蒼と白とに咲き分ける

 ルメラリアが去った後、シュネル達も帰路についていた。

 大変なことになっちゃったね、なんて交わしながら、時は進んでいく。


「星の災害、かぁ……」


 部屋に戻ったシュネルは、ルメラリアから聞いた言葉を口に出す。

 星の災害。それは全宇宙に及ぼす概念、災い。

 確かにルメラリアはそう言った。


 しかし、そうは言われてもシュネルにとって、皆にとってあまりにも急すぎるのだ。


 厄災。宇宙。概念。調停者。観測者

 言葉達がぐるぐるとシュネルの頭の中を駆け巡る。


「……もし、本当だとしたら、私達は……」


 とてつもなく責任重大なのでは、とゆっくりと理解をしていく。

 ずっしりと襲い掛かる責任というもの。

 それがやけにシュネルの胸をざわつかせた。

 その責任を背負うには、シュネルの手はあまりにも小さすぎたのだ。


「シュネルちゃん、まだ起きてる?」


 刹那、ユーリヤの声が扉の向こうから響いた。

 声に返事すると、ユーリヤは木の音をさせて扉を開けた。


「シュネルちゃん、大変なことになっちゃったね」

「……はい、事の大きさもそうなんですが、私、星の災害を止められるか不安で」


 笑っているがそれは苦い笑いの笑み。シュネルはそんな笑みをユーリヤに向けるのだ。

 無理もない。少女が向かう現実としてはあまりにも重過ぎるもの。


「大丈夫、私がついているよ。それに、星詠様達も」

「私達は伊達に世界を渡り歩いていないからね。星の災害だって大丈夫」

「だから、背負おうとしなくていいんだよ、シュネルちゃん」


 じんわりと、暖かい言葉。それは寝る前のホットミルクにも似ている、安心する暖かさ。

 ユーリヤは優しく微笑む。そう、このひとは優しいのだ。

 ユーリヤが、皆がついている。この言葉だけでも十分に、シュネルにとってはありがたかった。


 ひらり、ひらひら。

 蝶もシュネルを祝福しているようにシュネルのそばを舞う。

 蝶は舞うのだろう。ユーリヤに呼応していくように。


「はい……ユーリヤ様は、相変わらずお優しいのですね」

「皆様の足を引っ張らないように、シュネル頑張ります!」


 この時のユーリヤは、「優しいのは君の方だよ」と変わらずの笑みを浮かべていたそうな。

 照れ笑いをするシュネルに、ユーリヤの言葉。


「明日はまた、ルメラリアさんを探そうか。また何か情報があるかもだし、聞きたいしね」


 シュネルはそれには賛同の意をあげ、そして少しだけ元居た世界のことを思い出した。

 そういえば、一時期だが一緒にいた男性が、ユーリヤによく似ているな……と。

 その男性は今頃何をしているのだろうか?とも。


「シュネルちゃん、大丈夫?」

「は、大丈夫です! 聞いておりますとも!」


 上の空になっていたのだろうか、シュネル顔を覗き込むユーリヤの姿。

 それがシュネルをあわあわと落ち着かなくさせた。

 今度、“先生”の話もユーリヤにしてみようかな、なんて思ってた矢先だった。


 シュネルの様子に「あはは」と少しおかしそうに笑うユーリヤと、変わらずひらひらりと舞う蝶。


「うん、それなら大丈夫だね。私はお暇するよ、ゆっくりと休んでね」

「はい、おやすみなさい。ユーリヤ様」


 ユーリヤが出た後、机にふんわりと香る甘いものがあるとシュネルは気付いた。

 いつの間に淹れておいてくれたのだろうか。ホットココアがそこにはあった。

 ココアが好きなシュネルは顔が綻ばせた。


「先生もココア淹れてくれてたりしてたなぁ……今何しているんだろう、先生は」


 自分の居た世界から旅立ってしまった男に想いを、記憶を馳せる。

 “先生”との思い出も暖かいものばかりだった。

 魔術や、剣も教えてもらっていたし、旅の話も楽しく聞かせてもらっていた。


 もしまた会えるとしたら彼はどんな話を聞かせてくれるのだろう?


 そんなことに思考を馳せつつも、ココアを飲んだたらうと、うと、と眠りの船を漕ぎだしたシュネル。

 慌てて残りのココアを飲み、シュネルはベッドに入るとすぐには眠りに落ちるのであった。

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雪夜のロンド はからんすろっと @hakaran922

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