私とそれ以外。

ぬおー

第1話

私。

世界は私か、それ以外か。

近頃、本当にそう感じる。


いつからだろう、そう思い始めてから終わることが無くなったのは。


……


"あなたは私?それともそれ以外?

わかってくれたら、あなたは私の友達にしてあげる"


真夏のある日

(今日も各地で猛暑日となります。東京では最高気温41℃を越え……)

「アヤカ、宿題終わったの?」

母のやかましい声が耳を刺す。

「うん、やった」

私は高校3年生になった。

この夏は特に暑くて、エアコン無しじゃどうも身体がなかなか言うことを聞いてくれない。


「受験生にもなって、課題を出してくる先生は頭がおかしいと思う。やらないといけない事が多くて、やれないこともあるのに、やらなくていいことをやらすなんてどうかしてるよ。」


とかグチグチ言うけど、結局何もやらないのが私なんだろうな。

そんな私は高校生になったら、環境が変わると思って電車を使って1時間半かけて学校に行く。

なんでこんな遠いとこ来たの?!

って同級生に言われたら、

「ホントにね?!(笑)」

と私はいつものように自分から話を切り出して、お馴染みの返しに自慢げに笑って返す。


中学3年のはじめに親の転勤で東京から愛知に越してきた。

どこの高校に行くのかも分からず、適当に部活で選んだ学校は受験1週間前にはじめて行き、その遠さと坂の多さに絶望した。


そこから色々あって、今年卒業するらしい。

私どうするんだろね、これから。


実は2年生の頃から行きたい大学が見つかって、それに向けてちょっとずつ勉強をしてきた。

高校受験が上手くいかなかったのもあって、多少のモチベーションはあった。

と、ここまで新学期が始まって4月からひとりで着々と勉強してきたつもりだったが、それは模試の点数には全く影響せず、自分に模試が合わないだけだと言い聞かせ、何とかやってきたが、とうとう夏休みから塾に入ることにした。


7月の下旬、私と母は塾に入るために校舎を尋ねた。

マスクをしていて、頭はチリチリの背の高い担当の人が出てきた。

その人は、はじめはゆっくりと話していたが模試の結果を見せると、まるで私の全てを知ってるかのようにベラベラと喋りだした。

そしてどんどんと料金プランが組み立てられた。

私は、

「世界史が比較的得意でなんとかやっていきたい」

と言ったが、今のままだと全然できてない。と言われ、1枚の紙につらつらと0(ゼロ)を増やしていく。それは2年生からの勉強が全否定されたような気持ちになった。


担当の人が一旦席を立つとお母さんは私にこう言った。

「今まで1人で頑張ってきたんだから、アヤカなら頑張れるよ、頑張ろ?」


なんとも惨めな言葉を私は言わせてしまったのだろう。

「うん……。」

私はそう答え、もやもやした気持ちを押し殺した。


塾に入って、しばらくすると私は極度の不眠症に悩まされた。

勉強のし過ぎなのか、それとも夏期講習の合間の時間で見てしまった楽しそうな友達のインスタが原因なのか、私にはどちらでもいいと思った。

ただ友達は遊んでいるだけなのに、私はただ勝手に勉強しているだけなのに。

私は無意識にそんな友達を見下し、自分を保っていた。

私は私に殺され、私に助けを求め、そんな私が大好きで大嫌いだ。


「お薬出しとくから、夜寝る前に飲んでね。」

私は薬の入った袋を手に持って自転車にまたがった。

空は青い、空気はムシっとしていて暑い。

けど、自転車に乗っていると風を感じてとても気持ちいい。


「あっ、道を間違えた。」

人の多い通りをあえて避けていたら、変な道に抜けてしまった。

スマホの充電も切れて、ほんとに迷った。

「ここどこ?亀山寺?お寺だ……。」

私は見つけたお寺に吸い込まれるように、自転車を置いて歩いていった。


「わあ……。」

私は都会とかけ離れたこの空間に息を飲んだ。

木々が揺れ、葉っぱがぶつかり合う音。

石で作られた地面。

私は目を瞑り、いっぱいに空気を吸い込んだ。


「お嬢ちゃん、ここ自転車停めないで。」

ここのお坊さんだ

「あっ!ごめんなさい!」

私は直ぐに自転車にまたがり、細い裏道に入った。


「あ〜、ほんとにここどこ?」

自転車を停めて、頭を抱えていると、

優しそうな眼鏡をかけた足取りの軽いおじいさんが話しかけてきた。

「どうしたの?道わかんなくなっちゃった?」

「あっ…、そうなんです。ごめんなさい。」

自転車で早く立ち去ろうとした時、

「ちょっと待って、道に迷ってるんだろ?中に入りな。うち、カフェやってるから。」

「あの、私お金そんなに持ってないんです。」

「お金なんかいいのいいの、いつものお客さん居なくなって寂しかったんだ。暑いでしょう。さあ、中へお入り。」

私は少し怖かったが、喉がカラカラでそれどころじゃなかったので、入った。

「ごめんね、無理やり中に入れちゃって。」

とカウンターでおじいちゃんはカチャカチャと作業し始めた。

「あっ、はい……。」

しばらくクーラーの聞いた涼しい店内で単語帳を見ていた。

「はい、どうぞ。たーんと食べな。」

おじいちゃんはカツサンドとメロンソーダを持ってきた。

「私こんなに頂いちゃっていいんですか?」

「いいのいいの、久しぶりに若い子と話せて嬉しいの。」

単語帳をおしりの下に挟んで、カツサンドにかぶりついた。

「おいしい!」

「そうか、お口にあってよかったよ。」

カツは歯切れが良くて、食べ応えのあるヒレカツだ。甘じょっぱいソースに千切りキャベツがたっぷり入っていて、私は直ぐに食べてしまった。

いろいろ、話してるうちにだんだんとおじいちゃんとの会話が弾んでいった。

「そういえば、お嬢ちゃん名前なんて言うの?」

「アヤカです。」

「いい名前だね。僕はジュンタって言うんだ。聞いてないか(笑)」

「でもジュンタさんって呼ぶの固いから、おじいちゃんでもいいですか?」

そう私が答えると、

「はっはっはっ(笑)ごめんね。私もそんな老けたのか

(笑)」

「いや、そうゆう事じゃないんです……。」

そうゆう事じゃないならどうゆう事なのか、分からないが、焦って言ってしまった。

「いいのいいの、僕もそっちの方が話しやすいから。」

おじいちゃんは優しそうだった。


「私は実は高校三年生で受験生なんです。でも、色々むしゃくしゃしちゃって、余計なことばっかり考えて、私は勉強してるのに友達の遊んでる写真とか見ると、本当にしたいことが分からなくなるんです。いっそのこと……。」

私は今の思ってることを吐き出した。

「うーん、僕はね小さい時、こう思ったことがあるんだ。本当にこの世界は僕とそれ以外で出来ているんじゃないかってね。」


そう言うと、おじいちゃんは私の前のソファに座り、喋りだした。

「僕はね、小さい頃父と母を戦争で無くしたんだ、それ以来おばさんの家で育ててもらってね、でも僕が15の時におばさんが病気で死んでからはひとりでなんとか生きてきたんだ。

僕はお金がなかったから大学に行けなかったし、働き場所もなかった。その時にね、ほんとに死のうと思ったんだ。でまあ、そっから色々あって、ここのマスターに今日の君みたいに拾ってもらったんだよ。いや、今日は僕が勝手に入れただけか(笑)」

おじいちゃんは話してる時ちょっと重たいと感じたのか私を笑わせてきた。色んな経験をしてきたんだなと、馬鹿な私なりにそう思った。

「でも、"僕とそれ以外"ってなんですか?」

興味本位で聞いてみた。

「思ったことない?こんなに辛いめに会って、周りは楽しそうにしてるのを見てると、これは神様が私に意地悪してきていて、僕の周りにある人や物、見えてる風景全ては僕の敵なんだって。」

そう言われてみると、私には思い当たることがいくつもある。

「確かに、分かるかもしれないです。」

「でしょ?僕も同じ歳の時にそんな事思ったんだよ。君は恵まれてるとか恵まれてないとかそうゆうんじゃない。ただ周りがそう見えているだけなのかもしれないよ。」

私は何も言えなくなった。

その時、

(♪♬〜間もなく6時になります。)

「もうそんな時間か。すっかり話し込んでしまったな。これ使いなさい。」

おじいちゃんは私にある紙をくれた。


(マヨエルショーネンショージョヘ)


「おじいちゃん、これな……。おじいちゃん…。」

おじいちゃんは突然消えてしまった。

紙は折られていて、続きがある。

(カメヤマヨリ ヒシズムサキ ベツノチアリ)

「カメヤマ…?あっ!お寺の名前だ!」

私は自転車に乗って、急いでお寺に向かった。

「はぁはぁ……、着いた。」

さっき行った時と変わらず、静まり返っていた。

今度はなんだか不気味な感じがする。

すると辺りは夕日で赤く染まり、西へ光が消えていく。



(ぷしゅー!!!!!)

「わっ!」

「失礼、私お迎えにあがりました、亀のキョンと言います。」

そこには大きくて、豪華に装飾されたバスがあって、それに見合わない汚らしい喋る亀がいた。

「わっ!喋った!」

「喋る亀もいていいでしょう?ささ、お乗りになってください。」

私はギュッと拳を握りバスに乗り込んだ。


















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私とそれ以外。 ぬおー @nuo-fumnoo

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