第4話 短い閑話:鮎田の同級生、畑中麻衣美の後悔(2074年12月の背信)

 私、畑中麻衣美まいみには、大学三年生のとき恋人ができた。

 

 同級生の鈴木歩には、大学一年のときから恋人(高橋先輩)がいて羨ましく思っていた。高校時代から先輩を慕う鈴木を友人一同はずっと応援していたので、二人が両思いになったときはとても嬉しかった。


 いま、私自身も「最高のダーリン」を得たことを心底幸せに思っている。


 私は連邦凪海浦大学で前時代工藝専攻に所属している。恋人は法学専攻で同学年の神崎智司ともし。神崎智司は平凡なようでいて、ひとに安心感を与える優しい顔をしている。あまり高くない背丈も、私とのバランスがとても良い。そして彼も私を愛しんでくれる。


 凪海浦大学は学部制ではなく、教養課程の2年間はさまざまな専攻に進む者たちが必修科目などでは一緒に学ぶ。賛否両論ある制度らしいが、高校時代より視野が広がった大学二年生で進路を決められたのは、私には良かったと思っている。


 私が前時代工藝専攻を選んだきっかけを話した後、彼が自分の志望動機を教えてくれた。「法学を志したのは、ひととひととの争いが柔らかく解決する可能性を信じたいから」と熱く説明する姿に、私は心底惚れ込んだ。


 私が専攻を選んだきっかけは、教養課程の調理実習だった。大失敗をして、恥ずかしかった。だからこの学問を真剣に学ぼうと思ったのだ。前時代工藝の中で、私が研究対象に選んだのは、調理ではなく電気製品の修理だったけれど。同級生の鮎田は言語を研究対象にしている。


 智司の話に戻そう。ダーリンは真面目なので、サプライズとかはしない。そこが彼の、ああ、また長くなるから省略。


 そんな訳で、私はクリスマスに彼が予約したお店を1週間前に教えてもらった。予め「お勘定は半分ずつ、予算はふたりのバイト時給×6」と決めていた。


 それは! 私立名門高校出身同級生の! 情報共有仮想空間の共有で! きらめいているのを! 垣間見た! ことがある! あの! 店! 彼ら・彼女らのふだん使いのお店なら、「私たちの特別なクリスマス」にはぴったり。本当に彼のセンスが(略)。

 

 ふと、交際3年目の鈴木が、今年はどんな素敵なお店に行くのかな、と気になった。


 クリスマスはさそや素敵な店に連れてってもらうのだろう。

 

 しかし、聞いてみると、鈴木はキョトンとして、答えた。

「え、クリスマスは先輩おしごとが忙しいから、うち来ないよ」

「え? 素敵なお店とか行かないの?」

「なんで? もし先輩が来てくれたとしても、私がごはんを作るよ」


 ――ま、まあ、そういうこともあるかな。


 その時はそう思った。


 しかし、私は見てしまったのだ。神崎智司が連れて行ってくれた素敵な(約一文字略)の帰り道、ケバい女と連れ立って歩く高橋先輩。


 ――ま、まあ、仕事だとそういうこともあるかな。


 私も人生最初の恋人とのお泊まり(世界最高の恋人のアパートにて)に向けて、かなり舞い上がっていたので、そういうことにした。

 

 このとき、どうするのが正解だったのか、私にはわからない。


 年明けに、先輩の仕事について軽く探りを入れてみたら、男女両方の優秀な魔道具関係者と切磋琢磨していると、目をキラキラさせて話していた親友。


 もしかすると、このとき、智司に相談しておけば、優秀な彼なら(略)。



---


次、第5話 回想:亜空間での勇者教育の始まり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る