだ。これはけしからん。こんな美しく繊細な衣類がありながら、私がそれをまとったところを、智司に見せていないとは。何ということだ。

 

 私はそのまま智司のところに駆けつけ、事情を話して真摯に詫びた。智司はきょとんとした顔でそれをきき、言った。


「えっと、たぶんだけど、彼女を置き去りにして、ここにきてくれたんだよね?」

「……あっ!」

「まず、それ、お詫びしたほうがいいと思うよ」

 

 智司って本当に優し(略)。

 端末で連絡して詫びたら、鈴木は笑って許してくれた。


 智司に報告すると、にっこりと笑ってくれた。

「ランジェリーかあ。僕は麻衣美の身体自体を愛でるのに夢中で、脱がす服は目に入らないから」

 

 ずきゅーん。


 私は射抜かれた。顔全体に熱がこみあげてくるのがわかる。なんなのこのイケメン。お腹(略)。

 

「でも、いいね、こういうの。紐で脇を結んだパンツとかどう?」


 私は少し我に返った。


「……なんでランジェリーの種類を知ってるの」

「ご、ごめんなさい、エロ配信投影とか、少し見ました」


 それは知っている。新妻物とか借りた端末で目に入ってしまった履歴にあった。まあ、そういうこともあるよね。

 なお、少しとはどの程度だろう。あれは少しなのか。

 

「了解。これからは私だけで見て」


 その後私たちは(以下自粛)。

 

 事後、私はしんみり言った。


「鮎田くんみたいな草食っぽい男でも、こういうことするんだねえ」

 智司は眉を下げて苦く笑った。

「……女性は男性に幻想を見がちだね。僕たちは他人に知られたらやばい事を妄想したり、男同士で後ろめたい会話をしたりする。自己処理をやったり、いわゆるオカズを調達したり、あとくされのない女性に性的な奉仕をしてもらうことを妄想計画したり、そういう経験がある。どうしようもないスケベだよ、僕たちは」


 私はケバい女の尻のところにねちっこく手を回したあのクリスマスの高橋先輩の顔を思い出した。嫌な赤みが差していて、イケメンのはずなのに気持ちが悪かった。


「でも、妄想計画の実現は、よっぽどのことがないとしない」


 ――「よっぽどのこと」があると、するのね。まあ、そこはツッコンではいけないか。


「本命の恋人一筋。そこはたぶん僕と鮎田くんは一緒だ」


 智司は一転して猛々しい笑顔になって、私を抱き寄せた。


「そんなことより、ほかの男のスケベなことを考えた麻衣美、実にけしからん」

「申し訳ございません、私の唯一無二の王子様!」

「おしおきだな」


 (以下自粛)。

 

 その後にすぐ私の妊娠が判明し、卒業前に入籍した。ちなみに私たちの姓は「新姓作成」制度を選択したので、「畑崎はたざき」となった。「神中」ではあまりに仰々しいし、うちのダーリンは女の名前が先であることにこだわるような(略)。



---


2023/11/3 誤字を訂正しました。


次、第19話 再現部:伝承と継承(勇者と白い部屋の主)

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