「私は、他の人達とは違います。」

 砂を踏む音だけが、聴覚に触れる。闇の中、白いマントをはためかせる男の背に従って進む。視界を染める白の霞が靉靆たなびさまが、ここではひどく異質に見えている。

「……あの、ハルマさん?」

「レイネルで良いですよ。何でしょう?」

 私の斜め前を歩いていたのに、彼はわざわざ私の方へと振り返る。律儀な人なのだろう。

 私は、そんな彼を煽るように、わざと声を震わせ、地を這う目で彼を見上げた。

「レイネルさん。貴方は……“吸血鬼”ではないの?」

 彼は、目を一度伏せると、私に瞳を向けた。

 無表情に似て、氷が張りつけられているような表情。左右で輝き方が異なる二色の眼光は、刺さりそうなほど鋭く、痛い。故郷マチレ村の仲間とは違う圧力に、背筋は冷える。

「ええ。吸血鬼ですよ。」

 微かに口角を上げてそう答えると、彼は再度歩き出した。私は、重ねる。

「ならば何故、私を喰わない?」

 目の前の、吸血鬼を名乗った男が暴走したって、文句は言えない一言。それを、私は、彼に放った。

 男は、体ごと私に向けた。その顔は、この世に生きるすべてを鏖殺してしまいそうか、もしくはそれを成してしまったか、そのような顔だった。

 化け物の口、化け物の目、化け物の声で、言った。

「私は、他の人達とは違います。……私は、確かに吸血鬼です。ですが、人の血を食らいません。嫌いなんですよ、人血が。私は何も喰わなくても、生きていける性質タチなので。……まあ、この奇妙な体のお陰で、異端扱いですが。」

 少々自嘲気味に薄笑いを浮かべ、大波が来るような力強さを声に宿し、男は自身のマントを揺らした。汚れ一つない、白。夜の闇にそれは溶けて、辺りを舞う粉雪のようにすら見えた。

「……しかし、私が異質なだけで、他の奴らは血を吸う。私も含めた、“二十人”の吸血鬼。どういう意味かは、お分かりですね?」

 他の者は皆、私を殺しにかかってくる。そういうことだろう。

「……なるほど。」

 男は、不気味に、安心したような顔をする。外へとはねた髪が目に映り、彼は『白い』という印象を覚えた。

「それでは、先へ進みましょう。アナリーさん。色々とお話したいこともあります。」

 レイネルさんは、また正面に目を向けて歩き出した。

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