中二病による短編集

九頭展

練習小説 異界・生存戦略

俺は敵の基地の通路で、物陰に身を潜めていた

衛兵が近づいてきた

俺は隠れ場所から飛び出し、十で衛兵を打った

弾丸は命中し、衛兵は倒れた。


「いい加減、この景色にも飽きて来たな」

永遠に続くようにも感じる、窓もない白一色で染められた迷路のような廊下の、積み上げられた段ボールの陰に座り込み、一人呟く。

「しかし、こんな広い基地をどうやって・・・。組織のデータベースにも情報はなかった。ということは、やはりあいつらの誰かが・・?」

浮かんでは消える仲間の顔と、自分の所属する「組織」への疑念。

意識が思考の海に沈みかけた時、ペタリと、まるで河童のような水分を含んだ足音が聞こえた。

そっとそちらを覗くと、大きな水かきと長い尻尾、鱗の肌に鋭いキバを持った人類の敵。蜥蜴人(リザードマン)がそこにいた。

奴らは人間と変わらない動作で歩き、人間と同じように銃を構え、一つ違うところとして首を回さずに目だけを動かし、チョロチョロと舌を覗かせていた。

そしてその人間にはない感覚器で何かを感じたのか、その場でピタリと足を止め、俺の隠れる方へと足を向けて来た。

バッと急いで、しかし物音を鼓動すら止めるつもりで身を縮こませる。

別の通路に行ってくれればと、淡い期待に反して、ペタペタという特徴的な足音はまっすぐに俺の隠れる段ボールを目指して来ていた。

「やるしか、無いか・・・!」

武器の類は相次ぐ戦闘により、拳銃一丁のみ。防具も速さを優先したため、ほとんどを脱ぎ捨ててしまった。

反対に、化け物の手には威力も連射力もありそうなSMG(サブマシンガン)。さらに彼らは、拳銃の弾であれは簡単に弾く、硬い鱗を持っている。

戦力差は絶望的であった。

「ハハッ、いつも通りだな」

ペタペタと迫る足音を聞きながら、拳銃を額に寄せ、祈る。

もし失敗すれば、その先にあるのは、死か、それよりもひどい生き地獄か。

「狙うのは目玉。チャンスは一瞬・・・・・・」

思わず漏れた声が聞こえたのか、ペタペタという音がテンポを速める。

一撃で仕留められるよう、狙いを外さないよう、ギリギリ限界まで敵を引きつけ、隠れていた段ボールをぶちまけながら、その化け物の前に出る。

俺と奴との距離は1mもなく、奴は段ボールに驚き、身を強張らせていた。

「死ね、化け物・・・!」

呟きながら打った弾丸は、俺の祈りに従って、奴の目玉へと吸い込まれていく。

そして、人間と変わらない赤い血しぶきをあげながら、その弾丸が奴の脳髄をかき乱し、ドスンとその肉体を床に倒れ込む。

ピクピクとその身を痙攣させながらも、奴は残った目玉でこちらを睨みつけてくる。

「シ、シンニュウシャ・・・!」

だが奴は、もうほとんど意識がないにもかかわらず、その生命力を以て、腰にぶら下げていた通信機器に手を伸ばす。

「やらせるかよ」

俺は冷静にナイフを抜き、鱗のない手のひらを貫き、通信機器を奪い去る。

「ガアッ!」

それでも最後に残ったそのキバでこちらに噛みついてくるのを押さえつけながら、奴の身につけていた、「俺のナイフと全く同じナイフ」を抜き、もう一方の目玉に突き立てる。

それでもまだ弱弱しく息を続ける奴は、一つ大きく息を吸ってとこちらにその眼窩を向けてくる。

「キサマナゾ、スグニ、ワレラノトモガ・・・!」

「安心しろよ。お前の友人も、すぐに同じ場所に送ってやるさ」

最後にもう一度、奴の首にナイフを突き立て、完全にその生命の鼓動を止める。

それと同時、カチャリと奴の首につけたドックタグが鳴る。

そこには奴らの文字で書かれたのであろう、今死んだこの化け物の名前。

「・・・ああ、俺が全員、送ってやるさ」

いくら化け物と言えど、奴らも殺せば死ぬ程度の、「生き物」でしかない。

そう、これは正義の戦いではない。復讐のための戦いでもない。ただ、生き残りを賭けた戦争なのだ。

奴の持っていたサブマシンガンを拾い上げ、身につけていた弾帯からマガジンを取り出り、ポーチへと詰めていく。

そして、生き残るため。生きて、ここを脱出するため、白い廊下の先へ歩き始めた。

「生き残るんだ。俺たちは・・・!」

2099年初頭。これは、人類と、化け物たちの、命を賭した生存競争である。

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