幼馴染とガサガサ
「いいですか?く・れ・ぐ・れ・も!あっくんに手を出さないように!」
「はいはい分かったわよ。さっさといってらっしゃい」
「くっ、あっくんもですよ!」
「分かってるよ。俺がイレーナ一筋なのは分かってるだろ?」
「そうなのですが・・・そこで気持ち悪く呻いている幼馴染さんがどうしても心配で・・・」
『うぅ・・なんで気持ちいいのぉ・・・はぁはぁ』とうめいている幼馴染を俺は無視することにした。
事件から数日経った日、いつも通り、ガサガサをした後に近所周りをしている時に、哲夫さんから
「イレーナちゃんの戸籍を作らなきゃいかんな・・・」
と言われて、俺は完全に失念していたことを思い出した。ただ、思い出したからといって、住所海底だったから、如何せんどう作ればいいか分からない。となれば、もうでっちあげるしかない。そのあたりをうまくやってくれるらしいのだが、イレーナ自身が役所に行かないといけないらしい。
ただ、昼間に配信をやる(朝は察してください)と言った手前、中断するわけにはいかない。だから、今日は俺がソロでガサガサしようと思ったのだが、耳聡く聞いていたイリスが俺の家に来て、冒頭に繋がる。
「絶対に、ぜええええたいに手を出さないでくださいね!」
「もう、早くいきなさいよ」
「はいはい、イレーナちゃん。行くわよ~」
イレーナは石川のおばあちゃんに連れていかれた。ばたんと扉が閉まり、俺とイリスだけになる。
「さて、邪魔者もいなくなったし
さっきまでイレーナに言っていたことはなんだったんだ・・・
「馬鹿言ってないで、ガサガサに行くぞぉ」
「あっ、ちょっと!」
俺はイリスの戯言を放っておいて、いつもの川に行った。
●
「こんにちは~今日も元気にガサガサしていきましょう」
”こんにちは~”
”昼休みにみてま~す”
”アレ?イレーナさんは?”
”イリスちゃんが映ってる。まさか浮気配信か!?”
”つ、ついにイリスちゃんの念願が!」
”この浮気者ぉぉ!あっくん×山本を楽しみにしてたのにぃ!”
”私が今、あっくん×≪光の剣≫を書いているから待たれよ”
”どっちがネコだああああああああ!”
ヤバい物が生まれそうな気がするが、そこは無視。
「イレーナは突然別件の用事が入っちゃっただけですよ。今日は幼馴染で仲良く配信していきます。変な意味じゃないですよ?そういう気持ちはゼロですから」
「ふぎゅぅ・・・!」
”ああ・・・イリスちゃん・・・”
”やりすぎあっくん”
”かわいそう・・・”
罪悪感はあるがこうでも言っておかないと誤解が生まれるからな。しっかり否定はしておく。
「さて、始めましょうか」
俺はいつも通りガサガサのポイントを探す。毎回同じポイントだと同じようなものしか取れない気がするし、視聴者も飽きてしまうだろう。ただ、
「あーくん、離れないで頂戴」
イリスの距離が近すぎる。というかアレが当たってる。もう俺の腕が沈みこんでいる。天国の感触だ。
”クソぉ!代わってくれえええ”
”きちんと感触をレポートにしろよぉぉ”
”イレーナさんに報告しておきます”
”浮気動画が切り抜かれますねぇ。証拠はバッチリです”
ヤバイ。こんなくだらないことで浮気扱いされたら、イレーナに搾り取られる!
「イリス、ちょっとくっつきすぎ。離れてくだパイ」
やっちまったぁぁ!
”くだパイ(笑)”
”あっくん、煩悩まで双子山じゃん”
”あっくんの性癖が開示ぃぃまっ知ってたけど”
”イリスVSイレーナのしょっぱなでやられてたもんね”
イリスがニヤァっと笑う。そして、
「もう・・・そんなに好きなら言ってくれればよかったのに」
そういってもっと密着してくる。
あああああもう幸せえええええええ
それに比例してコメントでは嫉妬と羨望が渦巻いた。俺はそれを見て理性を取り戻した。
「ああ!もう!ガサガサするぞ!」
「あん、もぉ~」
俺は思い切り腕を振りぬいて幸せな枷から脱した。妙な虚しさがあったが、俺は振り払ってガサガサを始めることにした。
しかし、俺はすぐに異常を発見した。というかでっかい何かが漂流していた。
「大きい船ですねぇ」
川島に漂流した巨大な船。船首に女神の像とドクロの旗がはためいていた。
”驚かないって決めたけど無理や。なぜ埼玉に海賊船があるねん!?”
”おかしいだろ!?ってか近隣住民の人たちはどうして気が付かない!?”
”マジでどこだそこ!?”
”ニートだからずっと探してるんだけど全然見つかる気がしない・・・”
そりゃそうだ。だって川島だもの。そんじょそこらのニートが見つけられるわけがない。それだけ外界に閉ざされた町なんだから。
「ねぇあーくん?この中に入るの・・・?」
「そうだけど?あ、そっかイリスは怖いものが苦手だもんな」
「い、言わないで頂戴。その、恥ずかしいわ・・・」
”照れてるイリスちゃん可愛い”
”本当、あっくん、罪作りな男だな”
”イリスちゃん、怖いところに行けば吊り橋効果が見込めますぞ”
”しかも船の中なら暗くてなんでもし放題ですぜぇ”
俺も見てるんだけどね・・・
イリスの怖がりは筋金入りだ。だから、俺が一人で入ることに「一緒に行くわ」え?
「別にあーくんと変なことをするつもりじゃないわよ?ただ、苦手を克服しないのも良くないことね」
「そうだねー」
うちのイリスさんがイレーナに会ってからどんどんおバカさんになっていく。どこぞの漫画じゃないが恋をしたら天才は馬鹿になるらしい。俺の憧れたイリスはもういないようだ。
「まぁいいや。怖かったら言えよ?」
「ええ、分かったわ」
船の中は凄く暗い。ほとんど何も見えないし、川の音でぎしぎしと板が壊れる音がしている。俺でも結構怖い。
「大丈夫か?」
「余裕よ」
本当か?と疑ってしまうほど凛とした顔をしていた。確かにこの表情は俺が知っているイリスそのものだった。だから俺は大丈夫かと判断した。
「行くぞ」
「ええ」
俺たちは海賊船の中に入った。
五分後、
「きゃああああもういやあああああ!」
案の定というかイリスは悲鳴をあげていた。ただ、
「ミグルミ、オイテケ」
「カイシンノノロイ、トイテ」
海賊船は海賊船でも幽霊船だった。俺は骸骨のみで動く幽霊が本当にいるのかと感動していた。
”凄い怖いはずなんだけどイリスちゃんの流石のフラグ回収で笑ってしまう”
”一級フラグ建築士の名は伊達じゃないな”
”クール系幼馴染はどこへやら”
イリスは涙を流しながら俺に密着していた。しかも、全身。そのせいで武器を持ってじりじりと近寄ってくる海賊の幽霊たちに無防備を晒していた。
「イリス離して!」
「あーくんと
「放送禁止用語をむがむが!!」
イリスの大きいアレが俺の顔面を埋めた。エロ過ぎる感触に俺は幸死させられそうになる。というか徐々に俺たちの元に幽霊たちが近づいてくる。俺たちの命が危ないからドケと無理やり引き剥そうとした瞬間。
「オトコオイテケ」
「ワタシノモノ二スル」
「は?」
「ひいいい!?」
海賊って女だったのかと思う前にイリスがさっきまでのビビる状態からガチキレモードに変わった。温度さがありすぎて、俺は悲鳴をあげてしまった。
「人の男を誰のモノにするって?」
イリスのモノじゃありません。そして、イリスが≪霧時雨≫に手をかけ、居合のポーズを取る。そして、
「≪輪炎斬≫!」
イリスを中心に円を描くように炎がすべてを一蹴する。俺は床に仰向けになって倒れていた。直前までイリスに抱き着かれていたので、上に逃げるという選択肢がなかった。しかし
”あっくんこの野郎!イリスちゃんのパンツを覗きやがって!”
”色は何色だぁ!共有しろぉ!”
”羨ましいいいいいいいいい!”
”イレーナさんに言っておきました”
”この後あっくんがどうなるのか気になるな”
不可抗力だ!
俺は心の中で言い分を叫んだ。
「ふぅ・・・全く。私のあーくんを盗ろうなんて千年早いわ。って、あーくん、何して、はは~ん?」
下に避けた俺に気が付いてイリスが何かを勘違いした。
「ち、ちがう!イリスのパンツを覗こうと思ったんじゃない!事故だ!」
「ふふ、いいのよ。私に興味を持ってくれただけで嬉しいわ。んぅ、しょっと」
「ええ~と?イリスさん?なぜ私の上に?」
「決まってるでしょ?
当たり前のように言うな!という感想の前に俺は当然逃げようとするが、逃げられない。俺の四肢には氷が張られていた。トライデントの力を使うが全く剥がれる気がしない。
ヤバイ!
「ふふ、これでようやくあーくんが私のモノになるわね。長かったわ」
「イ、イリス!考え直すんだ!ここは冷静になって!」
「あーくんは天井のシミを数えているだけでいいわよ」
「くっ」
万事休す。これは終わった・・・
「それじゃあいただき「何をしてるんですかぁ?」え?」
イリスの後ろにはニッコニッコしているイレーナがいた。
”正妻様の到着だああ!”
”昼から十八禁展開は不味いって”
”イレーナさん!あっくんを守って”
”ちくしょう!イリスちゃんが報われなかった!”
”あっくんの
”通報しました”
「みなさんすいませんねぇ。動画はここで終了ですぅ。また明日の朝に配信するので、楽しみにしててくださいねぇ。これからオハナシがありますので・・・」
最後の方のイレーナの声が地の底から響くような声だった。そして、配信が終わると、
「さて、イリスさん。これは一体どういう状況ですかぁ?」
「あっくんとの
「平然と続きをしようとするな!」
俺の服を脱がそうとかかるが、イレーナの水がイリスを拘束しにかかる。しかし、
「甘いわね。凍らせてしまえばなんの問題もないわ」
「なっ!?」
「・・・やりますね」
イレーナの水が無効化された!?
「それじゃあ今度はそっちが指をくわえてみて「あっくん、トライデントを借りますねぇ」
「「え?」」
イレーナがトライデントを使う?トライデントは水辺で所持しているものの力を何倍にもする。じゃあ、ただでさえ水辺最強のイレーナがトライデントを使ったら?
「≪水牢≫」
「なっ!?水の牢獄ですって!?」
イリスのみを水の中に囲って、俺から引きはがした。顔の周りだけは息ができるようにしてあるっぽい。
「さてさて、今回も指をくわえて見ているがいいですぅ」
「あの?イレーナさん?なんで俺の上に?」
俺の疑問にイレーナは深い笑顔でスマホを見せてきた。それは俺がイリスの胸で窒息させられそうになったり、恋人のように腕を掴まれているシーンだった。
「異論はありますか?」
「・・・ないです」
俺は諦めた。
「待って!?またなの!?あーくん、ダメよ!ダメ!あっ、やめ、やめてえええええええ!」
いつかのようにイレーナの嬌声とイリスの悲鳴が海賊船内で響きわたったとさ。
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