白マントと鏡
「それでは軽く、この世界について、説明いたします。」
レイネルさんは歩を進めながら、私に聞かせる声量で話し始めた。
「此処には、二十人の吸血鬼が暮らしています。この広大な砂漠で、ある程度の自由を持ち、生存、娯楽に必要な物を作り、したいことをして。」
レイネルさんの白いグローブが、私達が置いてきた景色を指さす。
「人間界と此処をつなぐのは、貴女が先程通ってきた鏡しかありません。そして、それも直に、効力を成さなくなる。次に触れて、どこかへ飛ばされたら、きっとそこは秘境です。」
暑さも寒さも感じない空気が、何処か異質感を残して去り行く。レイネルさんの手がだらりと下ろされ、彼はまた歩き出す。
「この鏡の奥の奥には、時折、扉が現れます。しかし、その扉は決して、開けてはなりません。悪魔と吸血鬼をつなぐ、特別な扉ですので。悪魔に殺されても、助けることはできませんよ。」
悪魔の扉。それは、ロードから聞いたことがある。知っている内容だから、理解はしやすい。
悪魔は、『吸血鬼を生み出した幻』の呼称。悪魔の扉が開く理由は知らないけれど、その扉が開いたとき、絶対に扉を超えて奥に入ってはならないと言われた。
暗く染まった自分の手を見る。改めて、奇妙な世界へと足を踏み入れてしまったのだと思った。
「着きましたよ。」
そう言われて頭をもたげた私は、砂色の壁を見た。
そう、砂色の、壁。目に広がる色全て、砂と同じ色なのだ。
「え、これ、このお城って、メイド・オブ・サンド……?」
「は?」
……素で返さないでください。
「原材料、砂?」
「他に何も無いでしょう。」
……そうですね、はい。ごめんなさい。
でも、驚いたことを責めないでほしい。今まで見たことがないくらいの完成度なんだから。
左右対称の城。私の村が含まれる母国の宮殿と似通った造りで、見上げてもなお見切れない大きさになっている。私達家族は『特別な招待』で、宮殿に行ったことがあるから、その時と同じほどの驚愕を抱いている。
「アナリーさん、よろしいですか。」
熱に浮かされていた私を、レイネルさんが現実へ引き戻した。
「ここから先は、貴女を己の血肉と捉える者達です。覚悟を、なさってください。」
……何を、馬鹿なことを。
「そんなもの、ここに来る前から決めているわ。」
そもそも、そんなもの、私には『必要ない』のだから。
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