第九話 いつの間にかギャルに童貞を奪われていた話
「お茶……持ってきたよ」
「……」
テーブルに冷えた麦茶を置いて、蒼乃に勧めるが返事はない。
彼女は体育座りの体制で顔を突っ伏して、時折鼻水をすする音を鳴らしている。
気まずい。ひたすらに気まずい。
さて、どうしてこうなった。状況を整理しよう。
まず、ここは俺の自室だ。ここに至る経緯を思い出せ。
あれは数分前に遡る。高峰の件が終わった後、取り残された俺は蒼乃を駅まで見送ることにしたわけで。
流石に疲弊しきった女子を置いて「また明日!!」なんて鬼畜な思考回路は備わっていない。
何より蒼乃自身が下手くそな笑顔で「じゃあね」なんて別れの挨拶を告げたのだから、尚の事見送るのを強行せざるおえなかった。
漫画とかで散々見てきた表情だ。彼女は無理をしている。
そんなわけで、蒼乃の手を引いて駅まで送る行動にでたのだ。
「(そこまでは、良かったんだけどなぁ……)」
とくに会話も無く、重苦しい雰囲気のまま駅までの道のりを進んでいく。
そんな道中、蒼乃が突然「ごめん、ごめんね……」と泣き出したのである。
もう、何事かと慌ててしまったよ。
涙を流す女子高生。手を引く男子高校生。傍から見れば修羅場の風景。時々すれ違う通行人の目が痛い。
蒼乃も落ち着く気配が訪れそうになかったので、冷静さを欠いていた俺は自宅まで連れて行き、今に至る。
「えっと……今日は家に誰も居ないから、遠慮しなくて平気だから」
とりあえず蒼乃に伝えるが、寧ろ危険な状態であるのを報告していないか、これ?
男子高校生と部屋で二人きり。家族はしばらく帰ってきません。
いけないな……字面がエロ漫画とかでよくあるシチュエーションそのものだ。
あくまで現状が二人きりならまだ良かったよ。途中で家族が帰ってくるとかそんなオチだろって。
恐ろしきかな神は居た。
LINE通知には母から『今日はパート先の店長が転勤になるので送別会だよ(^o^)ご飯は自分で用意してネ(^^)』という遅くまで帰宅しない宣言。あと、オジサン構文を直す気はないらしい。
ここまでは良い。次に姉への連絡だ。母が不在だから夕飯は?っとメッセージを送ると「今日は大学の友だちと飲んでるから不要」という簡素な返信。
いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
となると父は? 我が大黒柱は大阪に出張中であった。神がかり的なタイミングである。
結果として、我が家族は夜遅くまで帰らないというわけだ。少なくとも夜21時以降までは誰も戻らないのである。
だからといって、此れ見よがしに「ゲヘヘ、今晩はお楽しみだなぁ」なんて下衆な行為は行うつもりなんてさらさら無いけど。
可哀想なのは抜けない……である。それこそ
ここはあくまで紳士らしく真摯な対応で。俺は立ち上がり、蒼乃に告げる。
「俺は1階に行っているから。落ち着くまでは部屋に居ていいよ」
何より今日は色んな出来事が立て続けに起きすぎた。
蒼乃だって心身共に疲れているはずだし、自室で休ませてあげるくらいは罰にはならないだろう。
そのまま部屋を出るため扉へ向かおうとすると、ズボンの布を引っ張られる感触。
蒼乃の手が俺の退却を阻止していた。
「彰人、隣に居て……」
「あ、はい」
気落ちした女子のしおらしい状態。そこから繰り出される頼み事。
断れる男児など居るのだろうか? 否である。
それは俺でさえ例外ではない。言われるがまま彼女の隣に座り込んだ。
「……」
「……」
沈黙が再び。困ったぞ……。
デキる男なら、ここで慰めるのに適切な言葉がサラッとでてくるのだろう。
残念ながらそんなスキルは持ち合わせていないけど。会話のスキルツリーは伸ばしていないんだ。
かける言葉は何処にもなく、エアコンの空調音だけが異様にはっきりと耳に届く。
視線を隣に移すと、蒼乃は依然として体育座りで顔を埋めている状態。
どうしよう……。どうしよう……。
いよいよ頭の中が混乱してきた。脳内で適切じゃないワードの候補が浮かんでは、それはないだろう……と、ツッコミをいれて振り払うフェイズに突入する。
この流れは知っているぞ。冷静さを欠いて衝動に任せた斜め上……いや、斜め下な行動に出るパターンだ。
そんな俺の精神が限界に達すると同時に、空気を変える一言を漏らしたのは蒼乃だった。
「彰人にも性欲ってある?」
「……!?」
それってどういう意味ですか? 想定していなかった蒼乃の切り出しに、俺は質問を質問で返しそうになった。
言葉より先に口を噛み締めて回避はしたけど。
しかし、困ったぞ。どのような回答が適切なのだろうか。
肝心の蒼乃の表情は伺えないから、自力で考えて答えるしかない。
考えろ。質問の意図を汲み取らないと。
「あるよ!!」 なんて答えは違う気がする。
「ない!!」 これも腑に落ちない。現に彼女は友だちだと思っていた異性に詰め寄られたのだから。ましてや俺は押し倒しているわけだし。
「時と場合による」 ワーストアンサーだな、うん。それだけは確実だ。
想像の域を超えないけれど、質問の意図はぼんやりと分かる気がする。
蒼乃は男子に対しての友情に戸惑っているのだと思う。
彼女曰く、皆と仲良くなって楽しければそれでいいらしい。しかし、現実は違って、異性の友だちは恋だとか性欲などの方向性へ最終的には到達してしまうのだ。
さらに、友人として接していた高峰でさえ言い寄って来た有様。混乱するのも無理はない。
だから、俺に性欲はあるのかと聞いてきたんだ。
答えは見つからない。そもそも、生物として異性を卑しい目で見てしまうのは自然の摂理。本能なのだ。
俺は蒼乃と出会った初日に君をオカズにオナニーをした。
君と交流を深めていくうちに恋をした。
彼女を押し倒したときは、理性のタガが外れてしまった。
だから、否定はできない。彼女に向ける気持ちは性そのものだ。
今でさえ、口の中は彼女にもらったチュッパチャップスチェリー味を思い出して甘酸っぱさを感じてるくらい。
それが蒼乃との初めての出会い。そこから俺の欲は始まっている。
あの時も確か……
「(そうだ……)」
その時、ふと思い出した。なんだ、簡単じゃないか。
脳内に蘇る4月の光景。階段の踊り場に居た君から貰った言葉。
散々、悩んでいたのに、答えは一番最初にあったんだ。
「蒼乃……」
彼女の名前を呼びながら肩を叩く。すると蒼乃はゆっくりと顔を上げて俺の方へと視線を向けた。
目は赤くなり、瞳には光が失われている。やっぱり、落ち込んだ顔は似合わないよ。
俺は彼女の揺れる心に向けて、真っ直ぐな気持ちをぶつけてみせた。
「俺のオッパイ揉む?」
「はぁ!?」
期待通りのリアクション。彼女は大きな声を部屋中に響かせた。うむ、元気な声量だ。
俺が満足げに頷き、蒼乃は口をパクパクとさせている。
”アタシのオッパイ揉む!?”
彼女が俺に向けた言葉をそっくり返してやったのだから、驚くのは無理もない。4月には俺が同じリアクションをしていたしね。
だけど、これが俺の答えだ。もちろん、真剣に考えて導き出した結論さ。
まあ、意味を説明しないと気味が悪いだけだけど。
俺は蒼乃に向けて言葉を続けた。
「蒼乃。俺の返事を聞いて、驚いた?」
「あ……当たり前だし」
「それが俺の答えだよ。性欲があるかって質問のね。
いきなり、”オッパイ揉む”なんて言われたら驚愕するに決まっている。
他の感情だって同じだよ。
蒼乃が悲しければ、俺も悲しい気持ちになる。
蒼乃が楽しければ、俺も楽しい。
そして、蒼乃の欲が高まっているなら、俺も同じ高ぶりを感じる。
その場の相手の気持ちによって、俺の気持ちも変わるんだ。
だから、性欲はあっても、相手の気持ちに寄り添った時、初めて生じる物なんだ」
蒼乃と仲良くなりたい。君と触れ合いたい。
そう思えたのはいつだって彼女が笑っている時だった。
一方的な性欲を向けて俺だけが気持ちよくなるなんてオナニーで十分だ。
気持ちよくなるなら、蒼乃と一緒が良い。
それが俺の性欲だ。
答えを全て言い切ると、蒼乃は数秒ほどポカンと口を開けたままになる。
その後、微小な声が漏れだしていき、その音は徐々に大きくなっていく。
「っぷ……フフッ……あはは……あはは、はっはっはっは!!」
蒼乃はお腹を抱えながら、目の前で口も抑えずに大笑いをしてみせた。
月曜日みたいな落ち込んだ顔つきが一気に日曜日へと飛んだみたいな満開の笑顔である。
「あ~、面白すぎるっしょ。そっか、それが彰人の性欲なんだね。
アタシ、なに難しいこと考えてたんだろ。感情なんて人それぞれなのにさ……」
すると、蒼乃は手を伸ばしてきて、俺のワイシャツにそっと触れる。
「ねえ、彰人。言葉とおり、オッパイ触ってもいいかな?」
「はい!?」
「だって、彰人がここまで言ってくれたんだもん。
アタシにも性欲があるか、試してみたくなったし」
ニヤリと新しい悪戯を思いついた悪ガキみたいに口角を上げる蒼乃。
思わずビクンッと体が震えてしまう。
おお……それは、それは……。
彼女がそこまで言うなら、断るのは無作法というもの。
俺は手のひらを出しながら、「どうぞ」のサインを送る。
「あんがと。そんじゃ、早速……」
彼女は俺のシャツのボタンをプチプチと丁寧に上から外し始める。
……ん?
「ちょっと待ったぁ!!」
「うお、どしたん?」
「いや、いやいやいや……。いきなり服を脱がされたら驚くでしょ」
「え、オッパイって服の上から揉むもんなの?」
「それは……」
立場を逆転させて考えてみよう。仮に俺が蒼乃のオッパイを揉めたとしよう。制服の上から揉みたいか? 揉みたいでござる!!
って違う違う。それは性癖の相違だ。モミモミできるなら俺だって生乳を選ぶだろう。
しかし、女の子に服を脱がしてもらうのは危うい。俺の下が情熱ゾーンに入ってしまう。
あくまで蒼乃の性欲の話。俺の欲はお呼びじゃない。
「蒼乃。せめてシャツは自分で脱がせて」
「あ~、ごめん。ハズかった?」
「ええ、とても、とても」
危なかった。脱がせてもらうシチュなんて童貞には刺激が強すぎる。
落ち着け。幼児だった頃を思い出すんだ。お母さんにお洋服を脱がせてもらった時の記憶を思い出して平穏を保つんだ。
煩悩が
……よし、落ち着いた。
俺はシャツのボタンを全て外して、肌着も一緒に脱衣をした。なんか脱ぎ捨てたままも気持ち悪いので、綺麗に畳んでおこう。
衣服を整え脇に置くと、俺は正座をし、両腕を広げて、彼女を受け入れる態勢へと変えた。
「よし、蒼乃。準備は整ったぞ。存分に揉みたまへ!!」
「お~、了解っしょ。そんじゃあ、遠慮なく」
蒼乃が両手を伸ばし、俺の肌へと近づいていく。
別に上半身裸がどうした。プールの授業で上の部位なんて平然と晒してるだろうが。
平常心、平常心。
呼吸を整え、蒼乃の手が俺の体へと触れるのを待ち構える。
ペタリと少し冷たい蒼乃の手が、俺の肉体表面に到着した。
「ん……」
はい、無理です!! ヤバいな、これ。凄くこそばゆいぞ!?
考えてみれば、誰かに触れられるなんて経験はない。そもそも相手の上半身を触る場面なんて、そうそう思いつかないけどさ。
クラスの鍛えている男子が「筋肉触らせて〜」なんて物珍しさで触られるくらいだろう。
お生憎、俺の体型は極めて貧弱寄りの平凡な肉付である。
つまり耐性がない。悔しいけど感じちゃう。
「おお〜。男子の体って初めて触ったし。やっぱ女子とは違うね」
そんな俺の感度なんて気にせず、蒼乃は遠慮なく体を触れてくる。性欲と言うより、動物園の触れ合いコーナーを体験してる子供の姿に近い。動物の肌触りに興奮してる的な。
予想は当たっていたのか、蒼乃の手つきに遠慮がなくなってくる。
胸部、腹回り、腕とペタベタと触ってくるものだから、心が保ちそうにない。当の本人は目を輝かせてるけどさ。
「体硬い〜。ゴツゴツしてんね。体温も熱っ〜」
肉体が熱いのは貴方が原因です。ああ、もう無理。キツイぞ。
変な喘ぎ声を出さぬよう善処したつもりだが、我慢をしていたせいで鼻息が荒くなっていく。
傍から見れば、興奮して激しい呼吸をしている図にしかみえない。実際そうだけど。
「彰人、息が荒いけど苦しいの?」
「あ、うん……。人に触れられるって慣れなくて」
「あはは。それはそうっしょ。アタシだって人の肌なんて手とか腕くらいしか触らないし。
やっぱ、女子に触れられてドキドキしてる感じ?」
「そりゃあ、もちろん。ましてや友達に触られるなんて心臓が張り裂けそうだ」
「ふ~ん。つまり今はエグみが凄いと」
エグみがあって、凄いとは?
独特な蒼乃語録に疑問符を浮かべていると、彼女が突然近寄ってきた。
「!?」
「いいから動くなし」
言われるがまま姿勢を維持すると、蒼乃は自身の耳を俺の胸部へとピタリと合わせた。
眼下には蒼乃の頭部。胸元辺りは独特な温かさ。ほんのりと汗と香水の匂いが鼻に届けられる。
これは……妙な気持ちになるぞ。
どうやら体は正直みたいで、心音がバクバクと今日一番の加速をしてみせた。落ち着かねぇ……。
「彰人。ドキドキしてんね」
「全部、蒼乃のせいだよ」
「そっか……」
今すぐ抱きしめたい衝動を殺し、歯を食いしばりながら耐えてみせる。おかげで鼓動は忙しなさを維持していた。
まさに生殺し。あと何秒我慢すればいいんですか、蒼乃さん。
数秒経つと、彼女が距離を取り、俺の表情をまじまじと眺めてきた。
さぞかし俺の顔面は赤く染まっているはずだ。だって頬が熱いんだもん。
そんな俺の心を読んだのか、蒼乃が俺の状況を簡素に伝えてくれた。
「彰人。顔が真っ赤だし」
「そうですか……」
「心臓の音。顔つき。アタシに触れられて、ドキドキしてたのって本当だったんだ。」
「体は演技ができないからね」
「あはは、それはそうっしょ。じゃあさ、アタシの体も嘘ついてるって確かめる?」
蒼乃は俺の左手を取ると、それを自身の胸元へと誘導する。
胸と胸。谷間より少し上と喉の間にある肌部分。まだ触れても犯罪にはならない絶妙な箇所。布越しでも分かるくらいの熱さが手のひらに伝わってくる。
彼女が着用している制服の白いワイシャツを通して、心音がトクントクンと波打ち、少しばかり忙しない。
「彰人、アタシのオッパイ揉む?」
「!!」
その提案に体と心が揺れ動く。
4月の階段の踊り場で告げられた発言とは違う。今度こそ明確な意思が乗せられた言葉。
今すぐにでも「揉みたいです!!」という喉元に出かかった欲望を唾と共に飲み込んだ。
「蒼乃。最後に確認なんだけど、俺でいいのか?」
「彰人がいいの」
体は嘘をつかない。胸元に触れた蒼乃の心臓。その脈が加速していき、肌表面が微弱に揺れ動いている。
それが無言の了承になった。
俺は彼女をベッドへと運んで、押し倒す。
「蒼乃……」
気づけば俺は彼女の顔に近づき、唇を重ねていた。
「ん……」
蒼乃も自然に受け入れてくれる。
短くて、長いような人生で初めてのキス。1秒にも満たない口づけだった。
素直に感想を述べるなら、無味無臭。誰だ、甘酸っぱい味がするなんて表現したヤツは。童貞に夢をみさせる哀しい嘘はやめてくれ。
だがしかし。その怒りに釣りが来るくらいの熱さが体内へ満たされていく。なんとも言葉にし難い不思議な気分だ。
というより、興奮した流れでキスをしてしまった。
蒼乃は怒っていないだろうか。
恐る恐る彼女の顔を覗くと、頬を赤く染め、手の甲で口元を隠していた。
やっぱり、許可なしでキスをしたのはマズかったよな。謝らないと。
「ごめん、蒼乃。勝手にキスをして」
「べ、別に。気にしてないし。ただ……」
「ただ?」
「アタシ、その……初めてだったから」
「……!?」
”初めて”。なんという、甘美な響きの単語。それはつまりファーストキスって意味だよな。
俺も初めてだが、言葉の重みが違う。申し訳ない。
考えてみれば、蒼乃は男友だちからの告白は断ってきたと言っていたはず。
裏を返せば、彼氏を作ったことがないとも取れる。キスが初めてというのも納得だ。
そう思うと、申し訳なさもあるが、僅かながらの優越感も心に漂ってしまう。
他の雄よりも優位に立てた動物的な競争本能なのだろうか。肉体は熱さに包まれてしまう。
そんな本能のまま押し倒してしまいそうになる気持ちをグッと堪えて、俺は彼女に確認を取る。
「蒼乃。もう一度、キスしていい?」
「……」
蒼乃は口を開かず、顔を朱色に染めながら無言で頷く。その大人しい反応が俺の理性の防波堤を崩壊させた。
再び、彼女に近づいてキスをする。今度は数秒で終わらない長い長いキス。
唇と唇が触れ合い、蒼乃のやや荒れた鼻息が俺の肌へと当たる。
「んん……」
漏れる妖艶な声。欲望は更に深く沈んでいく。
俺は彼女の両肩を掴んで、引き寄せる。そして、自身の舌を彼女の口内へとねじ込むのを試みた。
最初、舌の先に当たったのは潤いのある彼女の唇。
まるで扉みたいに閉ざされた唇を舌先でトントンと2回叩くと、口が緩み、彼女の中へと招かれた。
舌に伝わるのは、ぬめりとした感触と生暖かな温度。
侵入を許されたのだと調子づき、舌を上下左右に動かしてみせると、彼女の舌も応え、絡めてくれる。
まるで体同士を重ねて弄るみたいに2つの舌が激しく混ざり合う。
「んん……♡ クチュ、ぁ……っ、んん♡♡」
お互いの唾液を交換しつつ、クチュクチュと艶めかしい音が響いていく。
脳は思考を放棄してしまい、快楽を満たす一点だけに支配される。
そっと手を動かし、彼女の胸へと触れてみせた。
先程の遠慮がちな揉み方と違う、鷲掴んで食い込ませる形だ。
「やっ……め、んん……、ぁぁ♡」
ビクンッと蒼乃の体が小さく揺れ、止めてと言いかけた言葉をキスで塞ぐ。
1回、2回……と胸を揉むたびに、彼女の肉体が揺れ動き、口の中に広がる唾液が興奮によって大量に分泌されていく。
彼女も諦めたのか、今度は俺の口へと自身の舌を押し込み、唾液の交換が始まる。
「ん……、ぁ♡ っ……クチュクチュ……♡ はぁ……」
数分ほどして、息の限界が訪れて、俺と蒼乃は口を離した。
粘膜性のある唾液が口と口の間に長い糸を引き、重力に従い落ちる。
呼吸が整わない。既に下腹部はドクンドクンと血液を運び万全の状態。
方や蒼乃もハァハァと白い息を吐き出していた。
内股になり、太腿の間をモジモジと動かしている。どうやら、彼女のあそこも疼いているみたいだ。
「蒼乃、続けようか」
すると彼女は瞼をギュッと閉じて、コクリと首を縦に振ってみせた。
制服姿で仰向けに倒れる彼女。興奮しているのか呼吸の間隔が短く、上半身が小刻みに上下に揺れ動いていた。
そのおかげか、大きく実った胸がシャツ越しでも分かるくらいにくっきりと強調される。
仰向け状態でデカいと分かるのだ。改めて彼女のバストが素晴らしい物を携えているのだと理解らさせられる。
こうして、俺は蒼乃と体を重ね、童貞を奪われるのであった。
…………
……
…
「あはは~、彰人は激しかったね~」
「本当にゴメンナサイ……」
太陽は落ちて、月が登る夜の20時ごろ。
街灯に照らされながら、俺は蒼乃を見送るために駅までの道を歩いていた。
蛍光灯のチカチカと放つ光が眩しくて眉をひそめてしまう。つい数分前まで、俺……童貞だったんだよな。
隣では蒼乃が変わらずケタケタとお腹を抱えながら笑顔を作っている。
さっきまで肉体をぶつかり合わせてたんだよな、彼女と。
ジッと彼女を眺めていると、「どしたん?」っと首をかしげる。
蒼乃の態度が変わらなさすぎる。やっぱり、夢だったんじゃないかと疑いたくなるよ。
試しに頬をつねってみた。痛い。
「彰人、夢だったと思ってんの? 頬をつねっていてウケる。
あの後、3回もアタシん中に出したくせに~。
け・だ・も・の♡」
「ぐっ……」
やっぱり夢じゃないみたいだ。
脳裏に今でもはっきりと焼き付いている。
全てを出し切った後、体の熱が引いてきて、荒い息を吐き出しながらベッドで倒れる蒼乃。
彼女の膣から精液がドロっと溢れ出していたのが印象に残っていた。
「反省しております……」
「あはは、本能スゲーって感じだったし。
彰人も雄だなって思ったっしょ」
ニタニタと頬を緩め、蒼乃は自身のへそ周りに円を描きながら擦っている。
あ、はい。もう、「お前の精子は全部ここだぞ」って顔で見ないで下さい。自分でもビックリしたので。
俺は渋柿みたいに苦い顔を作ると、蒼乃は何も言わずに背中を優しく叩いてくれる。
意図は分からない。だけど、「それが普通だし」と伝えてくれた気がした。
しばらくすると、街灯だけの道が次第に明るくなっていく。どうやら駅前まで到着したらしい。
「彰人。送ってくれて、あんがと。ここまでで大丈夫だから」
そう告げると、一歩二歩と蒼乃は俺の先を進み始める。
ここでお別れの言葉を吐き出せば、今度こそ夢みたいな一日が終わりを告げる。
胸の辺りが寂しくて。それでも満たされていて。
なんとも我儘な体になってしまったようだ。
今なら秘めた想いも伝えられるかもしれない。
「蒼乃……」
「ん~、なに、彰人?」
「俺とつきあ……」
人生で二度目の告白は、蒼乃の人差し指によって防がれた。
「彰人。アタシ、今でも愛だとか性欲ってよく分かってないんだ。
だからさ、今日は人生の初めてだらけで混乱してるんだと思う」
すると彼女は俺に向けて笑ってみせた。何度も何度も見飽きるくらいに目にしてきた彼女の表情。
ビルから漏れる明かりも、お店のショーウィンドウから漏れ出す光も、輝く月明かりでさえ凌駕する。
蒼乃は白い歯が見えるくらいの満開の笑顔で俺に告げてきた。
「明日からまた、友だちを始めよう」
俺はその問いかけに返事をしない。いや、なんて答えればいいのか戸惑ってしまった。
思考放棄して立ち尽くす俺に対して、彼女は「そんじゃ、また明日」っと、一言告げて駅の光へと消えていった。
ポツンと残るのは失恋の味のみ。無味無臭だけれど、しっかりと味わねば。
「ありがとう、蒼乃」
俺は一言告げて、自宅への道へと戻るのであった。
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