幸せ者
黒心
教室
「俺は幸せだ」
「私と付き合ってるから?」
首を振り、一人の人間に多数の美女にが集っている廊下側の教室をみる。
「美女に囲まれてるだろう?それを観れるのは幸せだ」
付き合ってるいると言った少女は同じ方向を見て、嫌になったのかまた向き直った。
「あいつはこの場に立っていなかった、ついでに俺も座っていない。ある意味お前と一緒に入れるのは奇跡だ」
「……何があったの」
少女はしばらく考えた末に、愛方の人生の成り行きを詳しく聞くことに決めた。男は慎重に言葉を選ぶように口を引いて、少女の方を見てひっそりと話し始めた。
「後から考えたら……全てが幸せ一色だった」
あいつと俺は同じ高校に行くことになった。お前には言ってなかったがあいつとは中学の時に、暗い部活帰りの道中でパンを買うところだった。コンビニには食べたいものはあと一個だけ残っていてあいつと取り合いになったんだ。
『すまない、妹がコレを欲しがってて、頼む!』
そんな嘘をついた、後からわかったよ。その時の俺はそんな戯言に騙されてあいつにさつま芋パンを譲った、でもな、ふと財布を見たら十円玉が二枚しか入ってなくてうまい棒一本しか買えないじゃないかと店の中で爆笑して店員に注意されたよ。
俺はすぐに店の自動ドアに向かって歩いてドアを出るところで止められた、そしたらあいつは普通のパンを見せびらかして言ったんだ。
『金無かったんだろ、奢りだ』
俺のカバンを見ながら笑って言ったんだ、正直言ってうざかった──
「早く続き!」
それが初めてあいつとあった日で、後に同じ中学だと気づいた。それも同じ教室だったのにな。そこから俺は聞いた、夢や現実のあいつの独特の無力感を聞いた、決して同じものはないと思わせるほど、笑えるほど馬鹿らしくて机を叩いたよ。そしたらあいつカッターの歯を出して俺の首筋向かって突き刺そうとしたんだ、周りは突然のことに目しか追いついてなくてな、俺はとっさにこの腕でカバーしてお返しに胸ぐら掴んで言ってやったんだ。
『お前だけが特別と思うな!』
あいつは悔しそうに俺の腕に刺さったカッターを押し込んで回して逃げたんだ、俺は唖然とするどころか悶絶した、利き腕に骨まで到達したカッターが刺さって叫んで気絶した……らしい。
目が覚めたら知らない天井で知らない匂いがしてな、起き上がったらあいつが家族に向かって土下座を何回もして謝ってるのが目に入った、喉が乾いていて喋れそうも無かったもんだが笑い声は思いっきり出て、その時のあいつの顔は傑作だ。
『すまなかった!』
ゴンと音がしてまであいつはドゲザした。家族はそんな奴をまぁ興味なさそうに見てるんよ、母さんなんて写真撮りやがったし。その後は誠心誠意謝ったことが功を制して家族からは無罪放免、他は知らない。でもあいつはそこから勉強に励み始めた。
その頃かな、お前が俺を見つけたのは。病院から退院してスポーツができないと落ち込んでいた時、まぁやさぐれてた時、お前は俺が屋上で飛び降りるかないかで迷ってる時に背中を突いたよな、そんでもって腕を掴んで引っ張ってなんて言ったっけ。
「死にたい?だったかなぁ」
そうそう、バカ女の奇行すら頭になくて、それどころか死にたくなかったと思ったもんだから手と膝をついて考えたよ、何かないかなって。
「今探してるところだね」
ああ。話が逸れたな。
あいつは勉強に励んだ、学校で十本指に入るほど秀才を発揮し良い高校なら行けるようになった。でも俺は滑落し、あいつの言った虚無感がそのまま帰ってきたように感じたもんで。でもな、そしたらあいつは一緒にコンビニ行こうなんて言い出して、わかるな?あいつは店でさつま芋パンを買って空腹の俺に食べさせた、なんとなく解っていたがそれでも美味かった。
『俺にできるのはこれだけだと思う』
保険をかけて確かそう言った。俺には十二分に頼りになった、当時の心境がどうであったかさっぱりなものだけど、お前と一緒にがんばったな。毎日お互いの家に行って違う教科を勉強したおかげでなんか成績上がったしお前を感じ始めたな。
「楽しかったねぇ」
お前を意識したのもその時期か。
あいつとお前のおかげでなんとか持ち直して三年になった。ヘラヘラ笑ってた連中もついに受験を頭の片隅から顔に堂々と出して私受験頑張りますだなんてな──
「文句は飛ばして」
はいはい。そんな中でもあいつは一切変わらなかった、少し落ちたぐらいで受験までそのままの体勢でゴールした。俺とお前はご存知の通り腹が減って倒れた。全てが終わって教室には平安が来て皆静かに作文やらを聞き入って涙する奴もいれば笑いを起こして三年間ありがとうとな、坊主頭は幸せそうだった。俺はその時に思った、目先の不安に駆られずに目下の喜劇を眺めるのはこれほど心躍るかってね。
集中していた二人の耳に学校のけたたましい程のチャイムが響き昔話を中断させる。男は少女を見て申し訳なく謝った、少女は机を両手で優しく叩いて自分の場所に戻る。
「続き、またね」
「はは」
やる気がなさそうな乾いた返事をした男を見て机を強く叩いた。
「わ、わ、わかったからら」
「よろしい」
わざと恐怖を顔に滲ませた。今度こそ少女は自分の席に戻り男を睨みつけ、睨みつけらるた男は急いで正面に向き直り深いため息と、また廊下の側をみてため息をついた。
「幸せだなぁ、楽しい毎日だなんて」
部屋はまだ喧騒に包まれていた。
幸せ者 黒心 @seishei
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