『静』から『動』へ。急転直下の展開が
物凄い。作者は概して闇の邪神を扱う。
しかしこの物語は、なかなかその陰影が
見えて来ない。
タイトルからして『ゴミ屋敷の支配者』で
ある。そのタイトル通りの人間ドラマが
展開して行くのだが、これが又、謎を孕み
ひたひたと何かが迫り来る不安ばかりが
増大して行く。けれども、それが何なのか
具体的な像を結ばない。
何かがあって、それが影響しているのに
正体がわからない。この不安感を暫くの間
読者は味わう事になる。但し、伏線や
要因、事件のキーパーソンが其処彼処に
置かれているが、悉く予想は外される。
そして急転直下の驚愕の展開へと。
「まさかあのゴミ袋が…!」そんな驚きを
誰しも感じるだろうが、多分、予想は
外れる。
ともあれ、その目で確かめられるのが
良いだろう。まさかの 用途 に驚きを
禁じ得ない。
夫の瑛人と息子の小学一年生の幸太とともに、野沢美代が暮らす新興住宅地である希望台は、ある悩ましい問題点を抱えていた。北の外れにある一軒の家屋が大量のゴミ袋を溜め込んで、屋外にうず高く積み上げられたそれらが強烈な悪臭を放っているのだ。自身の居住区域からは離れているため、直接の被害を被るわけではないにも拘らず、美代は自治会付き合いを切掛にゴミ屋敷に関する論題と向き合うようになる。自主調査とともに徐々に明かされゆく、屋敷と住人たちの血にまみれた過去。悍ましき死の連鎖。"詮索者"たる彼女の熱意が一線を越えたとき、過去よりの闇にわだかまる真実も、この世のものならざる忌むべき異形の臭気を纏ろわせるに至るのだった。平和な家族暮らしの団欒を汚し犯さんとする不浄なる終焉が、じんわりとあるいは急激に、読者の脳髄を、心の視覚と嗅覚から妖しく刺激する。もはや後戻りは出来ない……。