うまなちゃんと愛玩機械人形 第七話

 初めて食べたチョコレートはとても香ばし食て少しだけ苦いのに後味はほのかに甘く感じる不思議な感覚だった。

 変な成分は入っていないと思うんだけど、後味が甘いものを食べるのは初めてだったので驚いてしまっていたが、そんな私をうまなさんとイザーさんはニヤニヤしながら嬉しそうに見つめてきていた。その表情は少し不快に思ったのだけど、そんな事を忘れさせてしまうくらいの甘さが口の中に広がっていた。

「どうかな。先生はチョコレートを気に入ってくれたかな?」

「一つ食べただけじゃよくわからないかもしれないです。でも、こんなに甘いものを食べたのは初めてだと思います。今まで食べてた甘い野菜を濃縮してもこんなに甘くなるとは思えないし、どうやったらこんなに甘いものを作ることが出来るんですか?」

「それは秘密なんだけど、先生になら教えてあげても良いかも」

「そうだよね。私達だけの秘密にしておくのも悪いし、教えてあげても良いかもね」


 チョコレートに含まれている甘味成分を聞いた時は本当に耳を疑ってしまった。うまなさんもイザーさんも冗談で言っているのだろうと思っていたのだけど、栗宮院家の地下工房を見た時には嘘ではないという事を目の当たりにしてしまいどうしていいのかわからなくなってしまっていた。

 甘い蜜を出す家畜を飼っているという表現でぼかしてはいるのだが、その家畜というのは誰も見た事のない空想上の生き物であるはずのサキュバスなのだ。

 数百体から千体近くいると思われるサキュバスは天井からつるされている鎖で手を縛られつつ半透明な椅子に座らされて両足は椅子の脚に固定されている。乳房と股の間からは謎の管が伸びてどこかに繋がっているのだが、それが何なのかは聞かない方が良いような気がして見なかったことにした。

 二人はそんな私の態度を見て察してくれたようで、何か深く聞かれることは無かったしこちらからも聞くような事はしなかった。世の中には深く追求しない方が良いという事もあるのだとあらためて思い知らされたのだ。


 私にはそういう趣味は無いけどそういう事が好きな人がいるという事も理解は出来る。ただ、チョコレートが甘くて美味しいという事は理解出来たし、作り方さえ見なければまた食べたいなとは思っていたのも事実である。ただ、そんな思いになれないような光景を目の当たりにしてしまった私はここで食べるものは全て人に言えないような何かがあるのではないかと考えてしまっていた。

「ほら、だから言ったじゃない。先生に見せるのはまだ早いって。絶対にあの目はドン引きしてるって」

「そうかもしれないけど、先生に工場を見てもらえばもっと良いものを作れるかもしれないって言ったのはうまなちゃんなんだからね。いつもは選択を間違えないのに今回は失敗しちゃったね」

「でも、それは仕方ない事なんだよ。どのタイミングで見せたとしても先生は絶対にドン引きしてたと思うもん。やっぱりピンクの管じゃなくて黄色とか水色みたいに爽やかな色にしとけばよかったんだよ。そうすれば先生も気にせずにいられたんじゃないかな」

 私は別にピンクだったから引いていたわけじゃない。あの工場で行われていた行為自体に引いていただけだ。それを言えば面倒な事になる予感がしていたので黙っているのだけど、やっぱり私の事を先生と呼ぶのはやめてもらいたい。

「あの、私の事をなんで先生って呼んでるんですか。私はお二人に何か教えたりなんてしてないですよね?」

「そうなんですけど、先生って何かを教えてくれる人だけじゃないからね。先生の場合は私とうまなちゃんに楽しいことを色々と教えてくれていたんだよ。でも、先生はそんな事なんて何一つ覚えてはいないと思うけどね」

「覚えてないって言われても、お二人に会ったのって今日が初めてですよね?」

「まあ、先生は前世の事なんて覚えてないよね。私とイザーちゃんともう一人の男の子と四人でいろんな世界を創って楽しく過ごしてたんだけどね。その時に先生にはたくさん助けてもらったんだけど、覚えてるわけなんて無いよね」

「はい、前世の記憶とかないですよ。そもそも、前世なんてあるんですかね。昔どこかで前世の話を聞いたことがあるんですけど、科学的にも否定されてたと思いますよ。でも、ここの地下工場でやっていたことを見たら前世もあるんじゃないかなって思っちゃうかもしれないですね。だって、世界中どこを探してもサキュバスなんていなかったみたいですからね。科学者たちが血眼になって探し回っても見つからなかったみたいですし、サキュバスなんて存在しないって世界中の人達が言ってますからね。ここの事を公表したらとんでもないことになっちゃうと思うんですけど、誰かに言ったりしないんですか?」

「そんな事しないよね。だって、ここに居るサキュバスの事は誰にも教えないって条件で魔王アスモから借りてるだけだもんね。あんな風に使われてるとは思わないだろうけど、それもこれもうまなちゃんが魔王アスモの事を嫌ってるからって事だもんね。うまなちゃんが魔王アスモの事を嫌いになる理由はわかるけどさ、借りてるだけのサキュバスを使い物にならなくなるまで搾り取らなくても良いんじゃないかなとは思うよね」

「わかってるなら余計な事は言わなくていいから。魔王アスモの事なんて思い出したくないし」

 うまなさんはイザーさんに背中を向けてしまった。口調と態度からは怒っているようにも思えるのだけど、私にはうまなさんはどこか嬉しそうにしているように見えていたのだった。

 なぜそう思ったのかは自分でもわからないけれど、私にはうまなさんは嬉しそうにしていると感じてしまったのだった。

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くりきゅういんうまなとイザーと釧路太郎 釧路太郎 @Kushirotaro

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