幕間

ヴェルヘルミーナ様のために

 お嬢様がご結婚された。

 無事にと言う訳にはいかなかったものの、お相手はヴィンセント・ロックハート様となれば、上々の嫁ぎ先と言えるでしょう。

 これで私も安心して、縁談を受け入れる──なんてことは、間違ってもありません。


 お嬢様は、今朝も「ダリアに良い人が出来るといいのに」と仰られていましたが、私にその気は欠片もございません。


 なぜなら、まだまだお嬢様の幸せの障害になりえる者がいるよう、思えてならないからです。

 ケリーアデルを追いやれば、セドリック様が安心して戻れるお屋敷になると思っていたのが、浅慮であったと言わざるを得ないでしょう。

 

 そもそも、本当に財産目当てで近づいたのであれば、旦那様がお亡くなりになった後、混乱の中であれば、容易く財産を手に入れて雲隠れすることもことでしょう。

 過去、貴族を陥れた魔女の手口は、そのようなものだったと記憶しております。


 ところがあの女は、ミルドレッド様とヴェルヘルミーナ様にレドモンドの領地経営をさせつつ、家が潰れない程度に財産をすり減らしていたのです。

 どなたかが、子ども達に領地経営をさせながら贅沢な暮らしをすれば良いと、善からぬ知恵を与えていたのかもしれません。


 思い返せば、あのように低俗な女が、本気でレドモンド家を食い物に出来るはずもないのです。

 

 しかし、捕まったケリーアデルはあっさり自害。

 おかげで、あの女が誰の紹介で亡き旦那様に近づいたのか、真相は分からないままとなってしまいました。おそらく、彼女の裏にいる誰かは、高笑いが止まらないことでしょう。

 本当に腹立たしい限りです。


 分からないといえば、あの女が何故、ペンロド公爵夫人に気に入られたいたのかも謎のままです。

 それに、結婚式のあの日、あの女は何を言おうとしていたのか。


『信じてください。私は、ずっと、ずっとに──』


 私の記憶違いでなければ、あの女は何を言いたかったのでしょうか。


 続きの言葉を『働いておりました』と考えるのは、少々、ちまたのミステリー小説を読みすぎたかもしれませんね。

 ですが、必死に無罪を主張するあの女が弁明をしていた相手はペンロド公爵夫妻でした。この点は、いささか気になるのです。


 もしや、あの女を操っていたのは──

 

「ダリア。ねぇ、ダリア?」

「……は、はい。何でございましょう、ヴェルヘルミーナ様」

 

 お嬢様の声に気付いた瞬間、私の手元で鋏がパチンッと鳴った。

 ぽてっと薔薇の花が足元に落ちた。


「申し訳ありません。大切なバラの花を」

「大丈夫よ。小さな花瓶に飾れば良いもの。それより、ぼーっとしてたけど、どうしたの?」


 そっと腰をかがめてバラの花を手に取られたヴェルヘルミーナ様は、少し心配そうに私に視線を向けられた。

 あぁ、大切な主に心配をかけてしまうなんて、侍女としてあってはならないこと。


「少し、考え事をしておりました」

「考え事?」

「はい……この後の、お嬢様のダンスレッスンが心配でして」

「そ、それは……筋肉痛は良くなったし、今日は大丈夫だと思うの!」

「やる気が失われていないのが、せめてもの救いでございますね」

「今日のダリアは意地悪ね」


 少し肩を落とされたヴェルヘルミーナ様に微笑み、私は籠の中のバラを一輪手に取る。その棘を爪で折って取り除きおえると、そっと美しい赤毛にその一輪を飾った。

 

 心配事は考え出したら切りがありませんね。

 

「お嬢様。お披露目まで三ヵ月です。完璧な淑女レディの姿を皆さまにお見せできるよう、私も尽力いたします!」


 今、私が出来る最善のことは、お嬢様をどこのご令嬢、ご婦人よりも美しく磨き上げることでしょう。

 ヴェルヘルミーナ様の笑顔をお守りできるよう、心して取り組まねばなりませんね。


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ここまでご覧くださいました皆様、ありがとうございます。

本作は“嫁入りからのセカンドライフ”コンテスト応募作となります。少しでもお気に召して頂けましたら、作品フォロー、☆評価などをお願いします。

また、応援コメントも、とても励みになっています。ありがとうございます!


お話の続き、第四章からはコンテストの結果が出た後にと考えています。

間が空いてしまいますが、お待ちいただけましたら幸いです。


2023/09/11 日埜和なこ

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継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします!! 日埜和なこ @hinowasanchi

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