人魚の生態

「イレーナって海でどんな生活を送ってきたの?」


イリスが突然思いついたように聞いた。場所は俺の部屋で、イリスは薄着で寝ころびながらスマホをいじっていた。暇なのはわかるが自分の部屋でやってほしい。


ただ、質問内容は俺も気になるところだ。イレーナに俺とイリスの視線が刺さる。すると、


「う~ん、どうと呼ばれても難しいですねぇ。王位継承権を巡って他の兄弟たちと争っていたとか言いようがないですねぇ」

「他の兄弟って人魚のこと?」

「はい。例外はもちろんいますが、基本的に人魚です」


意外だ。イレーナはおしゃべりな方だったから、意図的に自分のことを話さないのだと思っていたけど、そういうわけではなさそうだ。


「争うって具体的にどんなことをするんだ?」

「う~ん、なんていえばいいんでしょうねぇ。敗北を認めさせた方が勝利です。そのためならなんでもしてよかったんだと思いますよ?」

「なぜ疑問形?」

「私もこの戦いを始めた父に初めて出会ったのは王位継承権を勝ち取っていきなり婚約を結ばされそうなった時ですからねぇ」

「ちっ、その時に結婚していればいいものを・・・」

「聞こえてますよぉ?」


イレーナとイリスがガン飛ばし合っている。確かモブおじとか言っていたから相当嫌だったんだろうなぁ。


「ちなみに負けたらどうなってたの?」

「奴隷になるか孕ませられるかどっちかですねぇ」

「え?」


凄いことを言われた気が・・・


「オスの人魚は死ぬまで海底の宮殿を守る守護者として、任せられるのですが、メスの人魚に人権はありません。王位継承権を得た人魚の所有物になるので、奴隷か無理やり子供を産まされます」

「マジか・・・」


本当にマジでイレーナが負けなくてよかった。そもそも出会うことがなかったじゃんと思うかもしれないけど、今、この場にいる俺にとっては大事なことだった。


「ふふふ、今のあっくんと色々やりたいですねぇ・・・嫉妬してるあっくんは凄いんですよぉ?」

「マウント取らないでくださいますぅ?いつか・・・グス・・・私だって・・・」

「ああ!泣かないでください!あっくん以上の・・・未満でいい男が見つかりますから!」

「言い直さないで頂戴・・・まぁ同感だけど・・・」


変なところで仲が良いなぁ。イレーナがイリスの頭を撫でながら煽ってるっていう図なんだけど・・・


そういえばイレーナがいなくなった宮殿はどうなってるんだろ。王様がいない状態で海底はどうなっているのだろうか?聞いてみるか。


「イレーナがいなくなった海底って今、どうなってるんだろうな?」

「ゼウスかハデスに攻め込まれてるんじゃないですかぁ?知りませんけど。トライデントがなければ、海を守り切るなんて不可能なんじゃないですかね?」

「それ大丈夫なの?」


結構大事件な気がする。ゼウスとハデスって天空と冥界の王じゃん。そして、俺は玄関に網に改良したトライデントを見る。


「海のことはどうでもいいんです!」

「うお!」


イレーナがちゃぶ台をどんといきなり強く叩いたのでビクッとしてしまった。


「あっくん!私たちにはお金が必要なんです!それなのに一千万ほどしか稼げていないじゃないですか!」

「一千万って結構凄い額だと思うよ?」

「いえ!全然ダメです」


二か月いかないくらいで一千万稼いで、ダメって言われたら世の男性はほとんど泣いちゃうよ?


「もぉ!最低でも八十億必要なんですよ!そこのところ分かっているんですかぁ?」

「はい・・・」

「ねぇ何の話?」

「私たちの将来設計ですよ。子供を千人作って最低でも子供を国公立大まで行かせようとすると、一人八百万×千で八十億必要になるんです」

「へぇ・・・」


すると、イリスが一瞬思案顔になる。そして、


「私、株とかで稼いでいるから一億は持ってるわよ?」

「え?マジ?」

「ええ。あーくんとのラブラブ堕落生活を送るために、生涯年収を稼いでおこうと思ってたのに・・・」

「あ、いや、ごめんなさい」


俺はイリスに謝ってしまう。イレーナが訝しげにイリスに突っかかる。


「それでなんですかぁ?お金の自慢ならいりませんよ?」

「違うわよ。これは提案よ」

「提案?」


すると、イリスは土下座した。美しすぎる所作に俺は止めることができなかった。


「九百九十九人の子供はイレーナのでいいから、私に一人はあーくんとの子供を作らせてください!」

「何を言ってるんだお前は・・・」

「もう無理なの!私のあーくんが毎日毎晩寝取られて脳をしゃかしゃかされるの!この気持ちわかる!?」

「分かりたくない」


ただ一瞬想像して脳が破裂しそうになるのは分かった。


「ねぇイレーナ!私に一人だけ作らさせて!」

「もう一回実家に帰ったら?」


イリスがどんどん馬鹿になる。精神衛生上良くない。一回俺から離れればいい男なんてどこにでもいる。


「一億・・・」

「イレーナさん?」


一瞬思案顔になっているイレーナを見て不安になった。しかし、「やっぱり駄目です!」といってイリスを部屋から追い出した。


「お金は魅力的ですが、それはそれです。それよりあっくん」

「はい・・・」


こうなることは分かっていました。俺は夜通し搾り取られることになった。

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ダンジョン管理会社をクビになったら昔助けた人魚姫が嫁に来た~海のない埼玉でサザエを獲っていたら誤配信が滅茶苦茶バズった件 addict @addict110217

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