うまなちゃんと愛玩機械人形 第六話

 いつも通り味のしない食事をとっていると、うまなさんがまた突拍子もないことを言い始めたのだ。

「先生は知らないかもしれないけど、チョコレートって食べ物がこの世にはあるんだよ」

「チョコレート?」

 どこかで聞いたことがあるような気もするのだけど、私はそんな名前の食べ物なんて聞いたことが無い。私の家の近くに似たような名前のおばさんが住んでいるのだけど、あのおばさんが新しい料理を開発したという話も聞いたことは無い。そもそも、私達の周りで料理が得意な人なんていない。

「私も本物は見た事が無いのでこんな感じなんだろうって想像して作ってみたんだけど、食べてみたいって思うかな?」

「いや、全然思わないです。私ってあまり食べるのとか好きじゃないし、得体のしれないものって怖くて口に入れたくないかも」

「普通はそうだよね。私もうまなちゃんの作ったモノって怖くて食べたくないって思うけどさ、うまなちゃんが作ったチョコレートって甘くて美味しいんだよ。先生も食べたらわかってくれると思うんだけど、やっぱり初めてものを口にするのって怖いよね。だから、私が全部食べることにするね。本当は一人でこんなにたくさん食べちゃダメだと思うんだけど、先生が食べたくないって言うんだったら無理矢理食べさせるわけにもいかないしね。私もその方が良いと思うし、うまなちゃんもそれでいいよね?」

「そうだね。先生がそこまで食べたくないって言うんだったら無理矢理食べてもらうわけにもいかないしね。だからと言ってイザーちゃんが全部食べる必要はないよね。私も半分は食べるから」

 うまなちゃん達は皿の上に並べられている茶色い塊を手に取ると二人とも私の目を見たままそれを口に放り込んでしまった。どんなものだったのかちゃんと見ていなかったので一口大の茶色いものだという事しか認識出来ていないけれど、一口大の茶色いもので連想されるのもは食べ物としてはふさわしくないかもしれない。

 だが、それを二人とも美味しそうに食べているのが不思議で仕方ない。それどころか、チョコレートを食べている二人はとても幸せそうな顔をしているのだ。変な成分でも入っているんじゃないかと思うんだけど、そんなものが入っていたとしてもそんなにすぐに効果なんて出るはずがない。そんなにすぐ反応が出るようなものを使っているのであれば、アレを作っている段階で影響が出ていそうなものだ。

 いや、影響が出ていたからこそ窓ガラスを割って入ってくるという常人には理解出来ないような登場したのかもしれない。それ以外に理由なんてあるのであれば聞いてみたいのだが、まともな理由であればその方がおかしい人だという事になってしまいそうだ。

「あと二つで無くなっちゃうし、このまま私とイザーちゃんで全部食べちゃおうか」

「そうだね。先生はあんまりチョコレートが好きじゃないみたいだし、私とうまなちゃんで食べちゃうのが良いかもね。こんなに美味しいものを二人で分け合えるのって幸せだよね」

「でも、この美味しさが先生にバレる前で良かったかも。材料を集めるのって意外と時間がかかるし、そんなに手軽に作れるものじゃないからね。次にこれだけ作れるのって何年後になるかわからないからな」

「そう言うことになるとコレも気軽に食べられないよね。ゆっくり味わって食べることにしないとね」

 二人とも私の事を見ながらそんな話をしているのだけど、そんな風に言われたら食べる気が無かった私もちょっとだけ興味がわいてしまう。本当に食べたいなんて思ってはいないんだけど、そこまで貴重な物だとしたら気にはなるだろう。

 そもそもの話だが、あれが食べ物だとしてどういう感触なんだろう。一見すると固そうに見えたのだけど、二人が口に入れた後はあまり咀嚼もしてないように見えていた。あまり噛んでいないという事は、口の中で柔らかくなる物質という事だと思われる。そんなもが氷以外で存在するのか疑問ではあるけど、味よりもその事が気になってしまっていた。

 味は気にならないのだけど、噛まなくても飲み込めるというのがどういうことなのか凄く凄い気になってしまっていた。

「あれ、先生もしかして、チョコレートを食べてみたくなったのかな?」

「食べたくなったんだったら我慢してないで食べたいって言ってくれたらいいよ。私達は先生にあげる分もほとんど食べちゃってるけど、まだ残ってるのはあるからね。次にチョコレートを作れるのがいつになるかわからないし、今のうちに食べてもらっておいた方が良いかもしれないしね」

「そうだよね。魔王さんから分けてもらうのももう無理そうだし、地道に集めるしかないもんね。うまなちゃんがたくさん作ってくれたらいいんだけど、そんなに簡単に出来るモノでもないからね。私に手伝えることがあれば何でもやるつもりだけどさ、私には経験ないから見てることしか出来ないからな」

「別に、私はチョコレートの味が気になってるってわけじゃないっです。ただ、口に入れてるのに咀嚼している感じがしなかったからどういう風になってるのかなって気になっただけで。ねえ、どんな感じなのか教えてくださいよ」

「うーん、それは食べてみてからのお楽しみかな。ね、うまなちゃんも先生に食べてもらった方が良いと思うよね」

「食べてもらうのが一番わかりやすいと思うよ。先生も気に入ると思うし、最後の二つ食べちゃっていいからさ」

 食べたい気持ちはあるのだけど、何となく得体のしれないものを食べることに抵抗があるのだ。あれだけ食べて幸せそうな顔をしていたのにこうして普通に会話が出来るというのは悪い成分は入っていない証拠だと思うけど、それでも変な成分が入っているような予感がしている。そして、こんな時に限って私の予感は当たってしまうのだ。

「食べてみたい気持ちはあるんだけど、やっぱり何が入っているのか気になります。変な物とか入ってないですよね?」

 私の問い掛けを聞いて二人とも少し動揺しているように見えたのだが、いたって冷静に答えてくれていた。

「変な成分とか入ってないよ。危ないのは取り除いてるから安全だし、普段食べてるものよりも栄養だって多いと思う。だから、先生も安心して食べてみて欲しいな」

 おそらくだが、体に悪いものなんて入ってはいないだろう。危ないものを取り除いているというのは少し引っかかりはするのだけど、あれだけ大量に二人が食べても平気だったみたいだし、私が二つくらい食べても問題なんて無いとは思う。


 あと、私の事を先生と呼ぶのはやめて欲しい。

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