Love Portion 〜魔女との契約〜

海 にはね

第1話 魔女との出会い

 この町のはずれ、山奥の廃墟には魔女が住んでいる。

 ただそこに行くだけでは、魔女には出会えない。廃墟の門を潜るとき、目を閉じ、胸に己の願いを唱えなければならない。そうすれば、目の前にあった廃墟は、たちまち美しい洋館へと変化するのだ。

 その魔女は美しく、永遠に若い娘の姿のままだという。

 魔女に願えば、願いは全て叶えてくれる。

 その願いと対等な代償と引き換えに……



 僕が彼女と出会ったのは、運命だったのかもしれない。



「ピーター!」

 中庭のベンチでうたた寝をしていたピーターは、その声で急に現実に引き戻された。見上げると、その声の主は親友のビリーだった。

「風邪ひくぜ?」

 ビリーはピーターの隣に座った。

「ああ、ごめん…」

「また徹夜したのか?」

「解きたい数式があって、気がついたら朝だった」

「相変わらずだな」

 最近の校内は騒がしい。来月に迫った、学年末のプロムの準備で、学校は連日お祭り騒ぎだ。

「プロムの相手、見つかったか?」

「いいやぁ…」

 ピーターはズルズルと背もたれに、もたれかかった。

「相手いないの、もうお前ぐらいなんじゃないか?」

「え、ビリーは相手見つけたの?」

「おう、天使みたいに可愛い子だ」

「はぁ…」

 仲間だと思ってたのに。

「どうせ、エマを誘えないからって諦めてるんだろ」

 ピーターは動揺し、ベンチから転げ落ちた。

 エマは栗色のカールした髪が可愛い、いわゆるこの学校のマドンナだ。ピーターは彼女に、密かに想いを寄せている。

 だがそんなマドンナを、ピーターのような数学オタクがプロムに誘える訳もなく、ついにプロムは来月に迫ってきていた。

「そんなお前に朗報だ」

「なに?」

「エマも相手、まだ決まってないらしい」

「嘘!?」

 ピーターは勢いよく起き上がった。

「案外、オーケーしてくれるかもしれないぞ?」

「そうかな…」

 ピーターはベンチに座り直した。

「自信がないんだろ?」

「そうだよ…」

「もういっそ、魔女のとこでも行けばいいのに」

 ビリーは適当に、そう言った。

「魔女って、あの山奥に住んでるっていう?」

「そうそう」

「……いいかもしれない」

「は!?」

「魔女に会って、僕に無い自信をもらうんだ!ありがとう、ビリー!」

 ピーターは荷物を持って、その場から駆け出した。

「おい、マジかよっ…」


 ピーターは無いに等しい体力を振り絞って、山道を歩いた。すると、頂上に近くなるにつれて、霧が濃くなっていった。そしてその霧の中を進むと、噂通りの廃墟が現れた。

 ピーターは門の前に立つと、足がすくんだ。

 すると、門は一人でに、軋む音を立てながら、ゆっくりと開いた。

『僕に自信をください』

 ピータは、目をぎゅっと閉じ、心の中で願いながら、門を潜った。


 目を開けると、目の前に立派な洋館が現れた。先程まで薄暗かった周りは、日が差し、庭には植物が生い茂っている。

 ピーターは玄関扉を開け、屋敷の中に入った。何故かはわからないが、勝手に足が進むべき方向を分かっているかのように、ある部屋へと向かった。

 恐る恐るドアを開けると、部屋の中に、女性が一人、立っていた。

 彼女は振り向き、怪しく微笑んだ。

「貴方の願いを、私にください」

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