第二話 つらつら椿
つらつら
川の上の、群れ咲く椿のように、美しい娘よ。
私はあまりに数多くの思いを抱え、死んでしまうほど、恋をしている。
※つらつらに……数多く並んで。
* * *
それから三日後。
「さあ、なぜ怖くないのか、教えてもらおう。」
夜。
ここには、
薄闇にジジジ、と
「怖いって、何を……?」
椿売が首をかしげる。
「とぼけるものだな。私は気になってしょうがないのに。」
意氣瀬は肩をすくめてみせる。
「ああ、
あたしはてっきり……。」
「もちろん、こういう事だ。」
意氣瀬は椿売にそっと近寄り、顎に手をかけ、顔を上向かせ、時間をかけ、顔を近づけた。
怖がらせないように、優しく口付けをした。
「……。」
顔を離すと、娘は恥じらって、
「さ
意氣瀬は
若い娘も、真っ赤な顔で笑った。
微笑みをかわす。
* * *
───
───言ってる事が違うじゃないか。不敬だな。
───ふふ、もっと大きな
でも、あれくらいの
あたしは……、
怖くない……。
───いろいろ、落ちてきたら、怖いじゃないか。
───……お、落ちてきたら、避けます。
───建物が倒れたら?
───逃げます。ん……。
───火事になったら?
───ああ……。火事は怖いです。
───怖いのか。
───ああ、あ……。
───火事は怖いのか?
───火事は怖い、です、ぅ……。
───ははは、正直な奴だな。気に入った。では、正直に答えろ。これはどうだ。
───あっ、あっ、あっ。え? 何?
───可愛いな。……
───あっ、あっ、
───椿売。
* * *
華やかな笑顔。
美しい肢体。
正直な言動。
生きる力にあふれ、目がきらきらと輝く
溺れるように、連日、
四月二十七日に
それは、昼も、夜も。
意氣瀬は、白い滑らかな絹の
「本当は、怖いんだ。」
「何がです?」
「
「………。」
「わからない、という顔をしているな、椿売。おまえには、そうかもな。私は、生まれつき、身体が弱い。
いつも咳をし、すぐ熱をだし、寝込む。
「そんな……。」
「あいにく、その医者の言う通りにはならなかった。
私は真面目に
だが、武芸の鍛錬はできないし、咳も、普通の人より、ずっとしやすい……。」
「意氣瀬さま……。」
「きっと、私は、人より長生きはできないだろう……。」
「意氣瀬さま!!」
椿売が抱きついてきた。
そんな椿売を愛おしい、と思いつつ、
「心配しなくても、私には、弟がいる。弟は、私よりずっと、丈夫だ。
「そんな心配をしてるんじゃありません! あたしは、あなたを恋うているんです。人より長生きはできないだろう、なんて言わないで!
ずっとそばにいて、あたしを愛してください!」
「だが、私の身体は……。」
「ばか!」
椿売が酷い
「何も怖がらなくて良いのよ。あたしの胸にいるうちは。」
椿売が、はだかの胸に意氣瀬の頭を抱き寄せた。
「おお、たしかにこれは、何も考えられなくなるな。」
「そうでしょう。今は、何も考えなくて良いのよ。」
ず、
と大地の底から、小さな地鳴りがする。
また、
椿売は意氣瀬を胸にじっと抱き寄せたまま、
「怖くありません。」
と断言した。
二人、抱き合い、揺れは過ぎ去り、意氣瀬は、己の心の深い深いところまで、椿売が住んでいる事を自覚した。
もう、この想いを黙っていることはできない。
「
そして……。
「椿売。私の
「えっ? 今、なんて?」
「
「え? だって、あなたには、
「ああ、
もっと言ってしまえば、さ
そして、
大事なのは、
それが、運命で結ばれた、
「おまえが、私の
椿売は、ぼんやりとした目をしていたが、ぼろぼろぼろっ、と涙をこぼし、
「本当なのね?」
「本当だ。……早く、
「
泣きながら、意氣瀬の心の全てを鷲掴みにした
「心より、恋うている。私の
意氣瀬は、愛しい娘を抱きしめながら、もう、どんな天変地異もいたずらに恐れたりしない、と思った。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16817330663542353252
* * *
ちょっとまとめ。
奈良時代、一夫多妻制。
・妻───郷の一般男性の経済力では、妻一人が普通。
・
金持ちの
・
親の承認も、結婚してる仲か、さ寝した仲かどうかさえも関係ない。
血のつながりのあるいもうとではない。
✤以上は、郷の
・
・
(
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