こりごり探偵

 どうやら集まった皆も、俺が事件の真相に気づいたとわかったようだ。

「平井くん、犯人わかったのかい?」

大家さんが嬉しそうに俺に尋ねる。

「ええ、一人だけおかしな人が居たんです」

「で、誰なの? 私のとこに来てお金を盗んだのは?」

月村さんがイライラした様子で声を荒らげた。

「簡単な話ですよ。窓から空き巣が逃げた、でもここは三階です普通に逃げようと飛び降りれば、まず手を怪我する」

皆の視線が海老名さんの手に集まる。海老名さんが不安そうに俺を見つめた。

「しかし、手を怪我して包帯なんて巻けば、自分が犯人だと言っているようなものです」

俺の言葉に、海老名さんは安心したように笑みを浮かべた。

「では窓から怪我をせずに出ていくにはどうすれば良いか? 滑り台を使えば良いんですよね、大神さん?」

俺は大神さんの肩をポンと叩いた。

「な、それではまるで私が犯人だと言っているようじゃないか!」

「確かに、乾くんってこともあるんじゃないかい?」

大家さんが乾さんを指差す。

「いえ、大神さん。あなたは今日絵を描いていました。赤に緑、黒……。素晴らしい色使いです」

「そ、そりゃ嬉しいね……」

「でも、あなたの手についた青色! あなたのリンゴの絵に青色なんて使われていませんでしたよね!」

「……あ、青は前の絵に使ったんだよ」

「いえ、私が触ったときには青色はまだ乾いていませんでした。つまりすぐに目につく場所に青色が使われた絵があるはずです。しかしあなたの部屋には無かった」

大神さんは汗をかいていた。

「つまりあなたの手についた青色は、絵画の絵の具などではなく、窓から跳び移った滑り台のペンキです!」

俺の言葉に大神さんは笑った。

「ああ、そうさ。俺が犯人だよ。……じゃあ警察へ行こうぜ、月村ぁ?」

「……」

大神さんにそう言われた月村さんは下を向いて、何も言わない。

「どうしたんですか、月村さん?」

俺も不審に思って月村さんに尋ねる。

「……全部バレてたのね」

 それから事件は俺の予想外の展開を迎えた。月村さんは薬の売人をしていたらしく、大神さんの友人にも売ったらしい。そのことを知った大神さんは月村さんに復讐するため、証拠を掴む機会を伺っていたものの、中々そのような機会は訪れなかった。しびれを切らした大神さんは月村さんの部屋で泥棒騒ぎを起こすことで警察を呼び、自分もろとも月村さんを捕まえたかったのだ。

 俺には、友人のために自分が犯罪者になってしまっては元も子もないと思うんだがなぁ。まぁ、何はともあれ事件は解決したわけだ。もうしばらくは事件なんて起きないでほしいと願いつつ、ひとまず俺は明日、滑り台で服を汚した子にお礼を言うことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ご近所さんの事件簿 雪野スオミ @Northern_suomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ