最終話 短い希望

「観測終了。理の終了に成功したようです。救助隊を向かわせますか?」

 財団職員が機械をいじくり、報告した。今まさに、理の命は絶たれ人類の勝利が確定した。

「ああ、そうだな。捜索隊を。母体があるならば子もいるかもしれん。それらの掃討のためにも部隊を派遣する。」

 ナルターは事前に準備していた部隊を突入させ、内部調査を行った。今回は討伐者の救助が最優先で、まずはそこに辿りつくことだった。数十分後、一人が帰ってき、報告に上がった。

「最上部、戦闘があった場所を見つけました。ですが、不可解です。空間が切り離され、それ以上は進めません。専門チームを派遣しますか?」

 その部下の報告通り、扉の先では何かがあるということが分かったが、それに干渉することはできず、抜き取られたように空洞ができていた。(因みに書庫も隠蔽されたかのように、白紙の冊子が集まる部屋になっていた。)

「いや、救助はできないな。直ぐに撤収するように命令しろ。やるべきことが沢山ある。」

 ナルターはオルテンがあのような魔法を使えると知っていたわけではないが、経験上、あまりにも不可解な現象だけが現場に残ることはよくあることなので、そう言ったのだ。遠方から来た他の財団に会釈をし、帰ることにした。

「アポカルを掃討する役目はまだ残っておる。わしは財団結成当初から居った。その究極の目的が財団だけで完遂できないとは、その頃は思わなかった。今日は歴史的瞬間だったな。」

 馬車に乗り込むと共に出発し、ランダはナルターに向かって話し始めた。財団のアポカルを掃討し、人々に安全を保障するという目的がついに完了し、しみじみとしていた。

「ええ、ですが彼らも財団の一部です。我々が情報の統括を担い、依頼を出しているので、一体感は無いですが。もう少し、一体となって困難を払うシステムにしてもよいですな。部隊として動かした方が楽ですし。」

 ナルターも管理者として大きな成功を果たし、誇らしかった。ダバスドたちを失ったのは悲しいことだが、そう悲しんでもいられないのだ。

「そうは言うものの、部隊の統率だけではどうにもならんものもあるというのが、まだ引き継いでいる理由だがな。討伐者はいつか神格化されるかもしれない。我々には干渉できないものまで成し遂げ、世界を救うのだから。」

 馬車は遠く、遠く、離れていった。牙城は間もなく半壊し、捜査は後日改められることとなった。街に帰った後は非常に忙しかった。また会議が行われ、長きに渡って進められた計画が完了したことと、人類の滅亡という話が無くなったことが報告された。人々は熱情を抱えたまま安堵を取り戻し、いつもの日々へと戻っていった。財団は討伐者全員に、そのような大事があったことを、黙秘に対しての謝罪と共に知らせ、財団の解散が近づいていることをスートファイスだけでなく、財団が管理する全ての街へ伝えた。

 そして、残ったアポカルを殲滅し、人間の害を限りなく減らしていった。何度も奪還した村や町は完全に取り戻され、他の組織の関与もあり、再び人の住める環境へと戻していった。ダバスドたちの戦った地も隈なく調べられることになり、古代の研究と未知の素材の研究も進んだ。肝心の彼らの手掛かりはどうしても見つからず、ついには捜索が打ち切りになってしまった。と言っても、彼らは財団の切り札中の切り札で、駒のように切り捨てられたわけではない。その地を祀り、恐らく死んでしまった彼らに、多くの黙祷が何度も何度も捧げられることとなり、財団の歴史にも深く刻まれることになった。幸い、と言うべきか彼らには身寄りがなく、彼らの偉業を悲しい形で家族や親せきなどに伝える必要はなかった。彼らと深く関わったものは悲しみ、嘆くことになるが、討伐者も多く、打ちひしがれて首を括る心配は少ないのが救いだった。

 というわけで、悲しくもダバスドたちの夢や将来は無に帰り、果たされることはなくなった。討伐者としても、彼ら自身としての物語もこれ以上はなく、閉じられることになるのだ。今まで培ったものは無駄ではなく、財団の大きな責任により報われることになるだろう。彼らが生き、伝説と共にその生涯を終えたということはずっと残っていくわけだ。

 財団は前述の偉業を何年も掛けて遂行していき、財団は世界に認められるようになり、平和を取り戻し、人々に安寧を届けた組織として注目の的となった。財団を強く推す者まで現れ、財団自体が憧れの対象にもなった。秘密裏にしていたものはそのままで、討伐者がアポカルに対してどのような攻防をしたかなどの話が伝説のように語られた。信じがたいその話は熱狂的なファンを生み、英雄会は国際的に行われるようにもなった。世界を救ったダバスドたちの名はひっきりなしに上がり、英雄の中では群を抜いて人気を集めた。その伝説と一緒に冒険に出たことのある者も誇らしくその様相を語り、インタビューも毎日のように行われた。

 財団の機密情報は多く、もう新たな討伐者を雇うことはなかったため、これらは財団にとってのウイニングロードの様な催しだった。その日々を送りながら、後始末を徹底的に行ったため、いつしかアポカルという存在は消え、人気も途絶えた。

 財団の解散が間近になった時、ナルターはとある報告書を受け取った。その研究は重大なもので、機密性の非常に高いものだった。

「おお、これは。非常に面白い。人類史は後200年もないのか。まあ、アポカルという存在から守る役目は終わった。それを完遂した私には動揺する必要のないことだ。それにしても彼らは、知ってて倒したのか?調べたところ、何も無かった部屋は真実の間だったとか。そんなものがこの世にあればだが。どちらにせよ、間違いではない。私だってそうする。ただし、これは知られてはいけないな。ロップ。これを最高機密事項に認定する。財団の解散後、絶対に世に知られないように保管しろ。」

 部下に命令を下し、その事実を闇に葬ることにした。財団にとっては、理が第二の選択肢をダバスドたちに提示したというのは知る由もないが、アポカルという地球にとっての善を根元から絶ったというのは紛れもない真実だった。どのみち絶滅の一途を救うことは出来ず、そうなるしかなく、他の道は偉大なる者たちによって絶たれたのだから。それを表に出しても絶望を与えるだけだ。そしてこれが、財団におけるナルターの最後の命令になった。

「どんな終わりを迎えるのだろうか。見てみたい。アポカルから寿命を延ばす手掛かりなどは見つからないだろうか…」

 ナルターは窓の外をじっと見つめた。そしてブラインドを閉じ、部屋を出て行った。

 数週間後、財団は大々的な告別式を行い、最後まで残った財団職員や討伐者に保証金を渡し、解散した。財団の施設はほとんどが取り壊され、財団が管理した分野を専門的に研究したい者と、その施設だけが残った。財団は形を変え、密かに何かを研究する組織になり、人々に注目されるようなことはもうなくなった。

 人類は繁栄し、その歴史は暫く続いていく。すぐそこに来る終わりは、組織以外の誰がいつ気づき、目を見開くのだろうか。それとも、終わる寸前まで気づかれないだろうか。どちらにせよ歯車はもう止まることはなく、英雄が正した希望を追いかけていくのだ。

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