第21話 次世代

 港の戦艦に戻り、日本への帰途についた自衛隊員達は、バイオテックラボラトリーまで行った隊員から話を聞いていた。


「副隊長!なぜ栗林隊長を一人で向かわせたんですか?複数で行けば隊長も帰れたかもしれなかったじゃないですか?」

「そうです。こんな事なら町で寝てるんじゃなかった」


 現地では副隊長命令で仕方なく従ったが、同行した者も誰ひとりとして納得していなかった。


「納得していないのは、私も一緒だ。だが、隊長が生き残ってもアノ身体じゃあマトモな生活は送れない。何より・・・」

「何なんですか副隊長?」

「不自然な生体改造をされた栗林隊長の体は、もう半年ももたなかったらしいのだ。だから敵の本拠地で余計な犠牲を出すよりはと、俺達の参戦を認めてくださらなかったんだよ」


 研究所がbeeingの本拠地ならば、今まで以上の人的損害が出ていただろう。

 向かうのが栗林一人ならば、外の隊員の動向を気にして大事にはならない。表向きは健全な研究所を装おうと考えられる。

 それに隊員達が参戦後に退避する時間を待っていたら、敵にも逃げられてしまうかも知れない。

 敵の本拠地と判明した時点で、生き残るべき者が可能な限り早急に退避してミサイル攻撃をするべきだったのだ。


「それに、隊長には奥の手も有ると言っていたしな」


 バイクに人工知能を付けて、支援は勿論、栗林が途中で負けても、バイクが独自にミサイル攻撃の合図をする事になっている。

 長距離通信は妨害される可能性があった。


「隊長からの最終命令は【後の事は頼む】だ。トップが倒されたと言っても、戦闘サイボーグや工作サイボーグが残っているだろう。我々の仕事は、まだまだ残っている。隊長が安心して眠れる様に更に奮起しなければならない」

「隊長が居ないから失敗しましたって事になったら、化けて出てくるかも知れませんしね」

「それでも俺は嬉しいですけどね」


 戦艦の中では、隊員達の気合いが高まっていた。





 場所は海上の戦艦からアメリカ大陸に移る。


 経済の中心、ウォール街。

 そのビルの一つに彼女は居た。

 豪勢な椅子に座る彼女は、足を組み替えて、手にした情報バッドを睨んでいる。


「そう・・・先代が亡くなったのね?」

「はい。洗脳し損じたサイボーグが軍と共謀してバイオテックラボラトリーを爆撃した様です」


 いつの間にか彼女の足下に、片膝をつく女性の姿があった。

 彼女の使徒だ。


「で、そのサイボーグは?」

「調査の結果、その際に死亡した様ですが、死体は発見できておりません」

「爆撃でバラバラになったか、死体を日本軍が回収したか、はたまた・・・」


 椅子に座る女性は、頬杖をついて目を閉じた。

 そんな彼女に使徒の女は口を開く。


「報告によりますと日本軍は、世界中に【洗脳者発見器】なるものを配布している様ですが、現在のところ対策が見当たりません。いかが致しましょうか?」


 椅子に座る女性の口角が、少し上がった。


「案ずる事はない。その装置は先代の使徒にしか反応しないそうだ。私の使徒には反応しなかったと報告が来ている」


 そう。この椅子に座る女性は、クリスティーナ・リーに寄生した女王蜂の子供の女王蜂を植え付けられた【次世代の女王蜂】だったのだ。


 巣や縄張りを持つ者は、新世代が親の縄張りを離れる事が殆どだ。

 しかし蜂は女王蜂が歳をとると、新しい女王蜂を残して、多くの働き蜂と共に古巣をあとにする事がある。

 その際、働き蜂は女王蜂が親子であっても、巣別かれした者の巣に間違って帰る事は皆無だ。

 発する【匂い】が微妙に違う為だと考えられている。


 【発見器】は、かなり高性能らしい。


 リー所長に子供は居ない。

 元の人間の人格や家柄、地位と知能に加え、思想まで選別されて選ばれた血縁の無い人間を使って作られた、【次世代の女王】。

 古巣に残した次世代の【女王蜂】をリー所長にが回収していたのだろう。


「我々は、先代の遺産を【企業買収】と言う形で引継ぎ、違う方法で自然と人間の未来を守らねばならない」

「御意!既にバックアップサーバーも手中に修め、先代よりのメッセージも解析中でございます」


 女王蜂が死んでも、その働き蜂が同時に死ぬ訳ではない。

 人間としての知性が、命つきるまで残された命令を遂行しようとする。

 そりしてbeeingは非常時に備えて、技術面の全ても次世代に残してあったのだ。


「まず一点。先代が残した遺伝子組み換え技術と、ウイルス研究技術を使い、性交渉で感染する致死ウイルスを開発し、人口増加率の高い文化圏を中心に散布する事」

「御意!」


 宗教や社会構造によっては、子沢山が良いとされる文化圏も存在する。

 これを放置していては、世界の人口問題の解決は遠いものとなってしまう。

 【おたふく風邪】の様に飛沫感染や接触感染し、成人男性が抵抗力を持たないと【睾丸炎】を起こして生殖能力を失う病もある。


「次に、治療薬と称して発売する各種のRNAワクチンに、逆転写酵素を忍ばせ、病死や死産の率を上げる」

「御意!」


 【逆転写酵素】とは、一部のウイルスが持つ酵素で、ウイルスのRNAをDNAに変換し、宿主のDNAに組み込む酵素の事だ。

 DNAを改竄された細胞は死滅するか異常な変異を起こす場合がほとんどだ。


 薬と思って使用した物が実は遅延性の毒だと言うのは、ヒ素をはじめ多々ある話だ。


 だが、これが生殖細胞に起これば生物の進化を促す事もあると言う研究結果もでている。

 事実、人間の遺伝子の半分近くは、この【感染】の残骸である事が判明しているのだ。


「さて、我々のアクションがどう働くか楽しみだが、他のプランも期待していますよ。全ては地球と人類の未来の為に」


 【正義は人の数だけある】とも言う。

 現在の人類の正義が、人間の歴史における正義とは限らない。

 彼女の正義が【間違っている】と言い切る事はできるのだろうか?


 部下達からの報告が終わると、新たな女王は椅子から立ち上り、室内のガラスにおおわれた区画へと向かう。

 その区画には空気清浄器や加湿器が複数用意され、エアコンが接続されていた。

 床は土と植物に被われ、花も咲いている。

 何種類かの小型昆虫も飛んでいる様だ。


 女王は、その中にある樹に付着している蜂の巣に目をやった。


「各地で自然育成している巣も、無事に成長している御様子です」

「私の娘達も、順調に育っている様ですね」


 使徒の報告に、女王の顔に笑みが浮かんだ。



 栗林隼人は頑張った。

 だが、【ヒーロー独り】で世界を救えるほど現実は甘くなく、また【正義】も複数ある様だ。


 人口に対しての食糧生産量。

 住宅や農地開墾による自然環境の破壊と砂漠化問題。

 増えた人口から生じる権力争いと戦争、兵器による土壌汚染。

 生活を豊かにする工場が引き起こす環境汚染。


 何が正しいのかは、後世においても立場によって見解が異なるものだろう。


 こい願わくは、この世界の未来が長く続くことを!







――――――――――――――――


 最後まで御覧いただき、ありがとうございました。


 仮面ライダーでも、ショッカーを滅ぼしてもゲルショッカーやデストロンへと組織が変貌していくだけで首領はなかなか倒せていませんでした。


 終わり方に不満を持つ方もいらっしゃるでしょうが、例え英雄でも敵対者がいなくなった世界では、人間に戻れない改造人間達が社会から差別されるのは明白なので、リー所長を倒す栗林には現実的に【死】の選択をさせました。

 自分の死後や非常時に対する備えは栗林達だけでなく、頭数の多いbeeingの方が一枚上手うわてだったのは有って当然の事でしょう。

 強化処置を受けていないリー所長が交通事故に会って死ぬ可能性も有るのですから。


 石ノ森プロで、この作品が認められたら【仮面ライダー クリケット】とするのもアリでしょうが、当面は【改造人間クリケット】止りです(笑)


参考にした仮面ライダーに登場の昆虫型改造人間

01*蜘蛛クモ

蜘蛛男

02*蟷螂カマキリ

かまきり男

03*蜂

蜂女

04*毒蛾

ドクガンダー

05*蜻蛉かげろう

地獄サンダー

06*百足ムカデ

ムカデラス

07*蟻アリ

アリキメデス

08*蝿ハエ

ハエ男

09*蜚?ゴキブリ

ゴキブリ男

10*地蜘蛛

ドクモンド

11*蝉

セミミンガ

12*兜虫 

カブトロング

13*髪切虫

カミキリキッド

14*蟋蟀コオロギ

ギラーコオロギ

15*蛍

エレキボタル

16*虻アブ

アブゴメス

16*蚊

モスキラス

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改造人間クリケット 二合 富由美 @WhoYouMe

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