最終話 今日も不変で平穏な日常にて
「実家が格闘技のジムを運営しているんだ」
村上さんの口から告げられたのは、ちょっとだけ驚きのある実家事情であった。
あの事件から数日後。今日も不変で平穏な日常が訪れていた。いや、かなり変化はあったかもしれない。
学校の昼休み。廊下で偶然にも村上さんとすれ違い、挨拶をしたら、「影島くん、ちょっとだけお話しない」っと誘われたのだ。
女子からのお誘い。断る理由なんて見当たらないだろう。
こうして俺と村上さんは通行人の邪魔にならないように廊下窓際に寄り、会話を始める。
話題については、やはり例の高峰についてであった。
俺は高峰と蒼乃の関係や詰め寄った経緯について、話せる範囲で村上さんに伝える。
すると村上さんも高峰との出会いを語ってくれた。
学校近くのスーパーで買物をしていた時、日用品を買い込み過ぎて両手が塞がっていた所を高峰に助けられたそうだ。
「荷物重たそうだね、持ってあげるよ」と爽やかな顔で言われたらしい。
村上さん曰く、実家のジムで鍛えているので荷物は重たくなかったが、高峰が半ば強引に迫ってきたので折れたとのこと。
そこから、村上さんも高峰と交流を深めていくうちに警戒心も薄れて、仲良くなったそうだ。恐るべし、高峰のナンパ能力。
「それでね、ある程度話せるようになった時、高峰くんから”友だちからでいいから付き合って下さい”って告白されちゃって」
「そうなんだ。……ちなみにいつ頃の話」
「4月……だね」
嫌な予感が的中しちゃったよ。だって、俺が村上さんに告白したのも4月だもん。未遂で終わったけどね。
「その数日後に影島くんから告白されたんだ。もうビックリしちゃったよ。
それで慌てて、告白を遮っちゃたんだ」
村上さんは深々と頭を下げた。彼女のストレートロングヘアーな黒髪が重力に従い垂れ落ちたままで顔色を伺うのは難しい。
だけど、そこから謝罪の気持ちが十分に伝わってきた。
「影島くん。今更だけど、告白を最後まで聞かずにごめんなさい。
それと、ごめんなさい」
2つの”ごめんなさい”が聞こえてきた。きっと後半のごめんなさいは「影島くんとは付き合えない」というお断りなのだろう。
やっと、告白の返事を聞けた気がした。不思議と気持ちがいいな。
「村上さん。ありがとう。これからも友だちでいてくれる?」
「ふふ、もちろんだよ。これからも、よろしくね」
顔を上げた村上さんの笑顔はやっぱり眩しくて、可愛いなと思えた。
だけど、どうやら俺との関係は友人までが関の山らしい。
俺は村上さんと握手を交わす。
こうして、俺の中学からの初恋はきっちりと終わりを告げるのであった。
だが、まあ……高峰は俺よりも短い期間で村上さんと仲良くなったんだよな。
顔がいいのもあるが、恐れというものがないのも凄まじい。
そんな彼をもってしても攻略出来なかったのが村上さんへの自宅訪問。
数ヶ月もかけたが、牙城を崩すのは叶わず。俺たちに詰められて、村上さんに華麗な回し蹴りをお見舞いされる最後を迎えたのであった。
「村上さん。もしかして高峰を頑なに自宅へ近寄らせなかった理由って」
「うん。想像している通り、私の実家が格闘ジムを経営していて、隠したかったんだ
お爺ちゃんは柔道の道場師範。お父さんのお兄さん……つまり叔父さんは元ボクサー。
そしてお父さんは統合格闘技を教えているんだ」
おお、それは凄い。まさに格闘一家である。
村上さんが綺麗な回し蹴りを会得していた理由にも納得がいく。
だけど、腑に落ちない部分もある。
「ごめん、村上さん。不快にさせたら申し訳ないのだけれど、格闘ジムって隠すほどの恥ずかしい要素なのかな?」
「あはは、そうだね。昔の私だったら自慢してたかも。
幼児の頃から格闘技に関しては親族から叩き込まれていてね。
小学生の時点では、同年代の中では一番強かったかも」
なんだかグラップラーな話になってきた。
しかし、村上さんの中学生時代とは大分イメージがかけ離れているな。
中学生時代の彼女は運動系の部活には所属していなかったし、どちらかといえば大人し目の印象が強い。
村上さんは何かを思い出しのか、恥ずかしそうに頬をかいてみせた。
「小学生5年生の時にね、ちょっとした事件があったの。
クラスの男子が女子に暴力をふるったんだ。
それが私の友だちだった子で、私も怒っちゃたんだよね。
暴力をした男子に、私が思いっきりボディブローを決めちゃって……」
「あ~、なるほど」
「一応、その時はお互いに謝って大事にはならなかったんだ。
だけど、何処から漏れたのか、私が男子に殴り合いで蹂躙したとか変な噂が広がっちゃって。
そのついでに実家がジム経営だってセットで拡散されてね……。
私のあだ名がゴリラになったんだ」
「それは辛いな~」
流石に小学生女子のあだ名にゴリラはないだろう。
男子だってゴリラなんて嫌だと思うけど。
そう考えると、キテレツ大百科のブタゴリラが聖人に思えてきた。どんな精神構造をしているんだ、あのキャラは。
「それで村上さんは中学に上がる時、格闘技を封印したと」
「そんな感じかな。中学はお淑やかに行くぞ~って意気込んでた。
実家ではこっそりと鍛えていたけどね」
「それが回し蹴りに繋がるのか。俺的には凄くカッコよく見えたけどな、村上さん」
「フフ……そう褒められると恥ずかしいな。
でも、影島くんも格好良かったよ。
蒼乃ちゃんが色々と言われたとき、大声で反論していた姿にドキドキしちゃった」
「あはは……頭に浮かんだままの言葉を吐き出しただけだけどね」
「ふ~ん、そうだとしたら妬いちゃうなぁ。蒼乃ちゃんも良い人をみつけたよね~。
私も影島くんみたいな決める時には決める彼氏が欲しかったかも」
「……? 村上さん、ちょっと待って。
俺、蒼乃とは付き合ってないよ?」
「え、そうなの? へぇ……ふ~ん、ふ~~ん?」
村上さんは疑いの目で俺の顔を覗き込んできた。
いや、本当なんです。というより、この短期間で二度目の失恋をしています。
そんな村上さんはポツリと「じゃあ、私にもチャンスはあるってことか」っと小さく呟く。
何を好機とみたのだろうか?
「ねえ、影島くん。1つ提案があるんだけどさ……」
村上さんは改めて俺の瞳を真っ直ぐに見つめて何かを告げようとする。
それと同時に、背後から「彰人~~」という明るい声が聞こえてきた。
この学校で俺を名字でなく名前で呼ぶのは一人だけ。どうやら蒼乃が迫ってきているらしい。
村上さんが提案を告げてくる。
蒼乃は俺の背後から抱きついて伝えてくれる。
「影島くん、今度の日曜日にデートしない?」
「彰人、今度の日曜日にデートしよっ?」
「んんっ!?」
どうやら俺の
陰キャな俺にギャルが「オッパイ揉ましてあげる」と提案してきて、いつの間にか童貞を奪われていた話 ジェネビーバー @yaeyama
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